◆各種設定ごった煮注意
解説があるものは先にご確認ください
生ぬるい夜風が中途半端な自分を表しているようで身に沁みる。輝くほどの満月でもなく新月の闇夜でもなく、ビミョーに雲が浮かぶ夜。記憶に残るでもないごくありふれたこの空を、俺は一生忘れられないだろうなと思った。
きっと先生の家に行くのは今日が最後。俺が正式に火影になると告げてから、二人の距離はどんどん離れていった。お互い里の為と忙殺される中でもなんとか時間を捻り出せたのは、独り身の気軽さゆえ。護衛がつく身になれば自然と監視と束縛の度合いは増し、彼に会いに行く時間などそう取れはしないだろう。すぐそこにある自分の未来を想像して、浮かんだのは一つの希望だった。
――彼と俺が、言葉に出来る関係であったなら。
それなりに親しい仲として飲みに行くのはもちろんのこと、家飲みからの寝落ちでお泊まりだって気兼ねせず言い出せる間柄だ。気をつかわなさすぎて全く脈が無いと諦めていたけれど、ひょっとしてひょっとしたらなんて奇跡が起こってもよいのではないか。何しろ、世界中が信じられないような出来事を経験したばかりなのだ。彼の人生観も変わったかもしれない。誰でもいいから傍にいてくれと思うくらいには。
後ろ向きな希望を胸に彼の家へお邪魔して、俺の就任の話もして、二人の関係も一歩先へと告げようとした矢先、彼の口から飛び出した言葉に全てを飲み込んだ。
「おめでとうございます。じゃあこれが最後の晩餐ですね!」
あははと笑う先生は、かんぱーいと言って冷めた焼き鳥の串を掲げた。じゃあその前に秘めた思いを告白、なんてことまで期待してなかったけど、淋しいですねくらいは言って欲しかった。いじましく「忙しくなりそうです」なんて添えたのが悪かったのか。でも、そこまで言った方が「だからこそ一緒にいられる関係になりたい」と言い出しやすいと思ったのだ。
結局、屈折した悪足掻きは成就せず。何事も素直が一番だとつい最近思い知ったばかりだったはずなのに、この年ではそうもいかない。必要なことが分かっていても、実行するには色々と己の建前を吹っ飛ばす必要があった。俺らしく失敗したっていう、よくある話。
ため息をついて頭をガリガリ搔いていたら、ふといつもと感触が違うことに気がついた。頭へやっていた手を見ると、必ずはめているはずの手甲が無い。先生の家で外したまま忘れてきたようだ。以前よりも平穏な時間を長く過ごしているとはいえ、とんだ怠慢だ。むしろ、どれほどショックだったのだと言うべきか。
「最後まで締まらないねえ」
剥き出しの両手をポケットに突っ込んで来た道を戻り始めた。
ついさっき最後だと笑い合った人の家へ戻ってきた。ばつの悪さを誤魔化すように一度咳払いをして軽くドアをノックする。部屋の明かりはついたまま、中にいるはずの先生からは返答が無い。もう一度軽くノックをして待ってみたがやはり無音のままなので、そっとノブを回してみた。抵抗なく回ったノブに首を傾げながらドアを開ける。暗い廊下を歩いて行くと、寝室から音がした。反射的に気配を殺し、開けっぱなしの扉から覗き見る。先生は暗い部屋の真ん中で、顔にアンダーを押し当てていた。顔を上げてじっと両手の中を見つめると鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。深く息を吸い込む音が聞こえてきて、全身が震えるくらい大きな音で心臓が鳴った。ばくんと一跳ねした心臓がどくどくと早い鼓動を刻み始める。
「⋯⋯いつまで残ってるかな」
体を揺らす衝撃の中で小さな呟きが響く。両手で掻き抱くアンダーにポツリと落ちる光を見て、湿る手のひらを握り込んだ。
2021/06/06
きっと先生の家に行くのは今日が最後。俺が正式に火影になると告げてから、二人の距離はどんどん離れていった。お互い里の為と忙殺される中でもなんとか時間を捻り出せたのは、独り身の気軽さゆえ。護衛がつく身になれば自然と監視と束縛の度合いは増し、彼に会いに行く時間などそう取れはしないだろう。すぐそこにある自分の未来を想像して、浮かんだのは一つの希望だった。
――彼と俺が、言葉に出来る関係であったなら。
それなりに親しい仲として飲みに行くのはもちろんのこと、家飲みからの寝落ちでお泊まりだって気兼ねせず言い出せる間柄だ。気をつかわなさすぎて全く脈が無いと諦めていたけれど、ひょっとしてひょっとしたらなんて奇跡が起こってもよいのではないか。何しろ、世界中が信じられないような出来事を経験したばかりなのだ。彼の人生観も変わったかもしれない。誰でもいいから傍にいてくれと思うくらいには。
後ろ向きな希望を胸に彼の家へお邪魔して、俺の就任の話もして、二人の関係も一歩先へと告げようとした矢先、彼の口から飛び出した言葉に全てを飲み込んだ。
「おめでとうございます。じゃあこれが最後の晩餐ですね!」
あははと笑う先生は、かんぱーいと言って冷めた焼き鳥の串を掲げた。じゃあその前に秘めた思いを告白、なんてことまで期待してなかったけど、淋しいですねくらいは言って欲しかった。いじましく「忙しくなりそうです」なんて添えたのが悪かったのか。でも、そこまで言った方が「だからこそ一緒にいられる関係になりたい」と言い出しやすいと思ったのだ。
結局、屈折した悪足掻きは成就せず。何事も素直が一番だとつい最近思い知ったばかりだったはずなのに、この年ではそうもいかない。必要なことが分かっていても、実行するには色々と己の建前を吹っ飛ばす必要があった。俺らしく失敗したっていう、よくある話。
ため息をついて頭をガリガリ搔いていたら、ふといつもと感触が違うことに気がついた。頭へやっていた手を見ると、必ずはめているはずの手甲が無い。先生の家で外したまま忘れてきたようだ。以前よりも平穏な時間を長く過ごしているとはいえ、とんだ怠慢だ。むしろ、どれほどショックだったのだと言うべきか。
「最後まで締まらないねえ」
剥き出しの両手をポケットに突っ込んで来た道を戻り始めた。
ついさっき最後だと笑い合った人の家へ戻ってきた。ばつの悪さを誤魔化すように一度咳払いをして軽くドアをノックする。部屋の明かりはついたまま、中にいるはずの先生からは返答が無い。もう一度軽くノックをして待ってみたがやはり無音のままなので、そっとノブを回してみた。抵抗なく回ったノブに首を傾げながらドアを開ける。暗い廊下を歩いて行くと、寝室から音がした。反射的に気配を殺し、開けっぱなしの扉から覗き見る。先生は暗い部屋の真ん中で、顔にアンダーを押し当てていた。顔を上げてじっと両手の中を見つめると鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。深く息を吸い込む音が聞こえてきて、全身が震えるくらい大きな音で心臓が鳴った。ばくんと一跳ねした心臓がどくどくと早い鼓動を刻み始める。
「⋯⋯いつまで残ってるかな」
体を揺らす衝撃の中で小さな呟きが響く。両手で掻き抱くアンダーにポツリと落ちる光を見て、湿る手のひらを握り込んだ。
2021/06/06
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先天的女体化・年齢パロ・オメガバ・現パロ・各年代ごった煮です。
特殊設定にはひと言ついておりますのでご確認ください。
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