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◇楽しそうに

 どんな人かよく知らなかった。噂ってのは悪いものばかりが耳に入るのもので、あいつらをちゃんと見てくれるのか心配ばかりが募る。初めての任務の日は、報告書が出されるまで一日中頭から離れなかったものだ。それも今となっては笑い話。
「なあカカシせんせー、ラーメン!」
「お前はホントそればっかりね。まずはこっちが先でしょ」
「はい、結構です。お疲れ様でした」
「やったー!俺大盛りチャーシューメン!」
 ぴょこぴょこ跳ねる黄色い頭が入り口へすっ飛んでいった。まったくアイツはと頭を抱えていると、密やかな笑い声が落ちてきて顔を上げる。
「すみませんカカシ先生」
「いーえ。まだまだ元気があるみたいだから、ラーメンの前に修行してもらおうかな。ねぇ?」
 優しく撓んだ瞳に見つめられて、ほんの少し心臓が跳ねた。



◇つらそうに

 木の上でのんびりと昼寝する姿も、子ども達を連れて歩く姿も、間違いなくこの人だ。けれど、いま目の前にある顔がカカシさんの多くを占めている気がする。そうだと言い切れるほど親しくはないけれど、そうでしょう?と呼びかけるくらいは許されると思っていた。
「いい?」
「あ、はい。結構です。ゆっくりお休みになってください」
「ゆっくりねぇ……」
「お疲れでしょうし、明日は待機に」
 重い息を吐いて頭をかく姿に何か言葉を、と思ってしまった。そんな必要は無いのだと気づいたのは、軋む音が聞こえた時。カウンターに置かれた手は、思った以上に力が込められていた。二人しかいない深夜の受付。静かだった空気がぐっと深くなる。
「任務だよ。疲れはするけどそれだけだ。報告書の文字にそれ以上の意味を持たせて何がしたい?ここに座ってるあんたが俺にどうしてくれるんだ。言ってみろ」
「お、俺は」
「なぁ」
 低い響きに息を飲む。迂闊な自分に腹を立ててももう遅い。ただ歯を食いしばって顔を上げ続けることしか出来なかった。
「……お疲れ様」
 マントを翻して去る背中に体の力を抜く。強く握ったせいで手のひらに爪の痕が残っていた。ひと言残していったのも、彼なのだ。全てがあの人だから。
 報告書を片付けようとした指先が震えていた。



◇嬉しそうに

 夕陽を浴びながら光る銀髪が綺麗だなと思った。ぼんやり眺める俺に気づき、よりかかっていた門柱から体を起こすと小走りでやってくる。
「お疲れ様でした。もう大丈夫ですか?」
「はい。お待たせしてすみませんでした」
「急にお誘いしたのは俺だから。頷いてもらえて良かったです。せ、先生は何が好きですか」
「えーっと……一楽、は無しですよね?」
「あ、ああ……」
 晩飯を一緒にと誘われたが、きっと飲むつもりだったのだろう。一楽にもビールくらいはあるが、思惑とは違ったらしい。見るからにしょげた様子で言葉を探す姿に、腹の底がくふくふする。
「焼き鳥はどうですか。そろそろ食べたいなーと思ってて」
「いいですね!焼き鳥食べたいです。美味しいですもんね」
「ええ」
「ねぇ」
 一楽と言った時には固まっていた顔が、生き生きと輝きだした。尻尾をぶんぶん揺らすでかいわんこみたいに見えて、笑いが込み上げる。
「先生?」
「いえ、行きましょう。焼き鳥ですよね?」
「はい!」
 これまたいいお返事が返ってきて、今度こそ顔が崩れた。
2021/10/13(水) 10:29 お題もの COMMENT(0)
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