◆各種設定ごった煮注意
解説があるものは先にご確認ください
天才の考えは凡人には理解できない。世間でよく言われることだが、最近その意味をまざまざと実感させられている。ふいと周囲を見回せば同じような視線が一つ二つ。それ以外は見ないフリをしているのか明後日の方を向いており、その賢明さに拍手を送りたい。
「先生」
よそ見をしている間に距離を詰めた左手が、ぺろんとイルカの尻を撫でる。即反応したイルカが思い切り振りかぶった。
「このド変態がっ!」
ばっちぃーん!とはたけ上忍の頬から派手な音が鳴る。既に見慣れた景色だ。あーあと憐れむような視線が飛び交う中、俺は少し複雑な思いでへらりと笑う覆面を見守る。多分、どれだけ待ってもあなたの望む言葉は出てきませんよと思うけど、俺が言うのはお節介も甚だしい。早く自分で気づいてくれないだろうか。
セクハラという柔らかい表現に包まれたはたけ上忍の性犯罪は、ここ数週間続いている。みな、やっぱり天才の考えることは分からんとか何かの罰ゲームだろうと言っているけれど、真相はもっと単純で哀しいほどに純粋な勘違いから。たまたまの巡り合わせで知ってしまった自分を、本当に間の悪い男だと思っている。知らなきゃ俺だって、あーあと眺める一人でいられたのだ。だけど偶然はコーヒーの匂いと共に流れてきてしまった。
その日俺は、午後の眠気を覚ますべく硬貨を弾きながら自販機へ歩いていた。コーヒーで眠気を覚ましつつやっつける書類があと幾つだっけなんて考えながら歩いていると、ボソボソと話し声が聞こえた。先客かと思いつつ進んでいた足が、溜息まじりの高い音に止まる。話し声ならスルーするけど、空き缶をテーブルに叩きつける音を聞いても入っていけるほど面の皮は厚くない。どうしようかと身を潜めて聞き耳を立てたのは、もう性だ。
「あんたね、理解してないでしょ。イルカだからこれで済んでるのよ」
「分かってるよ。先生だからだよね」
「そこで笑いが出るのが分からん」
「はっきり言うけどこれ、非難よ。明らかに否定してるのよ。懲罰くらってもおかしくないんだから」
「うん?他の人ならそうかも」
「「イルカでも」」
「……ん~?」
猿飛上忍と夕日上忍に詰め寄られて、はたけ上忍は腕を組んで考え込んでいる。良かった、上忍間の罰ゲームとかじゃなさそうだなと一安心したが、セクハラの謎は深まった。なぜはたけ上忍はイルカの尻を撫で続けるのか、そこら辺は謎のままだ。三人の視線を集めたまま、ポーチから本を取り出すとペラペラと捲り始めた。きりりと細い眉を吊り上げて、夕日上忍が本を取り上げる。
「ちょっと」
「違う違う。そこにね、書いてあるの」
「何が」
「きっかけはラッキースケベでもそれがラブ♡ハプニングになって、ただの顔見知りだったはずのユリコとサトルは」
「あー……」
猿飛上忍が深い深い溜息を吐いた。音が出ないように俺も吐いた。夕日上忍は、テーブルに本を叩きつけた。
「フィクションと現実を混同するな」
「でも先生、前より俺が近くにいるとこっちを見てくれるようになったし」
「当たり前だろ」
「警戒してんでしょ」
「ええ~……そうかなあ。先生は違うと思う」
「お前、イルカが尻じゃなくて全身を撫でてくれとか言い出すと思ってんのか」
「先生がそんなこと言うわけないでしょ!アスマ変態」
「変態は尻を撫でるあんたの方よ。その本ならあってもおかしくない展開だけど」
「お前ら勘違いしてない?イチャイチャシリーズは恋愛小説です。ユリコはサトルの気持ちに気づいた時、手を握ってお話しましょうって言うんだよ。体じゃなくて私に語りかけてって。じーんと来ない?」
「セクハラがなきゃね」
「無言で付きまとうとかじゃダメだったのか」
「それはそれで問題よ」
