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解説があるものは先にご確認ください
夜も更けた里は静まり返り、すれ違う者もいなかった。年が変わっても自分には何の関係もないのだとマントにくるまって歩く。
正月早々駆り出され、帰還と同時に次の任務へ立つ日々が続き、ようやく一息つくことが出来た。新年もすれ違うだけの風景に過ぎず、それに感傷的になるわけでもない。とにかく早く家へ帰って凍えた体を温めようと家路を急いでいた。
雪が降る世界には音が無く、自分以外のすべてが眠りについているように感じる。静かに積もる雪が全ての音を吸い込んで、白い静寂だけが広がっていた。
目の前の景色がみな白く覆われる中、進む先にぽつりと浮かぶ人影に気づいた。自分のサンダルが雪を踏みしめる音だけに集中していたせいだろう。普段なら気づくはずの人影を見落とした。前方に佇む人に気づいたのは、雪明かりで誰なのか分かるほど近づいてからだ。薄らと頭に雪を乗せて空を見上げる後ろ姿には、彼の目印とも言える黒髪がぴょこんと立っている。
「イルカ先生」
「こんばんはカカシ先生」
振り返った顔は頬も鼻の頭も真っ赤だった。いたくご機嫌そうに笑う顔から漂う酒気に思わず顔をしかめる。
「酔っ払って雪の中は危ないですよ。眺めるなら家に帰ってからにしないと。うっかりしたら凍死一直線でしょう」
「大丈夫ですよー」
間延びした語尾にやっぱりとため息をつく。その調子が大丈夫ではない証拠だ。雪を纏ったまま笑う人へ近づき、頭と肩に積もる雪を払いのけた。羽織っていたマントを脱いでしっかりと着せる。
「大丈夫ですって。これはカカシ先生がどうぞどうぞ」
「その口調は全く大丈夫じゃありません。随分ご機嫌ですね」
「今日はヒオの誕生日と新年会だったんですよ。おめでとうが重なってさらにめでたいぞー!って」
マントを撥ねのけて勢いよくバンザイをするので、静かに手を下ろさせた。もう一度しっかりとマントを被せる。触れた手はどれだけここにいたのかと思うほど冷たかった。
仲間と一緒に祝うのは、冷たい雪の中で思い返すほど楽しかったらしい。それはとても良いことだ。ただ、その中に自分がいないことは淋しく思う。彼が楽しいと思う時間の中にいることの無い自分は、いつもこうやって話を聞きながら相槌を打つだけだ。
「楽しくて良かったですね」
「はい!カカシ先生はお忙しそうですね。任務帰りですか」
「その通りです」
「そうかあ~やっぱりなあ」
うーんと唸り声を上げ、ぎゅっと目を瞑って何か考え始めた。時折首がゆらりゆらりと前後に揺れて、このまま寝てしまうのではないかと気が気では無い。
「せんせ」
「分かった!月見です!九月なら月見だ!カカシ先生の誕生日は月見も合わせてめでたいなですよ!今日は雪見酒だったんですけど、月見酒もいいですよね~。美味い酒飲みましょうね!」
まだ一月も半ばで九月まではずいぶんある。きっとこんな言葉は酔いが醒めたら忘れてしまうだろう。雪と同じように、あっという間に溶けてしまうに違いない。せっかくの気遣いも喜び以上に諦めが胸を占めた。
「じゃあ覚えてたらお願いします」
「忘れるとでも?」
心外だとばかりに鼻の穴を膨らませるので笑ってしまった。先のことなど分からない。もし彼が忘れていなくても、自分がいない可能性の方が高いだろう。誕生日に二人で酒を飲むなんて日が来るのだろうか。到底叶わぬ夢のように感じる。
「約束しますよ!プレゼントも用意しますから!」
「プレゼント……。何でもいいんですか」
「もちろんです!」
どんとこいと胸を叩いた拍子にマントへくっついていた雪が散った。立ち話をしている間にも雪は降り続け、二人の上へ落ちてくる。空から降る雪が先生の上に止まっても、ほんの僅かなうちに消えてしまう。
