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 大晦日ともなれば、狭い里の中にこれだけの人がいたのかと驚くほどの賑わいになる。八百屋でおせちの材料を選ぶ真剣な顔、肉屋でちょっといい肉を奮発をしたほくほくの笑顔、甘える子供の笑い声、威勢の良い魚屋の店主。商店街から溢れだす活気に気圧されて、のろのろと路地へ入り込んだ。強く握りこんだ拳を開いてぶらぶらと振る。ついでに大きく深呼吸。
「仕事だ仕事。しーごーとっ!!」
 大きく叫べばスッキリしただろうけど、まあ、そこは大人なので。ギリリと食い縛った歯の内側で唸るように絞り出した。心の中に渦巻いていたもやもやを吐き出したら、後に残るのはいよいよ避けられない本音だけ。今度は音量を絞るでもなく、本当に小さな呟きがポツリと落ちた。
「⋯⋯淋しい」
 うん、淋しいと思いながら路地を抜けて家へ帰る。

 一人で過ごす間は平気だった。淋しいのは当たり前。むしろ、自分にはないウキウキや喜びで満ちる中を歩くのは、楽しみでさえあったのだ。だけど今年は一人じゃないと思ってしまったから、余計寒さが身に染みる。
 二人で買い物にくるはずだった。年越しの蕎麦を買って、ちょっといい肴と酒を眺めながら新年を迎える予定だったのに、待ち合わせ場所に来たのは彼でなく一通の式。仕方ないと思う分別が憎らしい。大人しく家へ帰ろうとしたけれど、炬達の上が淋しくなったなと気づいたのが悪かった。カゴのみかんだけでも補充しようかなんて考えてしまったから、これ以上なく打ちのめされている。
 俯いて歩く爪先にふわりと冷たさが止まった。空を見上げれば綿のような雪がふわふわと落ちてくる。回れ右をして商店街へ駆け戻った。まずは酒屋でとっておきの酒を一瓶。次は肉屋で牛肉とコロッケ、魚屋でかまぼこをもらったら最後は八百屋へ飛び込んでみかん。両手いっぱいに荷物を抱えて、雪の中大門へと走った。
 陣中見舞いと称してコロッケを差し入れる。寒い詰所は、ほかのほかのコロッケの匂いでいっぱいになった。俺も一つ手に持って、齧りながら門の前に立つ。大晦日の夕方だ。ほとんどの忍は帰還している。多分、まだ戻ってきていないのは急な呼び出しを受けた彼くらい。
 二人で迎える新しい年の準備を、一緒にしたいと思っていた。よくあることとはいえダメになったのは淋しくて、思った以上に堪えている。でも来年の今頃も、俺達は一緒にいるのだ。去年は残念だったって言いながら、すき焼きにするかしゃぶしゃぶにするか悩む。乾杯はビールにするか、酒だけにするか相談しながら買い物をする。だから淋しいですなんて腐ってないで、ちゃんとやったぞって見せてやるんだ。これは、来年のお手本。

 もぐもぐとコロッケを食べながら門の外を見つめる。両手いっぱいの袋を見て、カカシさんはビックリするかもしれない。そしたら一回くらい、一人は淋しかったですって言ってみよう。俺もって言ってくれたら、冷たくなった手を温めあって帰る。仕方ないって言ったら、この荷物は全部持たせよう。
「よし、決めた」
 唇についたコロッケの油をぺろりと舐めとる。降り始めたばかりの雪は積もるまでまだ遠い。見慣れた銀髪を探して、森の奥へ目を凝らした。早く帰ってきてほしい。俺とみかんが埋まる前に。



2020/12/31
2021/08/29(日) 02:17 ワンライ COMMENT(0)
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