◆各種設定ごった煮注意
解説があるものは先にご確認ください
「女の涙は武器でしょ。じゃあ男の涙は?」
傾ける杯の奥からじっと見つめられ、出し巻き玉子を口に放り込む。むぐむぐと咀嚼する間、正面のカカシさんはちびりちびり。
今日のお題は涙か。何かあったかなと頭の中の報告書を引っ張り出してくるが、さして気にすることもなくいつものヤツだなと納得する。
二人で居酒屋へ行く、それ自体は珍しいことじゃない。子ども達を通して親しくなった人は気さくで、一緒に過ごしても苦にならない人だった。ただ時々疑問を投げかけてくる。中身は本当に共通点など皆無の雑多なもので、なぜ俺に聞く?というのが唯一の共通点だ。
アカデミーの教師であるから、アカデミーのことや下忍になる前の子ども達に関しては少し分かる。けど彼の疑問は本当に、だから何で俺に!?というものばかりだ。俺はただの教師兼中忍であって、里の生き字引でもなけりゃとんでもなく顔が広いわけでもなく、知ってることはごく一般的な事実のみ。実はこの話には裏があってーなんて情報絶対に出て来ない。なのに彼は俺に聞く。カカシさんの方が里外へ出ているし色んな経験をしているはずだと思いつつ、何で?と聞かれたら答えざるを得ない己の性が少々恨めしい。
「涙が武器になるかどうかは、その涙を受けた相手によるでしょう。男だって武器になりますし、女だって武器にならない時がある。どっちだって関係ありません」
「うん」
酒の入った杯を干すと正面からお代わりが注がれる。徳利の口が上がるのを待って、二つ目。
「涙だろうがなんだろうが、使えるものは使った方がいいです。そうじゃなきゃ無理って時ありますし。プライドやらなんやら言ったって、俺達には絶対的に守るものがあるんだからそれが一番なんですよ」
「うん」
持ち上げた徳利が出番を待っている。くいと空にした杯を下ろせばもう一杯。
「涙は、流せる時に流した方がいいです。泣ける時に泣けるとは限らない。流さないものは、いつか流し方だって分からなくなって、流れなくなりますよ」
徳利の代わりにメニューが差し出される。出し巻きは頼んだ。から揚げはもう食べた。ほっけはあと半分。
「牛肉のたたき」
「はいはい」
すいませんと手を挙げるカカシさんに注文を任せ酒を飲んだ。
求められる答えは三つ。それに気づいたのは、いつだっただろう。彼が答えを促したのは一度だけだ。当たり障りのない答えを言って、上忍様には分からないかもしれませんがーなんて言ったりして、酒の席で緩んだ口は自由なものだった。何回かのやりとりをした後、黙って聞いていた彼が、ある日ひと言だけ言ったのだ。
「あなたは?」
何気なく聞いたふうなセリフの中にほんの少し切実さを嗅ぎとったのは、彼が疲れていたらからだと思う。毎日何通もの報告書を見る俺でさえ記憶に残っているような任務から帰還して、俺を誘った。普段全く感じない弱さを嗅ぎとってしまったのは、間違いだったのかもしれないと思っている。あの日から俺はカカシさんの問いを避けることが出来なくなってしまった。
答える順番はいつも同じ。アカデミー教師としての答え、中忍としての答え、うみのイルカとしての答え。いつかうみのイルカだけに聞く問いがあるのではないかと、杯を傾ける度に思うのだ。それがいつかは分からないけれど。
彼は大して気に留めないような質問を繰り返し、俺の欠片を一つずつ集めているようだった。どれだけ積もったら形になるのだろう。彼の望むまでに積もったら、ただ一つの答えを望むのではないかと考えて今日も質問に答える。出口の見えない時間は生ぬるく、まだ自分を決めかねていない俺にとっても居心地が良かった。
「はいお待たせしました!」
二人の間にドンと新しい皿が置かれた。薄切りの玉ねぎが添えられたたたきは美味そうで、早速一切れ口に運ぶ。
「んまい。カカシさんもどうぞ」
「うん。玉ねぎ辛い?」
「ちょっとピリッとするけどそんなには」
「涙出そう?」
「いやそこまで辛くないですよ」
「そうか」
もう一切れと伸ばした箸の向こうからポツリ、残念と嘆きが聞こえた。行儀悪く箸を伸ばしたまま目線だけ上げてカカシさんの顔を見る。
「先生の言う通り、使わないものは錆び付いて動かなくなっちゃったよ。あなたに俺の武器が通用するか試してみたかったのに」
「……通用したら、どうするんですか」
「押し倒す」
「なにを、言って」
こんなに時間をかけて、何回もやり取りして。ずっと待っていた言葉がそれなのか。箸を握る手に力が入り、慌てて緩める。
「だってチクチク痛むんだよ。胸の中に貯まったあなたがチクチクチクチク俺を刺すから、だから……こんなに小さかったのに」
カカシさんが示した欠片は指先で作るくらい小さくて。それが胸を刺すほど大きくなったのだと言う。とんでもなく乱暴な言い方のロマンチックを投げられて、俺の胸まで痛み出した。
「……先生、武器を使いたかったのは俺なんだけど。その顔はダメでしょ」
拗ねたような呟きと一緒に手が伸びてくる。指先で俺の武器を拭ってペロリと舐めた。
積もり積もった俺の欠片ごと体の中から爆発してしまえ。
天井を見上げて鼻をすすり上げた。
2021/09/05
