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昼 9/15 12:28

 小走りに進みながら時間を確かめる。任務をふられてさえいなければ大丈夫なはずだ。問題は、とっくに行きましたよと言われること。頼むぞと深呼吸をして待機所のドアをノックする。
「失礼します」
 入り口から見回すと、窓際にいた銀髪が振り返りゆるゆると手を振った。 
 良かった、いてくれた。
 肩の力を抜いて部屋の中へと進む。ちょうど昼を回った部屋は人が少なく、みな食事に出ているようだ。大丈夫であるようにと思わず鞄の蓋を押さえる。
「先生。どうしたの」
「今日はアカデミー昼までだったんです。午後は受付なんですが、その前に昼飯を食べようと思って」
「あ、俺もこれから。一緒に食べよ」
「はい。任せてもらっていいですか」
「うん。どこ?」
 立ち上がるカカシさんに笑い返して歩き出した。

 毎日見上げていた空がいつの間にか高くなり、凶悪だった日差しも和らいでいる。吹く風の涼しさに秋がきたなあと思っているうちにこの人の誕生日だ。年々季節の巡りが早くなっているようで少し怖い。
「せんせ、これどっち」
「それは…………、昆布ですね。丸いのがおかかで三角は昆布ですって」
「そうね、そうだよね」
「見たら分かるじゃないですか」
「自分だって一瞬迷ったくせに」
「判定に多少の困難を含むのは否定しません」
「急いでたんでしょ。先に出てくださいって言うから調子悪いのかと思った。朝も残すし心配したんだから。こんな嬉しいドッキリがあるとは思わなかったなあ」
「おにぎりと卵焼きとソーセージしか入ってませんよ」
「プチトマトも入ってる。最高でしょ」
 鮭を焼く時間はなかった。本当はから揚げとか生姜焼きとか入れた方が良かったと思う。せめて野菜を入れたかったけど、渋るカカシさんを追い出した後にそんな時間はなくて、冷蔵庫に転がってたプチトマトを洗って詰め込んだ。
思いつきと勢いだけの弁当は誕生日に相応しいとは言い難く、少々砂をかんでいる気分。こんな弁当にも最高と笑ってくれる、それはそれで素晴らしいことなんだが、どうしたって不甲斐なさが先に立つ。もっとわーっとパーッといきたい気持ちだってあるのだ。

 手についた米粒を取りながら横目でカカシさんを盗み見る。焦って握ったおにぎりは不格好で二口も囓れば崩壊し始めた。カカシさんの手の中も、こぼれかけの昆布とでろんと反る海苔から米が暴れている。落とさないように持ち上げてパッと口に入れる姿に申し訳なさがチクリ。指先の米を摘まんでいたカカシさんはほっぺたを膨らませたままニコリと笑う。気にするなという眩しさにそのまま焼き尽くされてしまいそうなのだが。
 口元へ運ぼうとしていた手を引っ張って唇に指先を寄せる。くっついていた米粒ごとパクリと咥えたら、横からヒュッと息を飲む音がした。ちゅっと音を立てて吸い上げた指先から手を離す。
「お誕生日様の指先を汚してしまったので」
「……はい。ありが、と」
 アルミホイルに包まれたおにぎりを二つ取り、開いたまま固まってる手のひらに一つ載せた。俺は残ったおにぎりがおかかか昆布か悩んでいた。
2021/09/15(水) 17:32 記念日 COMMENT(0)
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