◆各種設定ごった煮注意

解説があるものは先にご確認ください
誕生日は特別な日。自分だって例外じゃない。
過去の俺ならいざ知らず、いまの俺はそう思っている。そして期待している。
なぜなら愛する人と結婚して初めての誕生日だから。一緒に祝ってくれるであろうその人こそ、俺に誕生日の特別さを教えてくれたから。

期待に膨らむ胸を抱えてそわそわと眠りについたのは数時間前。
0時ちょうどにってのはなかったな。
初めてだしちゃんとってことかな。
なんて勝手な想像で全身をぱんぱんにして、穏やかな朝の光で目を覚ますわけです。
いいかな?まだかな?待つ?
とウキウキしたのは一瞬だけ。俺はすぐに気がついた。

……いない。いない、ね?これいないわ。

がばりと起きあがったベッドの上、いつもなら隣にあるはずの温もりがない。
オロオロとベッドの上に立ち上がり、またオロオロと座り込んだ。
もう一度オロオロと立ち上がったものの、がくりと膝を折り、力なく掛布団に拳を叩きつけたのです。
本当にイヤなものだね。忍の性ってやつは。



ゆっくりと狭い家の中をひとまわりして、ついでにベランダと湯舟と洗濯機の中も確認して、ようやく顔を洗った。
鏡に映る顔を睨み付けたところで先生が出てきてくれるワケでもなく。大きなため息がこぼれた。
隣が空っぽなことに気づいた瞬間、すぐに家中の気配を探ってしまったのは仕方がない。職業病というものだし、分かってはいるのだけど、もう少し夢見心地にいさせてくれても良かったのではないだろうか。
気づいた瞬間即撃沈。俺の特別な誕生日、目覚めて一分で終了したよ。
まあ彼は忙しい上に人気者、休みの日でも人手が足りないと飛び出していくことも多く、すれ違いは俺たちの目下の懸念でもある。
里長なんてやってれば約束破りの常習犯はこちらであり、責めるのはお門違い。
とはいえ、今日は年に一度の!と膨れた胸がつぶれるのはさすがに痛かった。泣きそう。
このまま一人でいたらどん底まで沈みそうなので、散歩へ行くことにした。
ひょっとしたら仕事をダッシュで片付けた先生が走ってくるかもしれない、なんて考えたわけではない。……こともない。
のろのろ着替えて玄関へ向かう。サンダルを履きながら鍵へ手を伸ばしたら、指の先に何かが当たった。
鍵の下に、小さく小さく折りたたまれた紙が置かれている。
もどかしさに焦れる指を宥めつつ、そーっと慎重に広げた。

柳の下の三つ角

見慣れた字が畏まっている。元通りにたたみながら玄関を飛び出した。
場所だけのメッセージはいつから待っていたのだろう。温もりの消えたベッドを思い出しながら、思い切り駆けた。
真夏に熱を残した風が柳の枝を揺らしている。その下に彼が立っていた。
いつものアンダーとベストじゃなくて、普通のパーカーを着ている。首の横でゆるくまとめた髪には銀色の髪紐が光っていた。
「おはようございます。髪が爆発してる。めっちゃ走ったな?」
あははと笑う先生に勢いのまま飛びつく。
「びっくりしてびっくりしてびっくりした!」
「ん?三回?」
「起きていなくてメッセージを見つけて、で、何!?」
くいくいとパーカーのフードを引っ張る。そっかと笑う先生がポンポンと背中を叩いた。
「デートは待ち合わせから始まるでしょう」
思わぬ単語に顔をあげ、緩みそうになった腕をしめなおした。
セリフは気になるけど、解放するつもりはない。
あきれ混じりのくすくすが耳元をくすぐる。
「お誕生日だからプレゼントを、と思ったけど何がいいか考えつかなくて。たぶん俺たち、欲しいものよりしたいことのほうがたくさんある」
でしょう?と言うように、背中の手が一度強く巻きついた。
それを合図のようにして、ようやく体を離す。
「たしかに」
「まずは美味いパン屋があるんで行きましょう。で、高台のベンチで朝ごはん」
「それから?」
「なにがいいかな。なんでもしましよう。あなたのお誕生日なんだから」
なんでもいいなんだっていい。
特別なあなたと特別な日だ。
「幸せです」
「まだ何もしてねえって」
大きな声をあげて先生が笑う。それだけで胸がいっぱいになった。
2025/09/15(月) 23:28 NEW! COMMENT(0)
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

COMMENT FORM

以下のフォームからコメントを投稿してください

CP傾向

左右固定ハピエン主義

先天的女体化・年齢パロ・オメガバ・現パロ・各年代ごった煮です。
特殊設定にはひと言ついておりますのでご確認ください。