◆各種設定ごった煮注意
解説があるものは先にご確認ください
大きな扉が閉まるのを見届けて、隣にある手を握った。驚いたように目を見張る人へニッコリ笑って歩き出す。
「一つ聞きたいのですが」
「何ですか?」
「記憶が戻った時、俺に言おうとは思わなかったの?」
自分に術をかけてしまうほど好きだったのなら、記憶が戻ったと教えてくれても良かったのではないか。俺は先生の手を取ったのだから、苦しい胸中ながらも思い通りになったと言えなくもない。でも先生はスッパリ俺のことを忘れてしまったように見えた。
「二度振られるのは御免です」
「何でそうなるの! 振ったのはあなたでしょ」
「確かに別れを決めたのは俺だけど、俺以外の人を思っていたのはあなたでしょう。振られたのと変わりませんよ」
「だから俺が好きだったのはあなただって」
「それは知らなかった」
苦笑いして歩き出す。捉まえていたはずの手からするりと逃げ出してしまったので、慌てて横に並んだ。
「俺に分かっていたのは、目の前の俺以外に思う人がいるってことだけですから。一度だけもしかしたらと思ったけど、確信はもてなかった」
きっと、酷い思いをして帰還したあの夜。一度だけ出てしまった言葉は確かに彼へと届いていた。苦しげに返せという言葉を聞いて期待したのに、あっという間に先生と付き合い始めた俺を見てどう思ったのだろう。本当に彼のことを好きで忘れていないのなら、同一人物である先生にはもっと別の告白をしたはずなのだ。望み通りになったはずなのに、自分自身を傷つけただけだったのではないだろうか。
「結局分からなかったから、一緒にはいられませんでした。俺も、彼も」
その答えは俺と同じだ。俺も分からなかったから、突き進むことが出来なかった。
「……ごめん」
「あなただけが悪いわけじゃない。俺もちゃんと全部吐き出してれば良かったんだ。しょうがないですよ!」
バシンと大きく背中を叩かれた。笑ってくれた顔に甘えてもいいのだろうか。
本部棟を出ると、まだ落ちていない太陽が目を眩ませた。夕飯には少し早いくらいの時間になっていて、帰還後の腹ぺこにはちょうど良い。
「何を食べますか?」
「先生は?」
「んーそうですねえ。腹は結構減ってるなあ」
ラーメンといきたい所だが、もう少しがっつり食べるかと瞳がきらきらしている。
「じゃああそこは? どーんとでっかいカツが食べれるって喜んでたじゃない。たくさん食べたいなら一楽よりも定食屋の方が」
どう? と覗き込んだ顔を見て固まった。美味いものを思い浮かべて楽しそうだった瞳が痛みを堪えるように歪んでいる。しまったと思っても、言ってしまった言葉は取り消せない。一緒にあちこち食べ歩いていたのは先生で、彼とではなかったのだ。凍り付いた俺を見て、彼の視線も下がる。
「この浮気者。一生忘れねえからな」
心の奥にぐさりと刺さったままどうしても抜けなかった欠片が吐き出された。自分の行いが招いたのだからと我慢した。仕方がないのだと堪えようとしたけれど、やっぱり許せない気持ちが消えなかったのだろう。どうすればその苦しみを取り除けるのか、俺には分からない。いつだって彼の前で立ち尽くすだけだ。情けない俺を取り成すように声を上げるのは彼の方で、今回もそれは、痛いほどに同じ。
「ごめんなさい。あれは俺だから浮気なんかじゃないって分かってる。まだちょっとうまく整理できてなくて、混乱してるだけです。きっと時間が経てば、全部俺だったって思えます。もう二度と言わない、最初で最後だ」
眉を寄せて苦しげに笑うのはよく見慣れた顔。同じ人間だと思っても、仕方がないと諦めても、痛みがなくなるとは限らない。相変わらず何もできないけれど、目を背ける以外にも方法があると知った。せめて言葉になるまでは、あなたに寄り添い続けたい。
「忘れないでいい。でも苦しくなったら抱き締められるように傍にいる」
「……苦しくなくなったら?」
「それでも傍にいる」