すべてを覆い隠そうとする雪と思わぬ幸運と、多分連日の疲れも相まって、ちょっとだけ夢を見てもいいかと思った。酔っ払いの戯言に合わせても、知っているのが自分だけならば問題ない。
「5秒ください」
「5秒?」
「先生が俺のことを祝ってくれる時間を。もし一緒に祝うことが出来なくても、……その時俺がいなくても。5秒でいいから俺を思ってくれませんか」
彼の時間を俺だけの為に。おめでとうと言わなくても、たとえ俺がいなくても、俺だけを思ってくれたらそれでいい。それ以上は望まない。
「明日、目が覚めても覚えていたらで構わないので」
想定外のことを言われたのか、瞬きしながら首を傾げる。そのまま倒れそうになる体を支えた。やはりだいぶ酔いが回っている。さっさと家へ帰って温まった方が良いだろう。
「先生、これ以上は本当に風邪を引きますよ。送るので帰りましょう」
促すとこくんと子どものように頷いて歩き出した。雪道に二人の足跡が残る。少し進んだだけでも、二人でいた証が雪に隠されてゆく。きっと朝にはすべて埋もれてしまうだろう跡を、何度も振り返って目に焼き付けた。
「カカシ先生、お年玉ください」
「お年玉……って、先生に?」
「そうです!お年玉をもらえるのは子どもだけじゃないんですよ?目上から目下の者へ贈るのもお年玉なんです。カカシ先生は上忍で俺は中忍。お年玉ください」
「えーっと、今手持ちがそれほど……。そもそも相場はどのくらいですか?」
「もらう側に聞くとはなんと愚かな」
「それもそうですねえ。うーん」
「じゃあ代わりに欲しいもの言っていいですか」
「いいですけど、見ての通り任務帰りなので何も持ってませんよ」
「大丈夫です!カカシ先生は、俺に364日と23時間と59分55秒ください!」
「意味が分からないんですが。やっぱり早く家へ帰った方が」
「違いますよ~お」
立ち止まった先生はぶんぶん激しく首を振った。濡れた髪の先から溶けた雪の雫が飛び散る。
「5秒でいいからくれって言うならあげますよ。その代わり俺がカカシ先生の時間をぜーんぶもらうんで、ずーっと俺のこと考えててください。それでえ、月見酒は何にしようかなあとか、つまみはあれにしようとかあ、いーっぱい考えてくださいね。あ、もちろん任務中は別ですよ。そうだなあ、キリッとした受付のうみの中忍に、バッチリな報告書を出すために頑張るぞってのでもいいですね!」
俺天才!とまたしてもバンザイするので黙って手を下ろした。酔っ払いは突拍子もないことを言うので困ったものだ。
「カカシ先生の364日23時間59分55秒が俺のものになったら、カカシ先生を見るたびに、あ~カカシ先生は俺のことを考えてるんだなあ~って思い出すでしょ?そしたら俺の方だって、5秒どころじゃないくらいずーっとカカシ先生のものですよ~。すっごいお得!考えてる内にお誕生日がきて、すぐにめでたいめでたいのお祝いだ!だから忘れたりしないし、淋しがらないで大丈夫。俺がついてるぞ」
ヨシヨシと頭を撫でられてたまらず吹きだした。先生の目に俺はどう映っているのだろう。今にも泣き出しそうな子どもに見えたのだろうか。せめてと要求した時間は短く、自分で思うよりも悲壮な響きを帯びていたのかもしれない。そんなつもりは無かったのだが、見透かされたような居心地の悪さも感じる。
「すぐ?」
「すぐすぐ!」
がしがしと頭を撫でながら力強い返事が返ってきた。
「お年玉大事にしてくれますか」
「もちろんですよ!カカシ先生が考えてくれる分、俺もちゃあんと思いますからねえ」
多分それは無理だろうなあと思いながら頷いた。絶対同じになることは無いと知っている。それでも嬉しいことには変わりない。
一年分の俺を彼へ預けよう。もし来年、先生がこの約束を覚えていたら、次は違うお願いを出来る気がする。
「はい!」
両手を揃えて元気よく突きだしたので、そっと自分の手を乗せてみた。
「ありがとうございます!」
