◆各種設定ごった煮注意
解説があるものは先にご確認ください
大きな机に頬杖をついて、琥珀色の瞳がじっと見つめている。穴が開くほどたっぷり時間をかけた後、ふんと鼻息を噴き出した
「お前は分かってないみたいだけどね、確かにはたけ上忍なんて呼び方聞いたことがないよ」
「えっ、しかし受付の人間はみんな」
「そりゃ他の連中はそうだろうさ。お前はナルトを通してカカシと面識があった。一緒に飲み歩いたりしてたらしいぞ」
絶句して黙り込んだ横顔は、若干青くなっている。その理由が記憶を失っていることへの悔しさなら良いのだが、多分自身の不敬を嘆いているのだろう。大丈夫、と宥めたい気持ちと、その態度こそが問題だと揺さぶりたい気持ちを行ったり来たり。心配する気持ちはあっても、やはり自分を忘れられたというのはかなりの衝撃があった。
「心当たりはないのかい。お前、里外へは出てないだろう? 受付なら騒ぎになっているはずだし、何かあったとしたらアカデミーか」
「あっ!! すみませんちょっと失礼します!!」
心当たりはバッチリだったらしく、大きな声を上げて勢いよく頭を下げると慌てて部屋を出て行ってしまった。口頭では済まないということは、それなりの巻物や忍具が関係しているのかもしれない。媒体が判明すれば、それを元に解術出来る可能性は高くなる。後を追うべきかと悩んでいると、コンコンと爪で机を叩く音。
「いきなり顔色が良くなったねえ。そんなに不安だったかい」
茶化すような口ぶりだが、緩く上がった口角が喜びを示していた。こちらの動揺も、解術出来るかもしれないと浮き立つ気持ちもお見通しのようで、年の功には敵わないと悟る。恋人同士だとは知らないはずだが、普段人付き合いをしない人間が何度も一緒に出歩いていれば察することもあるのだろう。まだ幼い頃から知られている人に頭を押さえられているようで居心地が悪い。
「何か術の痕跡がありましたか」
「そうだなあ……。まあ、イルカが持ってきた巻物を見れば分かるだろうよ。一応聞いておくが、もしこのまま記憶が戻らなかったらどうする気だ?」
うまくいくかもと期待した気持ちに冷や水を浴びせられる。確かに、術の源を持ってきたとしてもそれが解けるかどうかはまた別の話だ。受付での様子を思い返せば、彼の異常は俺に対してだけなのだろうと考えられる。同僚に対してや里での行動は全く普通だった。俺と会うまで自分の異常に気付いていなかったようで、それはつまり最悪の事態を想定しておけということだ。
「先生の記憶は俺以外に異常が見当たらない。本人だけでなく受付にいた他の忍も、違和感を持っていませんでした。業務に支障がないのなら、解術できなくとも放置ですか」
周りから見ればただの友人同士だ。多少疎遠になったとしてもそんなものかと思われるだけだろう。わざわざ人と時間を使って戻さねばならない程の重要性がないと判断されても仕方がない。里は常に人不足で忙しく、一個人の感情の為に振り回すことは出来ないのだ。
「お前は」
綱手様が口を開きかけた所で、大きなノックの音が響いた。
大きな執務机に広げられた巻物は真っ白で何も書かれていない。試しに綱手様がチャクラを流してみたが変化はなく、文字が浮き出てくることも新たな術が発動することもなかった。
「多分これだと思うのですが、中身が消えていますね」
「何が書いてあったか覚えてないんですか」
「生憎そこら辺の記憶はさっぱりです。一昨日書庫の整理をした覚えがあるので怪しい巻物がないか見てみたら、一番上に積んでありました」
記憶を探るように目を回しているが、術をかけた段階から消失しているのならば出てこないだろう。巻物に触れてみると微かに彼のチャクラが残っているが、それ以外は何の痕跡も見出せず、間違いなく自分で発動させたということだけは分かった。突きつけられたのは、俺の記憶をなくすことを望んだのは彼自身と断定してよさそうだという事実で、どん底へとたたき落とされている。理由を聞きたいと思っても、記憶を取り戻す手掛かりさえないのだ。
