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 梢の具合がよいのか木漏れ日が柔らかく、風の通りも強くなく弱くなく。とても爽やかな時間を過ごせるので、ここへ来るのです。子ども達の笑い声ってのは気持ちを明るくさせてくれるし、任務に駆け回る身にとって心安らぐ本当に良い場所を見つけたので、少しだけお邪魔しているというか。
 授業の邪魔になったら申し訳ないし、気配を消しているのはあくまでも大人の配慮ってヤツです。
 だって子どもって、ちょっとしたことで集中が切れてしまうでしょう?本当に他意は無く、ああ一段と高い笑い声だなって思った時にちらっと教室を覗くことはあるけれど、それだってずっとでは無いんです。不躾な視線があったら誰かに気づかれてしまうかもしれなくて、だからそのための配慮というか。怪しい者ではありません。
「はあはあ、怪しい者が絶対言うセリフですねえ」
「いや、カカシさんを不審者呼ばわりするつもりはありませんが」
「ふ、不審者……」
「イルカ先生、気をつかう必要は無いですよ。誰であろうと子どもの敵になりえますので」
「ちょっと!」
 わざとらしく眉間に皺を寄せてコイツ……。思わず指先に力を入れてしまう。先生が俯いてぶつぶつ言っている間に一発喰らわせてやろうか。
「え、と」
「はいっ!」
「お気持ちは分かりました。子ども達を温かい目で見ていただけるのは教師としても嬉しいです。確かにここの樹の上で昼寝するのはサイコーですしね」
「先生……」
「ただやはり、授業を覗かれているというのは保護者の手前無かったことには出来ません。今回のようにうっかり気づかれてしまう時もあるでしょうし」
「申し訳ありませんでした」
「ヘマの内容がまた」
「テンゾウうるさいよ」
「カカシさん、家まで戻る暇が無いくらいお忙しいんでしょう。だから少しでもゆっくり出来る場所が欲しかったのかと。よければアカデミーの仮眠室をお使いになられますか?そちらの方が横にもなれますし」
「いえ、そんな、とんでもない」
「そうですよ。やめた方がいい」
「テンゾウはどうしてここにいるのかな。もう立ち去って構わないんじゃないかな」
「もう一度説明します?アカデミーで変化の授業が始まってから、時折誰かの視線を感じるとの申し立てが」
「分かった!もういい!もういいー!」
「ははは……」
 困ったように笑う先生を見て内心頭を抱える。こうなってしまうと、「コピー忍者」なんて通り名は完全に裏目ではないか。
「あの、先生、本当にごめんなさい。でも俺子ども達を覗こうとしてここにいたわけじゃ」
「覗きたかったのはこ」
「テンゾウ!」
 なんだコイツは何を言うつもりだ。頭を押さえようと伸ばした手を避けて、先生の後ろへ下がってしまった。
 お前……。こめかみがピクピクする。
「仲がよろしいんですね。だから気付けたのかな。カカシさんが本気で隠れてたら分かる人間なんていません。ヤマトさんにお願いしたのは正解でした」
「それは本当に勘違いですよ」
「何も恥ずかしがらなくても。大人だって親友はいるでしょう」
「しん!ゆう!?」
「はい。羨ましいです」
 アカデミーの子ども達を見るような目で笑う。いつも樹の上から眺めていた笑顔をこんな間近で見れて嬉しい。けど、その言葉はかなり見当違いです。
「なんか新鮮ですね。カカシさんいつも格好良くて落ち着いていらっしゃるから、こんな風に誰かとじゃれあってるの見たことありませんでした」
「じゃ……。あー……」
 全部がらがらと崩れ落ちてゆく。俺の、今までの、俺の。
「ちょっと頷けないですねえ。きっちり訂正したいので、どうですか今夜」
「ヤマトさんまで。いいですよ、ゆっくり聞かせてください」
「じゃあこの人は預かっていくんで。早くしないとお昼休憩終わっちゃいますよ。また後で」
「はい。じゃあ失礼しますね」
 ぺこりと頭を下げて去って行く後ろ姿を追いかけたい。俺の呼びかけに振り返った体をそのまま抱き締めて……、じゃなくて訂正だ。何よりもまずふてぶてしい後輩が先。
「ねえ。いつの間に先生と仲良くなったのよ」
「まあいろいろと」
「何よそれ」

 俺の方がずっと前からあの人を見てたのに。子ども達に向ける眼差しが俺に向いた時、全てを持っていかれてしまった。
 だけど世界は俺に厳しくて、彼と親しくなる暇では無く仲違いの種やすれ違いばかり放り投げてくる。せめて格好いい里の上忍でありたかったのに、不審者の疑いをかけられるとは。
「本人ではなくて子どもの姿に取り乱すようじゃ、怪しいと思われても仕方がないですよ」
「違うって。ほら、あの人とは子ども達を通じて知り合ったでしょ。俺達が子どもの時から知ってたらどうだったかなとか、授業を見てたらあの生徒たちの年頃はどうだったっけ、とか考えちゃって」
「妄想してた姿に本人が変化したからずっこけたんですか」
「言い方!」
 こんなはずではなかった。見つめるのが精一杯だと堪えていたのに、秘めた恋心には変態という色がべっとりと。淡い桃色が一気にどす黒い色に変わってしまう。
「します?挽回。今夜先輩もどうぞ」
「え?」
「不器用な先輩に貸しを作る方が得なんで」
 遅れないようにと釘を差して消えてしまった。思いがけない幸運に胸がドクドクと鳴り始める。
 ひょっとしたら、永遠に来ないと思っていた勝負の時が来るのかもしれない。



2021/11/14
2022/02/11(金) 00:09 ワンライ COMMENT(0)
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