◆各種設定ごった煮注意
解説があるものは先にご確認ください
まずったな、と思うのはいつだって失敗した後で、大概取り返しがつかなかったりする。しゃあねえやと諦める時もあれば、これだけはと歯を食いしばる時もあった。今回亜hどっちだろうとぼんやり眺める窓の外、こんばんはと現れるはずの人は今日もやってこない。何日だっけとカレンダーを振り返り指を折り始めたが、足りなくなりそうだなとベッドに思い切りダイブした。布団に埋もれた顔は息が出来なくて、だから、とても胸が苦しい。
言葉にしてない大人の関係。響きは良くともどちらを想像するのだろうか。子どもじゃあるまいし分かるだろうと暗黙の上に成り立つ交際か、単なる体のみの付き合いなのか。俺達はどっちか確かめることなくそれなりの時間をすごっしてしまった。
彼が忙しい人で、俺とはすれ違いがちだったから。そもそも時間を重ねること自体がとても困難で、たまの逢瀬は会話よりも先に欲望が勝ってしまったから。肌を重ねれば満足して、お互いの気持ちを分かったつもりになっていたから。
理由をあげようと思えばいくらでも。人は自己弁護ほど雄弁になるものだ。そこに不都合な事実があればなおのこと、口の滑りと頭の回転は速くなる。
だけど現実は容赦してくれない。うっかりこぼれた昔話が彼にどう刺さったのか。聞く言葉を持たないと気づいた俺は立ち竦んでしまった。追いかけることさえ出来ぬまま、太陽も月も遠慮無く俺を追い越してゆく。恨めしげに見つめる月につい愚痴を溢したくなる。
「だけどカカシさんだって」
その先は言ってはいけない。もう失敗などしたくないのだ。
ごろごろと寝返りを打ち、抱き締めていた枕を目覚まし時計にぶん投げた。派手な音に跳ね起きる。大きな音は父ちゃんと母ちゃんに叱られたみたいで心臓が縮み上がる。
そーっと枕をどかしてみると、下敷きになった目覚まし時計の針が止まっていた。倒れた拍子に外れた電池を入れ直すと、元通り小さな音で動きはじめる。安堵の息を吐き、強張っていた体から力を抜いた。これだけは絶対に壊したくない。
いつもより五分早く目が覚めた。時計の針をじっと見つめ、ジリジリと鳴り出すのを確認して止める。変わらず動いてくれたことにホッとしてベッドから出た。出勤の準備だ。
顔を洗い髪を結い上げた所でノックの音に気づく。時計を確認したらまだ七時前。人が訪ねてくるような時間ではない。
「こんな朝っぱらから誰だってんだ」
繰り返されるノックの音にドアを開けて驚いた。
「おはようございます」
「……おはようございます」
玄関に現れたのは、名の無い関係を続けていた相手だった。
眩しい朝の光と湯気の上がる湯飲みに、緊張した面持ちの微妙な関係の男(肉体関係有り)。朝から悪い夢でも見ているみたいだと思いながら茶を啜る。正座してたっぷり五分黙ったままの男は目の前の湯飲みにも手を伸ばさない。何か言いたいんだろうなとは思うもの、こちらは朝の出勤前だ。相手の心情を慮るよりも遅刻が気にかかる。あと三分待って話し出さなかったら、申し訳ないがお引き取り願おうとまで思っていた。
正面の顔と壁の時計を目線が何度も往復する。一分経ち、ダメだなと思い始めた時、お行儀良く膝の上に乗っていた手が卓袱台の上に出てきた。
「目覚まし時計、今日も鳴りましたか」
「鳴りましたけど、それが何か」
「十五年近く、毎朝起こしてくれたなんてすごいですね」
「あー……、それなりに故障したりしてますよ。修理しながら使ってるだけで」
「大事だからでしょ?あの目覚まし時計が、ご両親からもらった大事なものだから」
今も俺の枕元にある目覚まし時計は、子どもの頃両親に買ってもらったものだった。あの事件のあと一人で暮し始めた時、これだけはと思って持ってきた。朝目覚めた後、声をかける相手のいない空間を目覚まし時計の音が埋めてくれる。心細かった時間を父ちゃんと母ちゃんの思い出と一緒に慰めてくれた。
「ごめんなさい。良い気分じゃなかったんですよね」