二人ははたけ上忍を放置して、安全かつ許容範囲内のストーカーについて話している。どれだけ話し合ってもアウトじゃなかろうかと、蚊帳の外に置かれたはたけ上忍を見た。テーブルから取り上げたイチャイチャビギナーズを見つめる眼は恐ろしいほどに曇りが無く、腹の底が冷える。いつか恋に繋がるかもと純粋に信じ込んで、イルカの尻を撫でているのか。そうかそうかと後退りして密かに姿を消した。
あのやりとりの後でこれなのだから、二人の説得は失敗したのだろうなあ。知っていて眺めている俺も共犯と言えるのかもしれない。
どんな物事であっても、興味を持って見ていれば違う面が浮かんでくる。当事者のもう片方、イルカについてだ。気弱なくノ一とか太鼓持ちタイプならともかく、イルカはこういう時絶対に引かないヤツだ。上忍だって関係なくどういうことだと立ち上がる。当然今回もそうなっておかしくないのに、イルカがビンタ一発ではたけ上忍の奇行を見逃しているのは何故か。気になったら聞かずにはいられない。
「え」
「から揚げ一個分白状しろ」
「それでかよ~。お前せこっ!」
「対価を払ったんだから褒めろよ」
苦笑いするイルカの皿にもう一個から揚げを載せる。ほら、と見れば大人しく口に入れた。交渉成立だ。俺もから揚げを食べながら、イルカの言葉を待った。モグモグと動いていた口から喉がごっくんと鳴り、茶を一口。
「何ていうか……こう、いつかな?って」
「いつ?」
「振り返った時のカカシ先生の目が、ワクワクしてるんだよ。何かを待ってるような、期待してるような……。ただ嫌がらせって感じじゃ無いから気になる」
「聞かないのか」
「ばっちんとぶっ叩いた相手に聞けるかよ」
「じゃあ殴らなきゃいいじゃん」
「それは愛情表現?」
にししっとイルカが笑う。イルカのビンタは超一級品。顔面のほとんどを覆面で覆っているのに、僅かな隙間にくっきりと赤い指の後を残すように張り飛ばしている。一番面積を取っている目を避けつつ自分の痕跡を残すのはなかなかの業だ。密かにこいつすげえなと思っている。
「プレイか」
「おい」
はたけ上忍のピュアなボディランゲージは、深層部分でイルカにしっかり届いているらしい。良かったですねと言っていいのか非常に迷う。絶対この二人以外には通用しねえだろ。
「悟った。お前も早く来い」
「何だ?」
首を傾げるイルカの皿にポテトサラダを少し乗せてやった。から揚げはもうやらん。
まだ午後も早い時間だというのに空が薄暗い。雨が降ったらやだなーと窓の外を眺めながら歩いていると、同じようにじっと窓の外を見つめる後ろ姿を見つけた。上げかけた手を下ろして声をかける。
「イルカ」
「ああ、お前もこれから?」
「ん。雨降らないといいな」
「うん」
「四日か?」
「五日」
ふいと視線をそらして歩き出すイルカの後を追う。単独任務に出たはたけ上忍が消息を絶って五日経った。早ければ捜索隊がもう里へ戻ってくる頃だ。受付なんて放って大門で帰りを待ちたい気分だろう。意味不明のセクハラは二人の間をしっかりと繋げることに成功したが、問題はその片方が不在なことだ。もしイルカが自分の気持ちを整理しても、伝える相手がいなければはたけ上忍が望んでいた展開にはならない。
あなたが出していた純粋な声に、イルカはちゃんと気づきましたよ。
呼びかけてはみるが、ただの独り言だ。
「今日飲みに行くか」
「いや俺は……」
足を止めたイルカが突然走り出した。後ろを気にせず廊下を走り抜ける全力の背中を追えば、受付へ向かうのとは反対の角を曲がり本部棟の外へ飛び出す。暗い空の下ではバタバタと人が走り回っていた。
「急げ!」
「すぐ運びます、もう少しです!」
「ん……」
忙しない人々の中心、まだ血の流れる腕をだらりと垂らしたまま負ぶさっているのは銀髪の男。帰ってきたのかと安堵するには空気が悪い。自力で歩けない状態なのかと青ざめた。
