◆各種設定ごった煮注意

解説があるものは先にご確認ください
 キンと張った空気は一息ごとに胸を刺す。気持ち良いと思えたのは最初の十分までで、それ以降は徐々に辛さが沁みてくる。湯気を上げるおでん、じんわり指先を温める盃に人肌の酒で少しずつ体を慣らしていって。頭のてっぺんから腹の底までポカポカになったら、熱々のラーメンを食べる。想像するだけで堪らんなとまた暗い道の先を見つめた。約束した時間はとっくに過ぎていて、まあしょうがないよなと思うけど諦めて帰るにはちょっと惜しい。夜空にくっきりと浮かぶ星達が一生懸命照らしてくれるので、まだ頑張れるだろって気分になってしまうのだ。今日だけのことじゃない。俺達の約束は、いつも半分だけ。

「出来るだけ急ぐけど、間に合わなかったら帰ってね」
「多分今日は行けるけど、遅れたら待たないで」
「大丈夫だったのにごめんね」
「次は必ず」

 お互いそれなりの歳で、仕事をしていればイレギュラーは当たり前。とくに彼はそれを前提としているような所がある。約束の後ろに「もしも」の謝罪がつくようになったのは、いつからだっただろう。俺はちゃんといつも笑っていたつもりなんだけど。

希望をもっても期待はしないこと

 彼の告白を受け入れて最初に決めた自分へのルールは、ずっと心の真ん中に置いてある。約束が成立しないのはもう慣れっこだ。拗ねたり怒ったりの代わりに、好きなものを好きなだけ。トッピング全部載せのラーメンだったり、秘蔵の酒だったり、レンタルショップで借りた映画を三本一気見したりとか。二人で過ごすはずだった時間を惜しんでいるのは、自分だけじゃないと知っているから平気。
 ただ今日は冷気と星があまりにも綺麗だったから、少し立ち去り時を逃してしまったのだ。指先を口元に持ってきて息を吹きかける。冷たさが酷いと逆に熱く感じるのは何でだっけ。じんじんと痛む指先は、白く染まった吐息でを浴びて瞬間、温かい。
「先生、まだいたの」
 ふわりと上空から飛んできた言葉に目を上げると木の上から恋人が降ってきた。
「おかえりなさい」
「遅れるかもってい言ったじゃない。こんな寒い所で待ってないで、先に帰ってねって言ったのに」
「なんとなく。星も綺麗だったし、冷たい空気が気持ち良くて」
「もう」
 俺の指先を取ってカカシさんがぎゅうっと握りしめる。全力で駆けてきたのか、ずっと外にいたはずなのに手のひらは温かい。温まった指先がむずむずして、心までかゆくなってきた。温かい手のひらから抜けだそうと引っ張ると、むっとした顔が近づいた。
「何?イヤなの」
「そうじゃないんですけど」
「じゃあ何」
「んー……。ほら、少し悔しいみたいな?」
「悔しい?」
「俺だってずっとカカシさんを待ってたのに、温めてもらえるのはこいつだけかよ、なーんて」
 ハハハと笑ってみたけど、誤魔化すにも苦しすぎた。だけどカカシさんの手が温かくて、俺愛されてるのかなって思ったとか言えないだろ。
 困ったなーと見つめていれば、眉間の皺がもっと深くなった。
「それを言うなら俺の方が悔しいよ。この指先、先生が待ってる間あいだ何回温めてもらったの?本当ならあなたの唇が触れるのは指先じゃなくて俺の口だったはずなのに。許せん」
 無茶苦茶言うなあと呆れてしまった。指先に嫉妬ってどうかしている。しかめ面のまま指先を睨んでいたカカシさんは、不意に口布を下ろすと俺の指先を持ち上げてキスをした。
「とりあえずこれで勘弁してあげる」
 満足そうに笑う顔に照らされて、胸の奥へ火がともった。



2020/12/27
2021/08/29(日) 02:15 ワンライ COMMENT(0)
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