「何が?」
「時計の話しをした後、家に来なくなったじゃないですか。俺もあなたも早くに独り立ちをしたし、忍の里には同じ境遇のヤツなんてたくさんいる。情けない話しは聞きたくなかったんでしょう。ましてや、こんな話しをするような仲じゃ、ないのかもしれないし」
言葉が詰まりそうになって、真っ直ぐに向けていた視線を下ろす。俺はもう自分を誤魔化すことは出来なかった。曖昧なままで良いなんて思ってない。本当はもっと確かな関係になりたかった。昔の思い出話も、情けない話も嬉しい話もできるような相手になりたかったのだ。
「あなたの」
言葉を切ったカカシさんが手を伸ばし、俺の顎に指を添えた。軽く引き上げられて恐る恐る目線を上げる。今まで見たことのない柔らかな視線が俺を見つめていた。顎から離れてゆく指先を追う俺を見て、目を細める。
「あなたの大事なものがここにはあるんですね。何気なく触れているものに大切な人の思いが残ってる。俺達が睦み合うベッドの上の目覚まし時計にまで。それを感じる場所にいるには、どうすれば良いのかと悩みました」
「今までだっていたじゃないですか」
「ううん。今までは分かってなかった。ただあなたの所に来ていただけ。そうじゃなくて、あなたの中にある思いもこの場所も、分け合う相手になりたいなと思ったんです。さっきみたいな誤解はしてほしくない。だから、ちゃんと言わせてください。ここにただいまと言って帰ってきてもいいですか。俺を、おかえりと言える場所にいさせてください」
一人ぼっちの部屋が。
喉元が熱くなって力を込める。俺の部屋で、そこにある俺の記憶や思いや、そういうものをちゃんと見てくれると、そう言ってくれた。誰よりもそうなってくれたらと思えた人に。
泣いてもいいだろうか。目覚まし時計の音だけを聞いていた夜や、一人分の食事を並べる卓袱台に囲まれたこの場所で、泣いてもいいだろうか。
いや、と膝の上で拳を握る。
「合鍵を、作ります」
「うん」
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
へへへと笑ったら鼻水が垂れて、ちょっと格好悪かった。
2021/10/04
言葉にしてない大人の関係。響きは良くともどちらを想像するのだろうか。子どもじゃあるまいし分かるだろうと暗黙の上に成り立つ交際か、単なる体のみの付き合いなのか。俺達はどっちか確かめることなくそれなりの時間をすごっしてしまった。
彼が忙しい人で、俺とはすれ違いがちだったから。そもそも時間を重ねること自体がとても困難で、たまの逢瀬は会話よりも先に欲望が勝ってしまったから。肌を重ねれば満足して、お互いの気持ちを分かったつもりになっていたから。
理由をあげようと思えばいくらでも。人は自己弁護ほど雄弁になるものだ。そこに不都合な事実があればなおのこと、口の滑りと頭の回転は速くなる。
だけど現実は容赦してくれない。うっかりこぼれた昔話が彼にどう刺さったのか。聞く言葉を持たないと気づいた俺は立ち竦んでしまった。追いかけることさえ出来ぬまま、太陽も月も遠慮無く俺を追い越してゆく。恨めしげに見つめる月につい愚痴を溢したくなる。
「だけどカカシさんだって」
その先は言ってはいけない。もう失敗などしたくないのだ。
ごろごろと寝返りを打ち、抱き締めていた枕を目覚まし時計にぶん投げた。派手な音に跳ね起きる。大きな音は父ちゃんと母ちゃんに叱られたみたいで心臓が縮み上がる。
そーっと枕をどかしてみると、下敷きになった目覚まし時計の針が止まっていた。倒れた拍子に外れた電池を入れ直すと、元通り小さな音で動きはじめる。安堵の息を吐き、強張っていた体から力を抜いた。これだけは絶対に壊したくない。
いつもより五分早く目が覚めた。時計の針をじっと見つめ、ジリジリと鳴り出すのを確認して止める。変わらず動いてくれたことにホッとしてベッドから出た。出勤の準備だ。