「せんせ?」
気配を感じたのか大人しく負ぶわれていた男が体を揺すり、足を地に着けた。ゆらゆらと揺れながら立ち竦むイルカの前に立ち、手を上げる。いつもならイルカの尻を撫でていたはずの手は伸びきらず、腹の前で握っていた拳を軽く擦った。場所が違うと気づいた手は宙に浮く。
「あー……よく、見えなくて」
多分、笑ったのだと思う。でも、大きく腫れ上がった目蓋に覆われてどんな表情をしたのかは分からなかった。ふらふら揺れる体は今にも倒れそうで、周りにいる者はみな引き攣りながら何をやっているのだとじりじりしながら見ている。こんな時にまでと喉元まで出かかったが、はたけ上忍の日常はいつも「こう」で、だから今もする必要があったのかもしれない。そんなのは片方の勝手な言い分だと感じたのは、きっと俺が外にいるから。
「届かないなら、手を握ればいいでしょう」
絞り出すようなイルカの声に、宙に浮いていた手が少しだけ動いた。ぐっと握られた拳へ添えられた手には本体までくっついてきて、一瞬イルカに重なったかと思うとそのまま滑り落ちていった。
「はたけ上忍!」
「医療忍!」
周りを囲んでいた人々が一斉に集まってあっという間にはたけ上忍を運んで行く。イルカは一言も発さずに、血のついた拳を握り締めてずっと立っていた。
空になった弁当箱を横に置いて本を取り出す。キリの良い所まで読んでしまいたい。ぽかぽかと温かい陽射しは読書に最適だ。昼休憩はあと何分だと時計を見ると、ちょうど同じように時計を見上げる後ろ姿が目に入った。今日はたしか午前中だけだったはず。これから昼飯かと眺めていると、イルカを呼ぶ声が後ろから通り過ぎていった。
「先生」
呼びかけに振り向くイルカの手を自然に上から包みこむ。隣に立った男と話をしている間に包まれていた手が動き、いつの間にかぴたりと隙間無く組み上がっていた。本当に、時に体は言葉よりも雄弁だ。
これもめでたしめでたしなのかなと思いつつ、読みかけのイチャイチャビギナーズを開いた。
「先生」
よそ見をしている間に距離を詰めた左手が、ぺろんとイルカの尻を撫でる。即反応したイルカが思い切り振りかぶった。
「このド変態がっ!」
ばっちぃーん!とはたけ上忍の頬から派手な音が鳴る。既に見慣れた景色だ。あーあと憐れむような視線が飛び交う中、俺は少し複雑な思いでへらりと笑う覆面を見守る。多分、どれだけ待ってもあなたの望む言葉は出てきませんよと思うけど、俺が言うのはお節介も甚だしい。早く自分で気づいてくれないだろうか。
セクハラという柔らかい表現に包まれたはたけ上忍の性犯罪は、ここ数週間続いている。みな、やっぱり天才の考えることは分からんとか何かの罰ゲームだろうと言っているけれど、真相はもっと単純で哀しいほどに純粋な勘違いから。たまたまの巡り合わせで知ってしまった自分を、本当に間の悪い男だと思っている。知らなきゃ俺だって、あーあと眺める一人でいられたのだ。だけど偶然はコーヒーの匂いと共に流れてきてしまった。
その日俺は、午後の眠気を覚ますべく硬貨を弾きながら自販機へ歩いていた。コーヒーで眠気を覚ましつつやっつける書類があと幾つだっけなんて考えながら歩いていると、ボソボソと話し声が聞こえた。先客かと思いつつ進んでいた足が、溜息まじりの高い音に止まる。話し声ならスルーするけど、空き缶をテーブルに叩きつける音を聞いても入っていけるほど面の皮は厚くない。どうしようかと身を潜めて聞き耳を立てたのは、もう性だ。
「あんたね、理解してないでしょ。イルカだからこれで済んでるのよ」
「分かってるよ。先生だからだよね」
「そこで笑いが出るのが分からん」
「はっきり言うけどこれ、非難よ。明らかに否定してるのよ。懲罰くらってもおかしくないんだから」
「うん?他の人ならそうかも」
