◆各種設定ごった煮注意

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※目覚めのベルが鳴るのkksとホヅミです。


 
 日曜の朝。枕元の目覚まし時計を確認して、もう一度枕に沈み込む。
 差し込む光で目が覚めるなんて久々だ。隣で寝息を立てるイルカの頭に軽い挨拶をして、そっと布団を抜け出した。
 あくびをしながら洗面所へ向かう。いつもはイルカの立てる音で賑やかな家がまだ静まり返っていて、空気に混ざる休日感に体がくすぐったい。ずっと家に帰ってくることもできなかったせいだろう。
 こみ上げる笑いを押し殺していると、台所から音がした。冷蔵庫のドアに隠れるようにして銀色の頭がのぞいている。夜の遅い両親と違い、早くに寝たホヅミはもう起きているようだ。

「おはよう」
「もうおきたの?まだねてればいいのに」
 一瞬こちらを向いた顔がドアの向こうへ隠れてしまった。
「おはよう父さん」
 遅れて飛んできたおはように、仁王立ちしているイルカが浮かんだ。

 挨拶は必ずすること!相手に届くように!しっかり!

 イルカの信条だ。きっちり叩き込まれているらしい。
 
 ホヅミの後ろへ回りこみ、一緒に冷蔵庫を覗き込む。
「きのう、タマゴきらしちゃったんだよね。どうしよ」
 考え混む頭をポンポンと撫でた。イルカに頼らず自分で何とかしようとする心構えは素晴らしい。我が子ながら、まだ幼いのにたいしたもんだと思う。
 でも今日は父がいるのだから、任せてもらって構わない。
 炊飯器には飯が炊いてある。卵以外でおかずになるものはと探していたら、空っぽのカゴを見つけた。細長いカゴを引きずり出すと、一番奥に三粒だけ入った梅干しのパックが転がっている。
「まだはいってたんだ。イルカのちょうしょくセット」
「あー……」
 ほとんど空っぽのカゴと梅干しを見て笑ってしまう。これはイルカの「冷蔵庫改革」の残骸だ。
 冷蔵庫を使いやすくします!と意気込んで整理していた時期に作った、「全部ひとまとめにしてあるから朝が楽チンセット」のなれの果てだろう。
「イルカってさ、こういうのいいな!ってすぐとりいれるけどさ、……」
「けどさ?」
「…………」
「素直でいいでしょ」
「……まあね」
 ホヅミは複雑な顔をして梅干しのパックを見つめている。俺はイルカの閃きの欠片を手に取った。

 少し固まってきたご飯をほぐし、手に塩を取る。手のひらに米をのせ、真ん中に梅干しを入れた。ぎゅっと握って海苔を巻く。ホヅミ用に小ぶりなおにぎりを三つ作った。
 麦茶のコップを持って、卓袱台で向かい合う。
「いただきます」
「めしあがれ」
 腹が減っていたのか、すぐに一つ目にかぶりついた。柔らかい頬がむくむくと膨れる姿を見ながら茶を飲む。
 穏やかな休日の朝だ。満ち足りた思いで見つめていたホヅミの頬がピタッと止まった。きっちり二秒立ってからまた動き出す。
「父さんはたべないの?」
「ああ、全部お前のだよ」
 こくりと頷くと、まだ半分ほどあるおにぎりを口に詰め込む。
 ちくりと刺さった違和感は何だったんだろうか。二つ目に手を伸ばす様子を見れば、おにぎり自体に何かあるわけではないようだが。
「父さん」
「うん?」
「イルカのおにぎりたべたことある?」
「あるよ」
「そっか。おいしいよね」
「うん。……父さんのは美味しくないか」
 ホヅミは黙ったまま、また一口齧る。
 食べ続けている。でも否定はこない。違和感も何も、たんに美味しくなかったってことか。
 思わず卓袱台に頬杖をついた。
 なんだそんなことかという思いと、違和感の正体が分かったすっきりと、誤魔化しきれない落胆が全身にのしかかった。
 別に褒めて貰いたかったわけじゃない。美味しいと言ってもらえなかったからといって、拗ねてるワケでもないのだが、言葉にならない疲労感に覆われた。
「おにぎりってどこにでもあるでしょ。いえでつくるしそとのおみせでもうってるしさ」
「そうだね」
「でもね、イルカがつくるおにぎりが一番おいしい。どこでたべたおにぎりよりも、一番おいしいの」
 ホヅミは不思議そうに手の中のおにぎりを見つめている。いつもイルカが作るおにぎりと同じはずなのに、違うおにぎりだ。家にある材料で作ったのに、あっちのほうが絶対美味しい。
 同じセリフを、笑顔で言っていた人がいる。
「昔イルカも言ってたよ。母ちゃんの作ったおにぎりが一番美味いんですよねって。同じように作っても、すげえいい店で食べても、母ちゃんのおにぎりにはどうしても敵わないんですよね、って」
「父さんのおにぎりなのに?」
 変なの、と呟いてまたおにぎりを食べ始める。
 指先がじわじわと熱くなり、コップを持つ手に力が入った。ホヅミの中のイルカと俺。分かっていたけれど分かっていなかったことを、あらためて理解したような気分だ。

 「一番」のおにぎりは受け継がれたみたいですよと言ったら、今度は本当に泣いてしまうかもしれない。あの時は笑顔でいたけれど、今度は見せてくれるだろうか。
「これも美味しいよ」
 息子の気遣いに噴き出してしまった。まったく、本当に良い休日の朝だ。
2023/03/26(日) 11:49 短い物 COMMENT(0)
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