嬉しそうに笑う顔へ、一年間よろしくと笑い返した。
2021/12/26
正月早々駆り出され、帰還と同時に次の任務へ立つ日々が続き、ようやく一息つくことが出来た。新年もすれ違うだけの風景に過ぎず、それに感傷的になるわけでもない。とにかく早く家へ帰って凍えた体を温めようと家路を急いでいた。
雪が降る世界には音が無く、自分以外のすべてが眠りについているように感じる。静かに積もる雪が全ての音を吸い込んで、白い静寂だけが広がっていた。
目の前の景色がみな白く覆われる中、進む先にぽつりと浮かぶ人影に気づいた。自分のサンダルが雪を踏みしめる音だけに集中していたせいだろう。普段なら気づくはずの人影を見落とした。前方に佇む人に気づいたのは、雪明かりで誰なのか分かるほど近づいてからだ。薄らと頭に雪を乗せて空を見上げる後ろ姿には、彼の目印とも言える黒髪がぴょこんと立っている。
「イルカ先生」
「こんばんはカカシ先生」
振り返った顔は頬も鼻の頭も真っ赤だった。いたくご機嫌そうに笑う顔から漂う酒気に思わず顔をしかめる。
「酔っ払って雪の中は危ないですよ。眺めるなら家に帰ってからにしないと。うっかりしたら凍死一直線でしょう」
「大丈夫ですよー」
間延びした語尾にやっぱりとため息をつく。その調子が大丈夫ではない証拠だ。雪を纏ったまま笑う人へ近づき、頭と肩に積もる雪を払いのけた。羽織っていたマントを脱いでしっかりと着せる。
「大丈夫ですって。これはカカシ先生がどうぞどうぞ」
「その口調は全く大丈夫じゃありません。随分ご機嫌ですね」
「今日はヒオの誕生日と新年会だったんですよ。おめでとうが重なってさらにめでたいぞー!って」
マントを撥ねのけて勢いよくバンザイをするので、静かに手を下ろさせた。もう一度しっかりとマントを被せる。触れた手はどれだけここにいたのかと思うほど冷たかった。
仲間と一緒に祝うのは、冷たい雪の中で思い返すほど楽しかったらしい。それはとても良いことだ。ただ、その中に自分がいないことは淋しく思う。彼が楽しいと思う時間の中にいることの無い自分は、いつもこうやって話を聞きながら相槌を打つだけだ。
「楽しくて良かったですね」
「はい!カカシ先生はお忙しそうですね。任務帰りですか」
「その通りです」
「そうかあ~やっぱりなあ」
うーんと唸り声を上げ、ぎゅっと目を瞑って何か考え始めた。時折首がゆらりゆらりと前後に揺れて、このまま寝てしまうのではないかと気が気では無い。
「せんせ」
「分かった!月見です!九月なら月見だ!カカシ先生の誕生日は月見も合わせてめでたいなですよ!今日は雪見酒だったんですけど、月見酒もいいですよね~。美味い酒飲みましょうね!」
まだ一月も半ばで九月まではずいぶんある。きっとこんな言葉は酔いが醒めたら忘れてしまうだろう。雪と同じように、あっという間に溶けてしまうに違いない。せっかくの気遣いも喜び以上に諦めが胸を占めた。
「じゃあ覚えてたらお願いします」
「忘れるとでも?」
心外だとばかりに鼻の穴を膨らませるので笑ってしまった。先のことなど分からない。もし彼が忘れていなくても、自分がいない可能性の方が高いだろう。誕生日に二人で酒を飲むなんて日が来るのだろうか。到底叶わぬ夢のように感じる。
「約束しますよ!プレゼントも用意しますから!」
「プレゼント……。何でもいいんですか」
「もちろんです!」
どんとこいと胸を叩いた拍子にマントへくっついていた雪が散った。立ち話をしている間にも雪は降り続け、二人の上へ落ちてくる。空から降る雪が先生の上に止まっても、ほんの僅かなうちに消えてしまう。
すべてを覆い隠そうとする雪と思わぬ幸運と、多分連日の疲れも相まって、ちょっとだけ夢を見てもいいかと思った。酔っ払いの戯言に合わせても、知っているのが自分だけならば問題ない。
「5秒ください」
「5秒?」
