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◇上忍の夢



 隣に座るのか、向かい合って座るのか。カウンターとテーブルと両方空いていたとしても、彼が選ぶのはいつもカウンター。俯きがちな顔がこちらを向いても、大抵は目が合ったなと思った瞬間に逸らされる。わざわざ声をかけてくるのだから、彼が抱いているのが好意なのは間違いないと思うのだが。よく分からんなと盃を傾けると、空になった頃合いにお銚子を持ち上げる。見ていないようで、実は全神経がこちらへ向いているらしい。ぎこちなく身体を動かす姿を見ると、何をそんなに緊張するのかと疑問が浮かぶ。俺の顔の大部分を覆う口布と額当て。僅かしか見えない俺の顔の為に右側に座るから、不自然なくらい左腕が縮こまっている。箸を持つ度に固まらなくてもぶつかったりしないよと思いつつ、ひょっとして触れ合うことすら嫌なのかと考えてしまったり。イルカ先生と過ごす時間はいつも疑問でいっぱいだ。

「今日の任務は早めに終わったみたいですね。班に慣れてきているのでしょうか」
 丸みを帯びた声で語るのは、彼の愛する元生徒たちのこと。恋人にかける声とは違う温かさを持っていて、本来は逆だろうになあと感じるが、あの子たちの話ならと納得できるから仕方がないのだ。
「うん。そうだね」
 短い返答に目元が緩む。穏やかに微笑む顔はとても幸せそうで、心なしか左腕の緊張も少し解けているような。
「あ、あの、もし良かったら今度皆で一楽へ行きませんか? 任務後は子供たちも腹が減ってるだろうし、たまにはいいかなって思うんですが」
「いいよ。あいつらも喜ぶでしょ」
 盃を握る手にぐっと力が入って口角が上がる。上気した頬は喜びを表していた。そのままこっちを向いてくれないだろうか、その頬を触ってみても許される? つと伸ばした手が薄桃色の頬に触れそうで、指先あとほんの数センチ、もう届く。





 暗闇の中で伸ばした手を呆然と見つめる。空に差し出した手の先はただの闇。あの後どうしたんだろうか。いや、そもそもあれは本当にあったことだったのか。彼を思うあまり見たただの夢とは思いたくなくて、そっと指先を動かしてみる。冷たい空気をなぞっても、指先に温もりや柔らかな肌の感触が甦ることはなかった。それでも手を下ろしたら、全てが消えてしまいそうで怖い。せめてこの手を伸ばした先が、闇でなければ良かったのに。頭上のカーテンへ視線を巡らせるが、一筋の光りさえない。朝はいつ来るのだろう。
2021/09/02(木) 17:00 三度目の恋でも COMMENT(0)
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