「「イルカでも」」
「……ん~?」
猿飛上忍と夕日上忍に詰め寄られて、はたけ上忍は腕を組んで考え込んでいる。良かった、上忍間の罰ゲームとかじゃなさそうだなと一安心したが、セクハラの謎は深まった。なぜはたけ上忍はイルカの尻を撫で続けるのか、そこら辺は謎のままだ。三人の視線を集めたまま、ポーチから本を取り出すとペラペラと捲り始めた。きりりと細い眉を吊り上げて、夕日上忍が本を取り上げる。
「ちょっと」
「違う違う。そこにね、書いてあるの」
「何が」
「きっかけはラッキースケベでもそれがラブ♡ハプニングになって、ただの顔見知りだったはずのユリコとサトルは」
「あー……」
猿飛上忍が深い深い溜息を吐いた。音が出ないように俺も吐いた。夕日上忍は、テーブルに本を叩きつけた。
「フィクションと現実を混同するな」
「でも先生、前より俺が近くにいるとこっちを見てくれるようになったし」
「当たり前だろ」
「警戒してんでしょ」
「ええ~……そうかなあ。先生は違うと思う」
「お前、イルカが尻じゃなくて全身を撫でてくれとか言い出すと思ってんのか」
「先生がそんなこと言うわけないでしょ!アスマ変態」
「変態は尻を撫でるあんたの方よ。その本ならあってもおかしくない展開だけど」
「お前ら勘違いしてない?イチャイチャシリーズは恋愛小説です。ユリコはサトルの気持ちに気づいた時、手を握ってお話しましょうって言うんだよ。体じゃなくて私に語りかけてって。じーんと来ない?」
「セクハラがなきゃね」
「無言で付きまとうとかじゃダメだったのか」
「それはそれで問題よ」
二人ははたけ上忍を放置して、安全かつ許容範囲内のストーカーについて話している。どれだけ話し合ってもアウトじゃなかろうかと、蚊帳の外に置かれたはたけ上忍を見た。テーブルから取り上げたイチャイチャビギナーズを見つめる眼は恐ろしいほどに曇りが無く、腹の底が冷える。いつか恋に繋がるかもと純粋に信じ込んで、イルカの尻を撫でているのか。そうかそうかと後退りして密かに姿を消した。
あのやりとりの後でこれなのだから、二人の説得は失敗したのだろうなあ。知っていて眺めている俺も共犯と言えるのかもしれない。
どんな物事であっても、興味を持って見ていれば違う面が浮かんでくる。当事者のもう片方、イルカについてだ。気弱なくノ一とか太鼓持ちタイプならともかく、イルカはこういう時絶対に引かないヤツだ。上忍だって関係なくどういうことだと立ち上がる。当然今回もそうなっておかしくないのに、イルカがビンタ一発ではたけ上忍の奇行を見逃しているのは何故か。気になったら聞かずにはいられない。
「え」
「から揚げ一個分白状しろ」
「それでかよ~。お前せこっ!」
「対価を払ったんだから褒めろよ」
苦笑いするイルカの皿にもう一個から揚げを載せる。ほら、と見れば大人しく口に入れた。交渉成立だ。俺もから揚げを食べながら、イルカの言葉を待った。モグモグと動いていた口から喉がごっくんと鳴り、茶を一口。
「何ていうか……こう、いつかな?って」
「いつ?」
「振り返った時のカカシ先生の目が、ワクワクしてるんだよ。何かを待ってるような、期待してるような……。ただ嫌がらせって感じじゃ無いから気になる」
「聞かないのか」
「ばっちんとぶっ叩いた相手に聞けるかよ」
「じゃあ殴らなきゃいいじゃん」
「それは愛情表現?」
にししっとイルカが笑う。イルカのビンタは超一級品。顔面のほとんどを覆面で覆っているのに、僅かな隙間にくっきりと赤い指の後を残すように張り飛ばしている。一番面積を取っている目を避けつつ自分の痕跡を残すのはなかなかの業だ。密かにこいつすげえなと思っている。
「プレイか」
「おい」
はたけ上忍のピュアなボディランゲージは、深層部分でイルカにしっかり届いているらしい。良かったですねと言っていいのか非常に迷う。絶対この二人以外には通用しねえだろ。
