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 面倒臭いけど大事なお仕事。俺達内勤にとっては書庫整理はその筆頭だ。
今だけちょっと自分だけが積み重なった惨状は、目を背けたくなるほどだが人間都合良く出来ている。差し当たっての不具合がなければスルー出来てしまうのだ。
ただしその後始末に借り出された場合、恨み百倍と言ってもいい。

「巻物から始まる恋ってどうなんでしょうねえ」

 恋人の仕事を手伝ってくれるカカシさんはいい人。

「イチャパラではわりとあるあるなシチュなんですよ。こう、緊張状態下の恋、吊橋効果最高❤みたいに盛り上がってページを捲ったら文字通り目眩く」
「巻物みたく閉じられたらいいですねえ無駄口吐き出す口布の下」

 うふふと笑うとえへへと返ってきた。キュッとお口にチャックをして、また巻物の山のチェックに戻る。素直でよろしい。

「この箱の中身戻してもらえますか。そっち引き取ります」
「はーい。あと半分?」
「そんなに残ってません。三分の一……も無いか
な。…………優秀な恋人が手伝ってくれたんで」

 目を逸らして鼻傷をポリポリ。目の前の空気がぶわっと膨れ上がった気がする。里の誉、そんなに単純でいいのかよ。

「終わったら飲みに行きましょうね!それとも疲れたから甘いものがいい?」
「カカシさん食べないじゃないですか」
「優秀な恋人は愛する恋人の気持ちを尊重するものです」

 ご機嫌なにより。締まりのない顔を見られても知らんぞと言おうとして、ここには二人きりなのを思い出した。
そういえばこんな風に二人きりなのも久しぶりな気がする。もう少し甘えさせてやっても良かったかもしれない。ついついキツイ言葉を投げてしまうが、それは懐のでかいこの人への甘えだっていう自覚はあった。
口にすることはないけれど。

「甘いといえば、甘栗甘の新商品は暴力的な甘さでした。黒蜜三倍がけこってり生クリームとたっぷりあんこの爆弾白玉」
「すーごい聞くだけで甘そう。耳から溶ける」
「白玉一個がこう、こんくらいでかくて」
「うんうん」
「黒蜜を覆うようにぶわーっときなこが」
「うんうん。甘かった?」
「はい。すんげえ甘くて歯が軋むとはこのことかと」
「そう。で、誰と行ったの?」
「え」
「誰と、行ったの?」

 手に持った巻物をポンと放り投げてはキャッチする。ポン、ポン、と繰り返される音が自白を強要するリズムに聞こえてとても心臓が痛い。

「教え子と。久々に会ったので、お茶でもと」
「ふうん。久々ってことは、教え『子』も結構大きくなってた感じ?」
「えーっと、俺が教師になりたての頃だから」
「わあ立派な適齢期」
「いや、そういうんじゃないですよ。教え子ですよ?それも邪推の余地なんてありませんて。一対一でもないし」

 持っていた巻物を箱に戻しううんと咳ばらいを一つ。とっても嫌な予感に今度は胃がキュッとなった。

「ねえねえどう最近?うーんどこも一緒ね。新米ってこんなもんなのかなあ。もっとこう。分かるー!お前らには早すぎるとかさあ、分かるけど、分かるけどもよ?それで雑用ばっか回されてたらどうやって経験積みゃあいいのよ。チームの一員としてしっかりやらせてほしいなあ。それが怖いっていうのも分かるんだけど、やっぱり中忍になったんだし!実際どうこうっていうよりも、信頼されてなさが辛いな。あと一歩踏み込んでやりたいって言えないし、任せろって言ってもらえない。仕方ないって思う所もあるけど、やっぱり……。相手に任せていざって時は自分が、って見せてくれる人貴重なんだなって分かった。それが当たり前だと思ってたからなあ。あー初恋キラー?そう!あの時はなんで?って思ってたけど、今なら分かる。イルカ先生の抱擁力ヤバいわ。今、今欲しい!子ども相手だったからねえ。イ、イルカ先生は子どもだからとかじゃないと思うけど。あーあんたも初恋奪われた一人だもんね!久々に会いに行こうか!行こ行こ!先生ー久し振り!おー大きくなったなあ!ねえねえ先生聞いてよー。ん?どうした?あーそれー!何だよ(笑)先生のどうした?が聞きたかったの!ゆっくり聞いて欲しいなあ。いい?ねえ先生~。分かった分かった。甘いものでも食べに行くか。やったー!甘栗甘へ移動」

 下へ向けた人差し指と中指が交互に動き、トットッと巻物の上を移動する。……それは歩いているフリか?そうなのか?

