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前夜 9/14 22:30

 一気に涼しくなったので、夏用の肌掛けをしまって布団を出した。これから秋が来るんだなあという準備は、いよいよ年の終わりへ向けて走り出す感じがする。秋が来て冬がきて、新しい年が来る。その時間のすべてにカカシさんがいるのだろう。

 夢を見ているのではないか?

 時々、ふっと疑問がわいて辺りを見回してしまうことがあった。それくらい俺にとって信じられない出来事だ。ほんの数年前にはただの知り合いだった人と暮らすようになるなんて思わなかった。
 同じ家に帰るようになり徐々に薄れてはいったけれど、それまでの孤独が時折顔を出す。でも大丈夫だと過去の自分を宥めるのは一人じゃない。必ず彼がいてくれる。
「んー……」
 もぞもぞと布団に埋もれた塊が動く。いつもは一緒に寝ようと卓袱台で仕事をする俺に張り付いているのに、今日はさっさと一人で寝てしまった。よほど疲れていたのかと心配になって見に来たが、別段苦しそうな様子もなくぐっすり眠っている。ただの疲労ならば眠るのが一番だ。安心して蓑虫の上からそっと口づけた。
「おやすみなさいカカシさん」
 あなたの眠りが穏やかであるように。おまじないのようにポンポンと布団を叩く。
 枕元の目覚まし時計は十時半を指している。日付が変わる前に眠りたい。もうひと踏ん張りだとベッドから立ち上がった。



深夜の寝返り 9/15 02:30

 どこか遠くで破裂音が聞こえた。何だろうと考えていたらぼふんという音がして、足元がやけにスースーする。目蓋を上げた目に飛び込んできた指先はぼやけるほどに大きい。
首を起こすと布団を蹴飛ばした先生が大の字になっているのが見えた。時折ぴくぴくと動く指先があるのは、ちょうど俺の顔があった数センチ先。もう少しズレていたら顔面を直撃していただろう。相変わらずの寝相だなと眺める顔が歪み、くしゃみが一つ飛び出した。
「ほら先生。おいで」
 声に反応したようにこちら側へ寝返りを打つ。よしよしと腕の中に抱き込み、もう跳ね飛ばさないよう布団の端をしっかり巻き込んだ。

 枕元の時計はまだ二時。電気を消した部屋の中は真っ暗で朝はまだ遠いが、日を越えたからもう俺の誕生日だ。年に一度の誕生日は特別な日。だれでも王様になれるのだと教えてくれたのはこの人だった。今年はどんな誕生日にしてくれるのだろう。

 ひとりぼっちじゃ王様にはなれない。愛しい人が目覚めて初めて誕生日が始まるのだ。
 朝を思って目を閉じる。太陽が待ち遠しい。
2021/09/15(水) 17:32 記念日 COMMENT(0)
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