「そんなに悲観することはない。イルカ、カカシ以外には異常がないんだろう?」
「はい。この三日間周りの人間から指摘されたことも困った覚えもありません」
「私が見た限りでは、お前の身体に異常はないよ。妙なチャクラを感知することもなかったしね。この巻物はまあ……預かっておこう」
そそくさとしまい始める様子に違和感を感じた。記憶に影響を与えるような危険な術を放置しておけというのも気になる。一応いのいちさんに診てもらうという提案すらしていないではないか。
「綱手様、その巻物知ってるんですか」
「えっ」
巻物を巻く手が止まった。間違いない、心当たりがあるはずだ。
「消えているから断定は出来ないが、多分な。カカシに対する記憶が消えてるんならこれ以上の影響は出ないだろう」
「どんな術なんですか? 教えて下さい」
「そうだなあ」
告げるべきかどうか悩んでいるように、うーんと腕を組んだ。若干身を乗り出した彼と二人、固唾を呑んで返事を待つが、曖昧な台詞に思わず顔を見合わせる。
「差し障りが出ないように中身は言わないでおくが、作ったのは自来也だよ」
火影室を退室して、回廊を二人で歩く。考えこむように黙ったまま前を向く横顔に、何と声を掛ければ良いのか分からない。俺の記憶をなくした彼は、もう別人でしかないのだろうか。嬉しそうに走り寄る姿も、照れくさそうに誘う姿ももう見られないのなら、あんなに必死になって駆けてきた意味はどこにある。さっきまで軽かった足取りはひたすら重く、背負ったリュックまでもがずっしりと肩に食い込んでいるようだ。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。綱手様の様子では、解術できる方法はないようです。はたけ上忍には良くして頂いていたようなのに、覚えていないとは」
悔しそうに下唇を噛む仕草に宥めるべきだと思う気持ちと、単なる義務感なのだから放っておけという気持ちが鬩ぎ合う。その後悔が俺への気持ちなら嬉しいけれど、そうではないと薄々感じてもいるのだ。
「カカシ」
「はい?」
「カカシって呼んで欲しい」
「しかしそのような……」
「先生は俺のことカカシって呼んでたから。思い出すきっかけになるかもしれないし、ダメ?」
逡巡するように頬を搔く姿はいつもの彼と同じなのに、俺の存在は消えている。喉が詰まって、口布の下で緩く口を開いてゆっくりと酸素を吸った。見た目は以前と変わらない友人同士が向き合っている図だが、一人は相手をさっぱり覚えていないしもう一人は今にも呼吸が止まりそうになっている。
「えと、では……カ、カカシさん」
恥ずかしそうに俯いた耳が真っ赤に染まり、手で覆われた口からくぐもった声で、照れるなこれ……と聞こえた。首筋ごと抱え込み耳に噛み付きたい衝動と、そうじゃないだろうと壁に拳を叩きつけたい衝動が入り混じる。目の前で笑う人を可愛いと思いながらも、過去の彼と比べてどうしてだと湧き上がる怒りが身体を揺さぶる。ぎゅっと目を瞑って耳の奥でガンガン響く鼓動に身を任せた。
「あの、間違ってたでしょうか」
恐る恐る届いた声は不安に彩られていて、却って頭をスッキリさせた。その声が聞き慣れたものだったからだと気付いても、今は目を向けない。
「ううん。俺もうみの中忍じゃなくてイルカ先生って呼ぶから。よろしくね」
「はい!」
パッと光りが散るような笑顔は確かに「イルカ先生」のもので、俺が知っていた「俺が知る前の彼」の顔だ。勤務に戻ると礼をして去って行く背中に問いかける。彼がいなくなった代わりにイルカ先生が戻ってきた。じゃあ、俺はどこへ行けばいいんだろう。揺れるしっぽを見つめても、答えは浮かんでこなかった。
