◆各種設定ごった煮注意
解説があるものは先にご確認ください
チャイムと同時に教室の中が音で溢れ出す。ノートや教科書をしまう音、椅子を引いて立ち上がる音、まだ先生がいるのに扉を開けて廊下へ出て行く音まで。お昼になっちゃったなあと溜息をつきながら鞄を手に取る。お弁当の入った袋を取り出して、溜息をもう一つ。私、本当に行かなきゃいけないの?鞄の外ポケットに突っ込んでおいたリップクリームを、つい睨みつけてしまう。いつの間にか消えてました!なんて奇跡は起こらないだろうか。外側から人差し指で突くと固い感触が返ってきて、あーあと机に突っ伏した。
教室を出て渡り廊下を小走りで移動する。特別教室の集まっている棟の二階、講堂の横にある階段を上ると屋上への扉があった。屋上への立ち入りは禁止されていて、規則を破ったのが見つかったらトイレ掃除と反省文という超レトロな罰則が待っている。校舎の一つに運動部が使用している屋上広場があって、そちらは自由に上がることが出来た。わざわざ特別棟の屋上へ上がろうなんて物好きはいない。それでなくてもトイレ掃除なんて出来るだけやりたくないんだから。
「良かった。来てくれたね」
人気のないしんとした階段を見上げると、扉の前で手を振るイケメンが一人。もし私が来なかったら、この人どうしたんだろう。また教室まで来たのかな、と考えて背中がゾワッとした。朝の騒ぎをもう一度、なんて絶対お断り。アゲアゲ系自意識過剰タイプだったら喜んだかもしれないけど、地に足の着いた中庸女子高生としては、はっきり言って嬉しくない。私がヒロイン?なんて浸っていられるほど女子高生の世界は甘くないのだ。きゃあきゃあ騒ぐ女子とひそひそうるさい男子達を掻き分けて、廊下の隅まで引っ張るのにも一苦労だったのに。ちゃんと話をつけなくちゃ。
座って、と言われて階段に腰掛ける。すとんと隣に座られて、思わず一段下がってしまった。あれ、という顔をしているけれど正直ちょっと困ってる。この人、ちょっと私とは距離感が違いすぎるもん。
「警戒してる?」
「スーパーで会っただけの人がいきなり教室に現れて、ビックリしない人はいないと思いますけど」
「だから転入してきたって言ったでしょ」
だからじゃない。ちっとも繋がらないよ。マズイ人と関わっちゃったのかなあと、ぽりぽりと鼻傷を掻きながら覗き見たら、膝の上で頬杖をついていた瞳がふっと緩んだ。明るい灰色の瞳にはうっすらとブルーが入ってる。私よりも白い肌は血管が透けて見えるんじゃないかと思うほど綺麗で、毛穴一つない。色素が薄いのは髪の毛だけじゃないんだなーなんて目の前の顔をじろじろ眺めてしまったら、頬がほんのちょっぴりピンク色になった。
「あの、そんなに凝視されるとさすがに照れるんだけど」
ガシガシと後頭部を掻く姿に何だか安心した。イケメンさん、ちゃんと人間じゃん。うんうんと頷く私の行動は、どう考えてもちょっとズレてた。本当はまだ現実味がなかったのかも。
「お昼持ってきたんでしょ?時間なくなるから食べようよ」
「はあ」
横に置いた袋からガサガサと取り出したのは、透明なセロファンに包まれたまん丸いベーグルだった。男の人にしては白い指先が優雅に包みを開いてゆく。緑色の葉っぱにオレンジ色のチーズやハムが挟まっていて、どう見ても美味しそう。膝の上に置いていたお弁当の袋をきゅっと握り締めた。やっぱりキラキラな人はキラキラな世界にいるのよね。上着のポケットに手を入れて紙袋を取り出した。
「これお返しします」
「それは君のでしょ」
「入ってたお釣りはもらいました。わざわざありがとうございます。でもこのリップクリームは、私が買ったものじゃありません」
「うーん」
お上品なお口ががぶりとベーグルサンドに噛み付いた。めちゃめちゃ美味しそう。手の中の包みを握り潰さないように、私頑張った。
「昨日、本当はそれを買おうと思ってたんじゃない?だけど違うのをカゴに入れちゃって予定金額に足りなくなった。まあ単なる俺の想像ではあるんだけど」
