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◇好きな人を呼ぶ

 誰かを思って待ち伏せする日が来るなんて思わなかった。飲みに行く約束は何度もしたけれど、今日はそういうんじゃない。先生が来るのを待つワクワクも、何を話そうかとドキドキすることも、二人の間には約束さえなかった。ポケットに突っ込んだ指先が緊張で冷たいのだけは同じだが、いつものように彼の顔を見た瞬間、来てくれた喜びで冷えた指先が温まることはないだろう。
 来て欲しいけれど来て欲しくない。逃げ出しそうな体を留まらせようと、頭の中で巡る記憶に端緒を求め縋り付く。きっと大丈夫だ。俺が見てきた彼の中に、そう思えるものがあるはずだ。繰り返し思い浮かべる顔を待って校庭の端から校舎を見上げる。

 幾度かの迷いを振り切った時、校舎の入り口に人影が現れた。西日に照らされる校舎から出て来た人影が、少しずつ大きくなる。はっきりと顔が見える場所まで近づくと歩みが止まった。
「カカシさん?約束してましたっけ」
 無言で首を振り、まだ少し距離のある彼へと向き合う。傍へと進もうとした足は頑として動かず、ここでと腹を決めた。約束はなくとも伝えたいことがある。どうしても、あなたへ告げたい言葉が。
「先生に、言いたい事があるので聞いて頂けますか」
「?はい」
「あなたのことが、好きです。俺と付き合ってもらえませんか」
 校庭の端で振り絞った言葉は、確かに彼の元へと流れていった。はいかいいえか。返事を待つ身には、一秒が果てしなく長く感じられる。全身に響き渡る心臓の音を聞きながら、茜色の光に照らされた先生の口が動くのをじっと見つめる。
「返事をしたいのですが」
「お願いします」
「じゃあ、もっとこっちへ来てもらえませんか。俺の言葉が風に飛ばされない距離まで近づいてください」
 一歩踏み出したら、口から心臓が飛び出してしまいそうなのに。このままではダメなのかと張り付いた足を見る。
「カカシさん、もっと近くへ。ねぇ」
 赤く染まった顔と呼びかけられた声に甘さを感じて、固まる足を動かした。一歩進むごとに心臓が音を変える。鈍く重い響きが軽く早鐘のように鳴り始めて、期待を奏でだした。手を伸ばせば掴まえられるくらいに彼が近くなる。
「俺も、あなたの事が好きです。いつもこのくらい傍にいて」
 茜色に染まった先生が手を伸ばし、俺の手を取る。温かい手を強張る指先でしっかりと握り締めた。
2021/10/12(火) 01:56 お題もの COMMENT(0)
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