腹が減っていたはずなのに、結局何も食べずに帰ってきた。気がつくと空はすっかり暗くなっていて、真っ直ぐ歩いてきたつもりなのにどこかでフラフラしていたらしい。馬鹿げた話だと笑いながら台所へ向かえば冷蔵庫に入っているのは水だけで、彼の家から任務へ立ったのだと思い出した。いってきますと言ったらご無事のお戻りをと微笑んでくれ、今頃はおかえりなさいと迎えてくれた彼と土産を開けているはずだった。玄関へ放ったままだったリュックから瑠璃色の瓶を取り出すが、一緒に飲みたかった人はもういない。封を切りながらシンクへ向かい、逆さにして全部排水溝へ流しきった。最後の滴まで落とし終えて放り投げたが、鈍い音が響くだけで表面に傷一つなく転がっている。中身がなくなっただけで外は変わってないんだから当然か。握り締めた拳を叩きつけようとして、振り上げた所でやめた。……それこそ馬鹿な真似だ。
「お前は分かってないみたいだけどね、確かにはたけ上忍なんて呼び方聞いたことがないよ」
「えっ、しかし受付の人間はみんな」
「そりゃ他の連中はそうだろうさ。お前はナルトを通してカカシと面識があった。一緒に飲み歩いたりしてたらしいぞ」
絶句して黙り込んだ横顔は、若干青くなっている。その理由が記憶を失っていることへの悔しさなら良いのだが、多分自身の不敬を嘆いているのだろう。大丈夫、と宥めたい気持ちと、その態度こそが問題だと揺さぶりたい気持ちを行ったり来たり。心配する気持ちはあっても、やはり自分を忘れられたというのはかなりの衝撃があった。
「心当たりはないのかい。お前、里外へは出てないだろう? 受付なら騒ぎになっているはずだし、何かあったとしたらアカデミーか」
「あっ!! すみませんちょっと失礼します!!」
心当たりはバッチリだったらしく、大きな声を上げて勢いよく頭を下げると慌てて部屋を出て行ってしまった。口頭では済まないということは、それなりの巻物や忍具が関係しているのかもしれない。媒体が判明すれば、それを元に解術出来る可能性は高くなる。後を追うべきかと悩んでいると、コンコンと爪で机を叩く音。
「いきなり顔色が良くなったねえ。そんなに不安だったかい」
茶化すような口ぶりだが、緩く上がった口角が喜びを示していた。こちらの動揺も、解術出来るかもしれないと浮き立つ気持ちもお見通しのようで、年の功には敵わないと悟る。恋人同士だとは知らないはずだが、普段人付き合いをしない人間が何度も一緒に出歩いていれば察することもあるのだろう。まだ幼い頃から知られている人に頭を押さえられているようで居心地が悪い。
「何か術の痕跡がありましたか」
「そうだなあ……。まあ、イルカが持ってきた巻物を見れば分かるだろうよ。一応聞いておくが、もしこのまま記憶が戻らなかったらどうする気だ?」
うまくいくかもと期待した気持ちに冷や水を浴びせられる。確かに、術の源を持ってきたとしてもそれが解けるかどうかはまた別の話だ。受付での様子を思い返せば、彼の異常は俺に対してだけなのだろうと考えられる。同僚に対してや里での行動は全く普通だった。俺と会うまで自分の異常に気付いていなかったようで、それはつまり最悪の事態を想定しておけということだ。
「先生の記憶は俺以外に異常が見当たらない。本人だけでなく受付にいた他の忍も、違和感を持っていませんでした。業務に支障がないのなら、解術できなくとも放置ですか」
周りから見ればただの友人同士だ。多少疎遠になったとしてもそんなものかと思われるだけだろう。わざわざ人と時間を使って戻さねばならない程の重要性がないと判断されても仕方がない。里は常に人不足で忙しく、一個人の感情の為に振り回すことは出来ないのだ。