傾ける杯の奥からじっと見つめられ、出し巻き玉子を口に放り込む。むぐむぐと咀嚼する間、正面のカカシさんはちびりちびり。
今日のお題は涙か。何かあったかなと頭の中の報告書を引っ張り出してくるが、さして気にすることもなくいつものヤツだなと納得する。
二人で居酒屋へ行く、それ自体は珍しいことじゃない。子ども達を通して親しくなった人は気さくで、一緒に過ごしても苦にならない人だった。ただ時々疑問を投げかけてくる。中身は本当に共通点など皆無の雑多なもので、なぜ俺に聞く?というのが唯一の共通点だ。
アカデミーの教師であるから、アカデミーのことや下忍になる前の子ども達に関しては少し分かる。けど彼の疑問は本当に、だから何で俺に!?というものばかりだ。俺はただの教師兼中忍であって、里の生き字引でもなけりゃとんでもなく顔が広いわけでもなく、知ってることはごく一般的な事実のみ。実はこの話には裏があってーなんて情報絶対に出て来ない。なのに彼は俺に聞く。カカシさんの方が里外へ出ているし色んな経験をしているはずだと思いつつ、何で?と聞かれたら答えざるを得ない己の性が少々恨めしい。
「涙が武器になるかどうかは、その涙を受けた相手によるでしょう。男だって武器になりますし、女だって武器にならない時がある。どっちだって関係ありません」
「うん」
酒の入った杯を干すと正面からお代わりが注がれる。徳利の口が上がるのを待って、二つ目。
「涙だろうがなんだろうが、使えるものは使った方がいいです。そうじゃなきゃ無理って時ありますし。プライドやらなんやら言ったって、俺達には絶対的に守るものがあるんだからそれが一番なんですよ」
「うん」
持ち上げた徳利が出番を待っている。くいと空にした杯を下ろせばもう一杯。
「涙は、流せる時に流した方がいいです。泣ける時に泣けるとは限らない。流さないものは、いつか流し方だって分からなくなって、流れなくなりますよ」
徳利の代わりにメニューが差し出される。出し巻きは頼んだ。から揚げはもう食べた。ほっけはあと半分。
「牛肉のたたき」
「はいはい」
すいませんと手を挙げるカカシさんに注文を任せ酒を飲んだ。
求められる答えは三つ。それに気づいたのは、いつだっただろう。彼が答えを促したのは一度だけだ。当たり障りのない答えを言って、上忍様には分からないかもしれませんがーなんて言ったりして、酒の席で緩んだ口は自由なものだった。何回かのやりとりをした後、黙って聞いていた彼が、ある日ひと言だけ言ったのだ。
「あなたは?」
何気なく聞いたふうなセリフの中にほんの少し切実さを嗅ぎとったのは、彼が疲れていたらからだと思う。毎日何通もの報告書を見る俺でさえ記憶に残っているような任務から帰還して、俺を誘った。普段全く感じない弱さを嗅ぎとってしまったのは、間違いだったのかもしれないと思っている。あの日から俺はカカシさんの問いを避けることが出来なくなってしまった。
答える順番はいつも同じ。アカデミー教師としての答え、中忍としての答え、うみのイルカとしての答え。いつかうみのイルカだけに聞く問いがあるのではないかと、杯を傾ける度に思うのだ。それがいつかは分からないけれど。
彼は大して気に留めないような質問を繰り返し、俺の欠片を一つずつ集めているようだった。どれだけ積もったら形になるのだろう。彼の望むまでに積もったら、ただ一つの答えを望むのではないかと考えて今日も質問に答える。出口の見えない時間は生ぬるく、まだ自分を決めかねていない俺にとっても居心地が良かった。
「はいお待たせしました!」
二人の間にドンと新しい皿が置かれた。薄切りの玉ねぎが添えられたたたきは美味そうで、早速一切れ口に運ぶ。
「んまい。カカシさんもどうぞ」
「うん。玉ねぎ辛い?」
「ちょっとピリッとするけどそんなには」
「涙出そう?」
「いやそこまで辛くないですよ」
「そうか」
もう一切れと伸ばした箸の向こうからポツリ、残念と嘆きが聞こえた。行儀悪く箸を伸ばしたまま目線だけ上げてカカシさんの顔を見る。
「先生の言う通り、使わないものは錆び付いて動かなくなっちゃったよ。あなたに俺の武器が通用するか試してみたかったのに」
「……通用したら、どうするんですか」
「押し倒す」
「なにを、言って」
こんなに時間をかけて、何回もやり取りして。ずっと待っていた言葉がそれなのか。箸を握る手に力が入り、慌てて緩める。
「だってチクチク痛むんだよ。胸の中に貯まったあなたがチクチクチクチク俺を刺すから、だから……こんなに小さかったのに」
カカシさんが示した欠片は指先で作るくらい小さくて。それが胸を刺すほど大きくなったのだと言う。とんでもなく乱暴な言い方のロマンチックを投げられて、俺の胸まで痛み出した。
「……先生、武器を使いたかったのは俺なんだけど。その顔はダメでしょ」
拗ねたような呟きと一緒に手が伸びてくる。指先で俺の武器を拭ってペロリと舐めた。
積もり積もった俺の欠片ごと体の中から爆発してしまえ。
天井を見上げて鼻をすすり上げた。
2021/09/05
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