ホッとしたように浮かべた笑顔は先程とは違い、眩しかった。本当は嬉しいよと言ったらまた曇ってしまうだろうか。耐えるばかりで口を噤んでいた人が、漸く吐いた恨み言。元凶である俺がいじらしいと言うのは、多分かなり厚かましい。言えない分は態度で表そうと、両手で腕の中に抱き込んだ。
「ちょっ、人前ですよ」
「うん」
「カカシ先生」
「うん」
ぎゅうぎゅう抱き締めながら生返事を返す俺に大きく息を吐く。先生の溜息で胸元が熱くなった。
「元に戻ったみたいだな。変わったかと思ったのに」
「変わってないし、変わりようがないよ」
「え?」
「最初からあなたのことが好きだったんだから、変われない」
彼も先生も、あなたの全てが好きだ。ちゃんと形にするように、いつもあなたに伝わるように、囁き続けると約束するから。
「あなたが好きです。好きだよイルカ」
だらんと下がったままだった腕が、そっと背中に添えられる。
「もう知ってる」
優しい響きが返ってきたので、温かい肩に顔を埋めた。ぽんぽんと大きな手が軽く背中を叩く。
「腹が減りました。今日は一楽のラーメンにしましょう。味噌豚骨チャーシュー麺大盛りトッピング全部のせにします」
そろりと顔を上げて先生の目を覗き込む。さっきまでの影はないけれど、大好きな一楽のラーメンで幸せになりたい心境なのだろうか。それを正面から聞く勇気はない。そうですと言われてしまったら、原因は俺以外ありえないのだから。
「奢ってくれますよね? カカシさん」
黒い瞳に悪戯な色が輝いている。ふふふと漏れた笑いが不安を打ち消した。作り笑いでもないし痛さも感じない、穏やかな笑顔。
「イルカが満足するまで何杯でも」
「そんなに食べられませんよ。ラーメンの力を借りなくても幸せになったから、一杯でいいんです」
「うん」
悲しさを紛らわす為に食べたラーメンを、空腹を満たす為に食べる。辛い記憶は新しい二人に塗り替えられて、俺達のはじめの一歩へ変わるのだ。大好きなものを大好きな人と一緒に。これからはずっとそうやって傍にいる。腕の中の大事な人を、もう一度強く抱き締めた。
「一つ聞きたいのですが」
「何ですか?」
「記憶が戻った時、俺に言おうとは思わなかったの?」
自分に術をかけてしまうほど好きだったのなら、記憶が戻ったと教えてくれても良かったのではないか。俺は先生の手を取ったのだから、苦しい胸中ながらも思い通りになったと言えなくもない。でも先生はスッパリ俺のことを忘れてしまったように見えた。
「二度振られるのは御免です」
「何でそうなるの! 振ったのはあなたでしょ」
「確かに別れを決めたのは俺だけど、俺以外の人を思っていたのはあなたでしょう。振られたのと変わりませんよ」
「だから俺が好きだったのはあなただって」
「それは知らなかった」
苦笑いして歩き出す。捉まえていたはずの手からするりと逃げ出してしまったので、慌てて横に並んだ。
「俺に分かっていたのは、目の前の俺以外に思う人がいるってことだけですから。一度だけもしかしたらと思ったけど、確信はもてなかった」
きっと、酷い思いをして帰還したあの夜。一度だけ出てしまった言葉は確かに彼へと届いていた。苦しげに返せという言葉を聞いて期待したのに、あっという間に先生と付き合い始めた俺を見てどう思ったのだろう。本当に彼のことを好きで忘れていないのなら、同一人物である先生にはもっと別の告白をしたはずなのだ。望み通りになったはずなのに、自分自身を傷つけただけだったのではないだろうか。
「結局分からなかったから、一緒にはいられませんでした。俺も、彼も」
その答えは俺と同じだ。俺も分からなかったから、突き進むことが出来なかった。
「……ごめん」
「あなただけが悪いわけじゃない。俺もちゃんと全部吐き出してれば良かったんだ。しょうがないですよ!」
バシンと大きく背中を叩かれた。笑ってくれた顔に甘えてもいいのだろうか。
本部棟を出ると、まだ落ちていない太陽が目を眩ませた。夕飯には少し早いくらいの時間になっていて、帰還後の腹ぺこにはちょうど良い。
「何を食べますか?」