「先生が俺のことを祝ってくれる時間を。もし一緒に祝うことが出来なくても、……その時俺がいなくても。5秒でいいから俺を思ってくれませんか」
彼の時間を俺だけの為に。おめでとうと言わなくても、たとえ俺がいなくても、俺だけを思ってくれたらそれでいい。それ以上は望まない。
「明日、目が覚めても覚えていたらで構わないので」
想定外のことを言われたのか、瞬きしながら首を傾げる。そのまま倒れそうになる体を支えた。やはりだいぶ酔いが回っている。さっさと家へ帰って温まった方が良いだろう。
「先生、これ以上は本当に風邪を引きますよ。送るので帰りましょう」
促すとこくんと子どものように頷いて歩き出した。雪道に二人の足跡が残る。少し進んだだけでも、二人でいた証が雪に隠されてゆく。きっと朝にはすべて埋もれてしまうだろう跡を、何度も振り返って目に焼き付けた。
「カカシ先生、お年玉ください」
「お年玉……って、先生に?」
「そうです!お年玉をもらえるのは子どもだけじゃないんですよ?目上から目下の者へ贈るのもお年玉なんです。カカシ先生は上忍で俺は中忍。お年玉ください」
「えーっと、今手持ちがそれほど……。そもそも相場はどのくらいですか?」
「もらう側に聞くとはなんと愚かな」
「それもそうですねえ。うーん」
「じゃあ代わりに欲しいもの言っていいですか」
「いいですけど、見ての通り任務帰りなので何も持ってませんよ」
「大丈夫です!カカシ先生は、俺に364日と23時間と59分55秒ください!」
「意味が分からないんですが。やっぱり早く家へ帰った方が」
「違いますよ~お」
立ち止まった先生はぶんぶん激しく首を振った。濡れた髪の先から溶けた雪の雫が飛び散る。
「5秒でいいからくれって言うならあげますよ。その代わり俺がカカシ先生の時間をぜーんぶもらうんで、ずーっと俺のこと考えててください。それでえ、月見酒は何にしようかなあとか、つまみはあれにしようとかあ、いーっぱい考えてくださいね。あ、もちろん任務中は別ですよ。そうだなあ、キリッとした受付のうみの中忍に、バッチリな報告書を出すために頑張るぞってのでもいいですね!」
俺天才!とまたしてもバンザイするので黙って手を下ろした。酔っ払いは突拍子もないことを言うので困ったものだ。
「カカシ先生の364日23時間59分55秒が俺のものになったら、カカシ先生を見るたびに、あ~カカシ先生は俺のことを考えてるんだなあ~って思い出すでしょ?そしたら俺の方だって、5秒どころじゃないくらいずーっとカカシ先生のものですよ~。すっごいお得!考えてる内にお誕生日がきて、すぐにめでたいめでたいのお祝いだ!だから忘れたりしないし、淋しがらないで大丈夫。俺がついてるぞ」
ヨシヨシと頭を撫でられてたまらず吹きだした。先生の目に俺はどう映っているのだろう。今にも泣き出しそうな子どもに見えたのだろうか。せめてと要求した時間は短く、自分で思うよりも悲壮な響きを帯びていたのかもしれない。そんなつもりは無かったのだが、見透かされたような居心地の悪さも感じる。
「すぐ?」
「すぐすぐ!」
がしがしと頭を撫でながら力強い返事が返ってきた。
「お年玉大事にしてくれますか」
「もちろんですよ!カカシ先生が考えてくれる分、俺もちゃあんと思いますからねえ」
多分それは無理だろうなあと思いながら頷いた。絶対同じになることは無いと知っている。それでも嬉しいことには変わりない。
一年分の俺を彼へ預けよう。もし来年、先生がこの約束を覚えていたら、次は違うお願いを出来る気がする。
「はい!」
両手を揃えて元気よく突きだしたので、そっと自分の手を乗せてみた。
「ありがとうございます!」
嬉しそうに笑う顔へ、一年間よろしくと笑い返した。
2021/12/26
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