「何で……」
「レジの人が言ってたでしょ?ちょっと足りないって。タイムセールの放送は俺も聞いてたし、カゴの中のリップクリーム握り締めてたよね」
かあーっと顔が熱くなった。多分ほっぺたが真っ赤になってる。確かにあの時間にあの店にいて、私の真後ろでレジのやり取りを見ていたのだからそう思われてもおかしくない。でもだからって、この人に買ってもらう謂われはないし受けとるわけにはいかなかった。ベーグルを頬張ってモグモグしてるほっぺたを、両手で挟んで思い切り潰してやりたい。私だってお腹減ってるんだけど。それにベーグル美味しそう。
「俺が余計なことしなきゃ、会計キャンセルして取りに行けたのかなって思ったらつい買っちゃってた。でも使わないし、お釣りと一緒に渡せばいいやって思ったの。それだけだよ」
気にしないで使って、とまたモグモグ。イライラぺこぺこモグモグ。
「見ず知らずの人に貰うわけにはいきません。これはお返しします」
「なかなか頑固だね、うみのさん」
「頑固でも何でも当たり前です」
「そうだなあー……。でも君が貰ってくれなかったらこれ捨てちゃうよ」
「えっ」
「色つきなんて使えないもん」
未使用のままゴミ箱へポイなんて勿体ない!私的には絶対ありえないんだけど。むーと眉間に皺を寄せると、クスクスと笑われた。
「じゃあさ、お近づきの印にっていうのは?俺イルカと仲良くなりたいな」
思わず眉がピクンと上がる。何なのこの人。
「それは私を呼び捨てにする代わりってことですか」
「代わりってわけじゃないけど、うみのさんよりはイルカがいいなあ」
バン!と階段にリップクリームの入った紙袋を叩きつけた。驚いたように見ているが、投げつけなかったことを感謝してもらいたいくらいだっつうの。我慢した私めちゃめちゃえらい。
「私の名前はそんなに安くありません。これ置いときますね」
立ち上がって頭を下げる。お弁当の袋を掴むと階段を一段飛ばしで駆け降りた。私の名前は父ちゃんと母ちゃんがつけてくれた、大事な大事なものなんだから。交換条件なんかに出来るか馬鹿野郎。イケメンも親切もベーグルサンドも台無しだ。むしゃくしゃを叩きつけるように大きな足音を立てて走り続けた。
教室を出て渡り廊下を小走りで移動する。特別教室の集まっている棟の二階、講堂の横にある階段を上ると屋上への扉があった。屋上への立ち入りは禁止されていて、規則を破ったのが見つかったらトイレ掃除と反省文という超レトロな罰則が待っている。校舎の一つに運動部が使用している屋上広場があって、そちらは自由に上がることが出来た。わざわざ特別棟の屋上へ上がろうなんて物好きはいない。それでなくてもトイレ掃除なんて出来るだけやりたくないんだから。
「良かった。来てくれたね」
人気のないしんとした階段を見上げると、扉の前で手を振るイケメンが一人。もし私が来なかったら、この人どうしたんだろう。また教室まで来たのかな、と考えて背中がゾワッとした。朝の騒ぎをもう一度、なんて絶対お断り。アゲアゲ系自意識過剰タイプだったら喜んだかもしれないけど、地に足の着いた中庸女子高生としては、はっきり言って嬉しくない。私がヒロイン?なんて浸っていられるほど女子高生の世界は甘くないのだ。きゃあきゃあ騒ぐ女子とひそひそうるさい男子達を掻き分けて、廊下の隅まで引っ張るのにも一苦労だったのに。ちゃんと話をつけなくちゃ。
座って、と言われて階段に腰掛ける。すとんと隣に座られて、思わず一段下がってしまった。あれ、という顔をしているけれど正直ちょっと困ってる。この人、ちょっと私とは距離感が違いすぎるもん。
「警戒してる?」
「スーパーで会っただけの人がいきなり教室に現れて、ビックリしない人はいないと思いますけど」
「だから転入してきたって言ったでしょ」