「先生は?」
「んーそうですねえ。腹は結構減ってるなあ」
ラーメンといきたい所だが、もう少しがっつり食べるかと瞳がきらきらしている。
「じゃああそこは? どーんとでっかいカツが食べれるって喜んでたじゃない。たくさん食べたいなら一楽よりも定食屋の方が」
どう? と覗き込んだ顔を見て固まった。美味いものを思い浮かべて楽しそうだった瞳が痛みを堪えるように歪んでいる。しまったと思っても、言ってしまった言葉は取り消せない。一緒にあちこち食べ歩いていたのは先生で、彼とではなかったのだ。凍り付いた俺を見て、彼の視線も下がる。
「この浮気者。一生忘れねえからな」
心の奥にぐさりと刺さったままどうしても抜けなかった欠片が吐き出された。自分の行いが招いたのだからと我慢した。仕方がないのだと堪えようとしたけれど、やっぱり許せない気持ちが消えなかったのだろう。どうすればその苦しみを取り除けるのか、俺には分からない。いつだって彼の前で立ち尽くすだけだ。情けない俺を取り成すように声を上げるのは彼の方で、今回もそれは、痛いほどに同じ。
「ごめんなさい。あれは俺だから浮気なんかじゃないって分かってる。まだちょっとうまく整理できてなくて、混乱してるだけです。きっと時間が経てば、全部俺だったって思えます。もう二度と言わない、最初で最後だ」
眉を寄せて苦しげに笑うのはよく見慣れた顔。同じ人間だと思っても、仕方がないと諦めても、痛みがなくなるとは限らない。相変わらず何もできないけれど、目を背ける以外にも方法があると知った。せめて言葉になるまでは、あなたに寄り添い続けたい。
「忘れないでいい。でも苦しくなったら抱き締められるように傍にいる」
「……苦しくなくなったら?」
「それでも傍にいる」
ホッとしたように浮かべた笑顔は先程とは違い、眩しかった。本当は嬉しいよと言ったらまた曇ってしまうだろうか。耐えるばかりで口を噤んでいた人が、漸く吐いた恨み言。元凶である俺がいじらしいと言うのは、多分かなり厚かましい。言えない分は態度で表そうと、両手で腕の中に抱き込んだ。
「ちょっ、人前ですよ」
「うん」
「カカシ先生」
「うん」
ぎゅうぎゅう抱き締めながら生返事を返す俺に大きく息を吐く。先生の溜息で胸元が熱くなった。
「元に戻ったみたいだな。変わったかと思ったのに」
「変わってないし、変わりようがないよ」
「え?」
「最初からあなたのことが好きだったんだから、変われない」
彼も先生も、あなたの全てが好きだ。ちゃんと形にするように、いつもあなたに伝わるように、囁き続けると約束するから。
「あなたが好きです。好きだよイルカ」
だらんと下がったままだった腕が、そっと背中に添えられる。
「もう知ってる」
優しい響きが返ってきたので、温かい肩に顔を埋めた。ぽんぽんと大きな手が軽く背中を叩く。
「腹が減りました。今日は一楽のラーメンにしましょう。味噌豚骨チャーシュー麺大盛りトッピング全部のせにします」
そろりと顔を上げて先生の目を覗き込む。さっきまでの影はないけれど、大好きな一楽のラーメンで幸せになりたい心境なのだろうか。それを正面から聞く勇気はない。そうですと言われてしまったら、原因は俺以外ありえないのだから。
「奢ってくれますよね? カカシさん」
黒い瞳に悪戯な色が輝いている。ふふふと漏れた笑いが不安を打ち消した。作り笑いでもないし痛さも感じない、穏やかな笑顔。
「イルカが満足するまで何杯でも」
「そんなに食べられませんよ。ラーメンの力を借りなくても幸せになったから、一杯でいいんです」
「うん」
悲しさを紛らわす為に食べたラーメンを、空腹を満たす為に食べる。辛い記憶は新しい二人に塗り替えられて、俺達のはじめの一歩へ変わるのだ。大好きなものを大好きな人と一緒に。これからはずっとそうやって傍にいる。腕の中の大事な人を、もう一度強く抱き締めた。
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