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 土誇りの匂いと煤けたマント。中天にとどまる太陽に照らされると、どうも場違いな気分になる。闇の中、それも新月の夜辺りがピッタリなんだがと肩を竦めた。
 何故か今日に限ってやたら居心地が悪い。ある着慣れているはずの里でどうしてと。辺りを見回して合点がいった。
 そう遠くない野原から明るい声がする。柔らかな日差しの中に響き渡る声は、まだ幼い子どもの声だ。足を止め耳を澄ます。

「はいせんせ」
「ありがとな。立派な冠が出来たなあ」
「うん。じょうずでしょ!」
「上手上手!」
「じゃあつぎはねぇ、ブレスレットにしよう」
「うーん。今日はたくさん摘んだから、残りは明日のお楽しみにしないか?このままだと全部摘んじゃうぞ」
「もっとあそびたい~」
「じゃああと一個な。そしたら先生とお家に帰ろう。姉ちゃんが待ってるんだろ?先生と一緒に帰ったら、姉ちゃんビックリしてどんな顔するだろうなあ」
「じゃあおねえちゃんにもおはなもってかえる!せんせえも!」
「え、俺も?」
「うん。なにいろかうらなってあげるね」
 ぷちんと花を一本摘むと、小さな指で花びらを一枚摘まむ。
「せんせいいはしおいおはながすき、きいろいおはながすき」
 すき、といいながら花びらを一枚ずつ千切り始めた。花占いでイルカ先生の持って行く花を選ぼうとしているのか。
 好きと言いながら手の中の花を散らせてゆく。長閑な風景の中の非情な行為に何とも言えない気分になり、苦笑いが浮かんだ。ふっと風が流れ笑いが引っ込む。
「しろいおはながすき!せんせえはしろいおはなね」
「よし分かった。じゃあ白い花を摘んでいこう」
 はい、と手のひらに載せられた花びらを見たイルカ先生が笑う。くしゃくしゃっと少女の頭を撫でると二人で花を摘み、ようやく立ち上がった。手を繋いでゆっくりと歩いて行く。
 後ろ姿を見送って、ボクも歩き始めた。遠回りになるが、一本手前の道を曲がる。心の中で十数えてそっと振り返った。
 
 さっきまで先生達がいた野原に立つ猫背。いつから見ていたのだろうと悩む視界の中で、足元へと伸ばされた指先が何かを摘まんだ。
 手のひらに隠されたのは、あの人の好きの欠片だろうか。それは、白か黄色か。
 聞いてみたいと感じた自分に少し驚き、なるほどと思った。納得した時点で、もう折り返すべきだ。危険に飛び込む必要は無い。
 花が何色でも緑の葉が付き物ですよねと言ったら、先輩はどんな顔になるだろう。頭を切り替えて、歩く速度を上げた。



ワンライお題「ロマンス」
2022/06/19
2022/06/28(火) 09:41 ワンライ COMMENT(0)
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