だからじゃない。ちっとも繋がらないよ。マズイ人と関わっちゃったのかなあと、ぽりぽりと鼻傷を掻きながら覗き見たら、膝の上で頬杖をついていた瞳がふっと緩んだ。明るい灰色の瞳にはうっすらとブルーが入ってる。私よりも白い肌は血管が透けて見えるんじゃないかと思うほど綺麗で、毛穴一つない。色素が薄いのは髪の毛だけじゃないんだなーなんて目の前の顔をじろじろ眺めてしまったら、頬がほんのちょっぴりピンク色になった。
「あの、そんなに凝視されるとさすがに照れるんだけど」
ガシガシと後頭部を掻く姿に何だか安心した。イケメンさん、ちゃんと人間じゃん。うんうんと頷く私の行動は、どう考えてもちょっとズレてた。本当はまだ現実味がなかったのかも。
「お昼持ってきたんでしょ?時間なくなるから食べようよ」
「はあ」
横に置いた袋からガサガサと取り出したのは、透明なセロファンに包まれたまん丸いベーグルだった。男の人にしては白い指先が優雅に包みを開いてゆく。緑色の葉っぱにオレンジ色のチーズやハムが挟まっていて、どう見ても美味しそう。膝の上に置いていたお弁当の袋をきゅっと握り締めた。やっぱりキラキラな人はキラキラな世界にいるのよね。上着のポケットに手を入れて紙袋を取り出した。
「これお返しします」
「それは君のでしょ」
「入ってたお釣りはもらいました。わざわざありがとうございます。でもこのリップクリームは、私が買ったものじゃありません」
「うーん」
お上品なお口ががぶりとベーグルサンドに噛み付いた。めちゃめちゃ美味しそう。手の中の包みを握り潰さないように、私頑張った。
「昨日、本当はそれを買おうと思ってたんじゃない?だけど違うのをカゴに入れちゃって予定金額に足りなくなった。まあ単なる俺の想像ではあるんだけど」
「何で……」
「レジの人が言ってたでしょ?ちょっと足りないって。タイムセールの放送は俺も聞いてたし、カゴの中のリップクリーム握り締めてたよね」
かあーっと顔が熱くなった。多分ほっぺたが真っ赤になってる。確かにあの時間にあの店にいて、私の真後ろでレジのやり取りを見ていたのだからそう思われてもおかしくない。でもだからって、この人に買ってもらう謂われはないし受けとるわけにはいかなかった。ベーグルを頬張ってモグモグしてるほっぺたを、両手で挟んで思い切り潰してやりたい。私だってお腹減ってるんだけど。それにベーグル美味しそう。
「俺が余計なことしなきゃ、会計キャンセルして取りに行けたのかなって思ったらつい買っちゃってた。でも使わないし、お釣りと一緒に渡せばいいやって思ったの。それだけだよ」
気にしないで使って、とまたモグモグ。イライラぺこぺこモグモグ。
「見ず知らずの人に貰うわけにはいきません。これはお返しします」
「なかなか頑固だね、うみのさん」
「頑固でも何でも当たり前です」
「そうだなあー……。でも君が貰ってくれなかったらこれ捨てちゃうよ」
「えっ」
「色つきなんて使えないもん」
未使用のままゴミ箱へポイなんて勿体ない!私的には絶対ありえないんだけど。むーと眉間に皺を寄せると、クスクスと笑われた。
「じゃあさ、お近づきの印にっていうのは?俺イルカと仲良くなりたいな」
思わず眉がピクンと上がる。何なのこの人。
「それは私を呼び捨てにする代わりってことですか」
「代わりってわけじゃないけど、うみのさんよりはイルカがいいなあ」
バン!と階段にリップクリームの入った紙袋を叩きつけた。驚いたように見ているが、投げつけなかったことを感謝してもらいたいくらいだっつうの。我慢した私めちゃめちゃえらい。
「私の名前はそんなに安くありません。これ置いときますね」
立ち上がって頭を下げる。お弁当の袋を掴むと階段を一段飛ばしで駆け降りた。私の名前は父ちゃんと母ちゃんがつけてくれた、大事な大事なものなんだから。交換条件なんかに出来るか馬鹿野郎。イケメンも親切もベーグルサンドも台無しだ。むしゃくしゃを叩きつけるように大きな足音を立てて走り続けた。
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