「悟った。お前も早く来い」
「何だ?」
首を傾げるイルカの皿にポテトサラダを少し乗せてやった。から揚げはもうやらん。
まだ午後も早い時間だというのに空が薄暗い。雨が降ったらやだなーと窓の外を眺めながら歩いていると、同じようにじっと窓の外を見つめる後ろ姿を見つけた。上げかけた手を下ろして声をかける。
「イルカ」
「ああ、お前もこれから?」
「ん。雨降らないといいな」
「うん」
「四日か?」
「五日」
ふいと視線をそらして歩き出すイルカの後を追う。単独任務に出たはたけ上忍が消息を絶って五日経った。早ければ捜索隊がもう里へ戻ってくる頃だ。受付なんて放って大門で帰りを待ちたい気分だろう。意味不明のセクハラは二人の間をしっかりと繋げることに成功したが、問題はその片方が不在なことだ。もしイルカが自分の気持ちを整理しても、伝える相手がいなければはたけ上忍が望んでいた展開にはならない。
あなたが出していた純粋な声に、イルカはちゃんと気づきましたよ。
呼びかけてはみるが、ただの独り言だ。
「今日飲みに行くか」
「いや俺は……」
足を止めたイルカが突然走り出した。後ろを気にせず廊下を走り抜ける全力の背中を追えば、受付へ向かうのとは反対の角を曲がり本部棟の外へ飛び出す。暗い空の下ではバタバタと人が走り回っていた。
「急げ!」
「すぐ運びます、もう少しです!」
「ん……」
忙しない人々の中心、まだ血の流れる腕をだらりと垂らしたまま負ぶさっているのは銀髪の男。帰ってきたのかと安堵するには空気が悪い。自力で歩けない状態なのかと青ざめた。
「せんせ?」
気配を感じたのか大人しく負ぶわれていた男が体を揺すり、足を地に着けた。ゆらゆらと揺れながら立ち竦むイルカの前に立ち、手を上げる。いつもならイルカの尻を撫でていたはずの手は伸びきらず、腹の前で握っていた拳を軽く擦った。場所が違うと気づいた手は宙に浮く。
「あー……よく、見えなくて」
多分、笑ったのだと思う。でも、大きく腫れ上がった目蓋に覆われてどんな表情をしたのかは分からなかった。ふらふら揺れる体は今にも倒れそうで、周りにいる者はみな引き攣りながら何をやっているのだとじりじりしながら見ている。こんな時にまでと喉元まで出かかったが、はたけ上忍の日常はいつも「こう」で、だから今もする必要があったのかもしれない。そんなのは片方の勝手な言い分だと感じたのは、きっと俺が外にいるから。
「届かないなら、手を握ればいいでしょう」
絞り出すようなイルカの声に、宙に浮いていた手が少しだけ動いた。ぐっと握られた拳へ添えられた手には本体までくっついてきて、一瞬イルカに重なったかと思うとそのまま滑り落ちていった。
「はたけ上忍!」
「医療忍!」
周りを囲んでいた人々が一斉に集まってあっという間にはたけ上忍を運んで行く。イルカは一言も発さずに、血のついた拳を握り締めてずっと立っていた。
空になった弁当箱を横に置いて本を取り出す。キリの良い所まで読んでしまいたい。ぽかぽかと温かい陽射しは読書に最適だ。昼休憩はあと何分だと時計を見ると、ちょうど同じように時計を見上げる後ろ姿が目に入った。今日はたしか午前中だけだったはず。これから昼飯かと眺めていると、イルカを呼ぶ声が後ろから通り過ぎていった。
「先生」
呼びかけに振り向くイルカの手を自然に上から包みこむ。隣に立った男と話をしている間に包まれていた手が動き、いつの間にかぴたりと隙間無く組み上がっていた。本当に、時に体は言葉よりも雄弁だ。
これもめでたしめでたしなのかなと思いつつ、読みかけのイチャイチャビギナーズを開いた。
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