「やっぱ会いにきて良かった。めっちゃ癒された。イルカ先生最高。ねー!なんだかんだいっても奢ってくれたし。励ましてくれたし。ここが見えてないんじゃないか?とか。さすが先生だよね。あーやめてー!明日から倍頑張るしかない。それ。あ、私ちょっと。え?一緒行く?ううん。先帰ってて。分かったじゃあまたねー。……先生!どうした?もう帰ったんじゃないのか。店に忘れ物か?ううん、そうじゃなくって、あの。あの。……どうした?私、また会いに来てもいいですか?先生に会いに来たい。ああ。いつでも待ってる。俺はあそこにいるからいつでもおいで。先生……!」
「……」
「てことがあったでしょ」
「今の話、九割俺が不在の場面の話だったと思うのですが。どうお答えすれば」
「この浮気者ー!!」
「わっちょっと!やめろ!」

 せっかく片付けた巻物をぽいぽい投げて来る。まるで子どもだ。想像力の逞しさと飛躍っぷりもまさに子ども、というか思春期大迷惑真っ只中あたりか。

「先生はいつだってみんなの先生だよね。俺は仕事中のあなたに張り付いてでも独り占めしたいのに」
「なるほど。下心ゆえの労働であったと」
「え」
「好意や愛ではないと」
「そうは言ってないでしょ」
「せっかく片付けたのに……」

 ビッと背筋を伸ばしたカカシさんは慌てて散らばった巻物を拾い始めた。せかせか動く両手を見ながら俺も巻物の選別へ戻る。

「気持ち分からなくもないですよ」
「そうかなあ」
「俺もみんなと一緒に巻物の中で、あなたが呼ぶのを待っていたいって思うから。巻物の中であなたの呼び声が聞こえるまでずっと、あなたのことだけを考えて待っているんだ」

 今は、部屋の中で待っている。二人だと狭いなと思うこともある部屋なのに、一人だと少し広いなと思う部屋の中で。
愛する人が自分だけのものであったらというのは、どうやったって抑えきれない欲求だろう。この人のように常に誰かから求められている人ならばなおさらだ。

「まあそんなことは……。どうしたんですか真っ赤になって」
「急にそんなこと言うからでしょう。先生は本当に罪な男ですね」
「大袈裟ですよ」
「大袈裟じゃない」

 耳まで赤くして黙々と巻物を片付ける。どうしようかなと天井を仰ぎ、広げていた巻物をまとめて新しい箱に放り込んだ。今日はもう無理。明日に回そう。

「終わり。それ片付けたら帰りましょう」
「でもまだ残ってるよ」
「明日にします。今日はもう無理。早く二人で帰りたい」
「先生って……。不意打ちずるい」
「そんなことありません。俺の愛はいつだって、こんもり盛った生クリームと十倍がけ黒蜜くらい甘いのに、あなたが見えてないんでしょう」
「普段は塩分百パーセントじゃないの」
「だからこそ中に閉じ込められた甘さがより際立つんじゃないですか。常時黒蜜をどぼどぼ溢れさせてるあなたには丁度いいでしょ」
「ほーんと先生って楽しい」
「同感です。カカシさんって楽しい」

 うふふと笑い合って最後の巻物をしまう。気の合う二人は手を取り合って。蜂蜜を流したような濃い金色の夕焼けを浴びながら家へと帰った。



2021/09/12
2024/12/31(火) 17:13 NEW! COMMENT(0)
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