顔を洗い髪を結い上げた所でノックの音に気づく。時計を確認したらまだ七時前。人が訪ねてくるような時間ではない。
「こんな朝っぱらから誰だってんだ」
繰り返されるノックの音にドアを開けて驚いた。
「おはようございます」
「……おはようございます」
玄関に現れたのは、名の無い関係を続けていた相手だった。
眩しい朝の光と湯気の上がる湯飲みに、緊張した面持ちの微妙な関係の男(肉体関係有り)。朝から悪い夢でも見ているみたいだと思いながら茶を啜る。正座してたっぷり五分黙ったままの男は目の前の湯飲みにも手を伸ばさない。何か言いたいんだろうなとは思うもの、こちらは朝の出勤前だ。相手の心情を慮るよりも遅刻が気にかかる。あと三分待って話し出さなかったら、申し訳ないがお引き取り願おうとまで思っていた。
正面の顔と壁の時計を目線が何度も往復する。一分経ち、ダメだなと思い始めた時、お行儀良く膝の上に乗っていた手が卓袱台の上に出てきた。
「目覚まし時計、今日も鳴りましたか」
「鳴りましたけど、それが何か」
「十五年近く、毎朝起こしてくれたなんてすごいですね」
「あー……、それなりに故障したりしてますよ。修理しながら使ってるだけで」
「大事だからでしょ?あの目覚まし時計が、ご両親からもらった大事なものだから」
今も俺の枕元にある目覚まし時計は、子どもの頃両親に買ってもらったものだった。あの事件のあと一人で暮し始めた時、これだけはと思って持ってきた。朝目覚めた後、声をかける相手のいない空間を目覚まし時計の音が埋めてくれる。心細かった時間を父ちゃんと母ちゃんの思い出と一緒に慰めてくれた。
「ごめんなさい。良い気分じゃなかったんですよね」
「何が?」
「時計の話しをした後、家に来なくなったじゃないですか。俺もあなたも早くに独り立ちをしたし、忍の里には同じ境遇のヤツなんてたくさんいる。情けない話しは聞きたくなかったんでしょう。ましてや、こんな話しをするような仲じゃ、ないのかもしれないし」
言葉が詰まりそうになって、真っ直ぐに向けていた視線を下ろす。俺はもう自分を誤魔化すことは出来なかった。曖昧なままで良いなんて思ってない。本当はもっと確かな関係になりたかった。昔の思い出話も、情けない話も嬉しい話もできるような相手になりたかったのだ。
「あなたの」
言葉を切ったカカシさんが手を伸ばし、俺の顎に指を添えた。軽く引き上げられて恐る恐る目線を上げる。今まで見たことのない柔らかな視線が俺を見つめていた。顎から離れてゆく指先を追う俺を見て、目を細める。
「あなたの大事なものがここにはあるんですね。何気なく触れているものに大切な人の思いが残ってる。俺達が睦み合うベッドの上の目覚まし時計にまで。それを感じる場所にいるには、どうすれば良いのかと悩みました」
「今までだっていたじゃないですか」
「ううん。今までは分かってなかった。ただあなたの所に来ていただけ。そうじゃなくて、あなたの中にある思いもこの場所も、分け合う相手になりたいなと思ったんです。さっきみたいな誤解はしてほしくない。だから、ちゃんと言わせてください。ここにただいまと言って帰ってきてもいいですか。俺を、おかえりと言える場所にいさせてください」
一人ぼっちの部屋が。
喉元が熱くなって力を込める。俺の部屋で、そこにある俺の記憶や思いや、そういうものをちゃんと見てくれると、そう言ってくれた。誰よりもそうなってくれたらと思えた人に。
泣いてもいいだろうか。目覚まし時計の音だけを聞いていた夜や、一人分の食事を並べる卓袱台に囲まれたこの場所で、泣いてもいいだろうか。
いや、と膝の上で拳を握る。
「合鍵を、作ります」
「うん」
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
へへへと笑ったら鼻水が垂れて、ちょっと格好悪かった。
2021/10/04
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