「お前は」
綱手様が口を開きかけた所で、大きなノックの音が響いた。
大きな執務机に広げられた巻物は真っ白で何も書かれていない。試しに綱手様がチャクラを流してみたが変化はなく、文字が浮き出てくることも新たな術が発動することもなかった。
「多分これだと思うのですが、中身が消えていますね」
「何が書いてあったか覚えてないんですか」
「生憎そこら辺の記憶はさっぱりです。一昨日書庫の整理をした覚えがあるので怪しい巻物がないか見てみたら、一番上に積んでありました」
記憶を探るように目を回しているが、術をかけた段階から消失しているのならば出てこないだろう。巻物に触れてみると微かに彼のチャクラが残っているが、それ以外は何の痕跡も見出せず、間違いなく自分で発動させたということだけは分かった。突きつけられたのは、俺の記憶をなくすことを望んだのは彼自身と断定してよさそうだという事実で、どん底へとたたき落とされている。理由を聞きたいと思っても、記憶を取り戻す手掛かりさえないのだ。
「そんなに悲観することはない。イルカ、カカシ以外には異常がないんだろう?」
「はい。この三日間周りの人間から指摘されたことも困った覚えもありません」
「私が見た限りでは、お前の身体に異常はないよ。妙なチャクラを感知することもなかったしね。この巻物はまあ……預かっておこう」
そそくさとしまい始める様子に違和感を感じた。記憶に影響を与えるような危険な術を放置しておけというのも気になる。一応いのいちさんに診てもらうという提案すらしていないではないか。
「綱手様、その巻物知ってるんですか」
「えっ」
巻物を巻く手が止まった。間違いない、心当たりがあるはずだ。
「消えているから断定は出来ないが、多分な。カカシに対する記憶が消えてるんならこれ以上の影響は出ないだろう」
「どんな術なんですか? 教えて下さい」
「そうだなあ」
告げるべきかどうか悩んでいるように、うーんと腕を組んだ。若干身を乗り出した彼と二人、固唾を呑んで返事を待つが、曖昧な台詞に思わず顔を見合わせる。
「差し障りが出ないように中身は言わないでおくが、作ったのは自来也だよ」
火影室を退室して、回廊を二人で歩く。考えこむように黙ったまま前を向く横顔に、何と声を掛ければ良いのか分からない。俺の記憶をなくした彼は、もう別人でしかないのだろうか。嬉しそうに走り寄る姿も、照れくさそうに誘う姿ももう見られないのなら、あんなに必死になって駆けてきた意味はどこにある。さっきまで軽かった足取りはひたすら重く、背負ったリュックまでもがずっしりと肩に食い込んでいるようだ。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。綱手様の様子では、解術できる方法はないようです。はたけ上忍には良くして頂いていたようなのに、覚えていないとは」
悔しそうに下唇を噛む仕草に宥めるべきだと思う気持ちと、単なる義務感なのだから放っておけという気持ちが鬩ぎ合う。その後悔が俺への気持ちなら嬉しいけれど、そうではないと薄々感じてもいるのだ。
「カカシ」
「はい?」
「カカシって呼んで欲しい」
「しかしそのような……」
「先生は俺のことカカシって呼んでたから。思い出すきっかけになるかもしれないし、ダメ?」
逡巡するように頬を搔く姿はいつもの彼と同じなのに、俺の存在は消えている。喉が詰まって、口布の下で緩く口を開いてゆっくりと酸素を吸った。見た目は以前と変わらない友人同士が向き合っている図だが、一人は相手をさっぱり覚えていないしもう一人は今にも呼吸が止まりそうになっている。
「えと、では……カ、カカシさん」
恥ずかしそうに俯いた耳が真っ赤に染まり、手で覆われた口からくぐもった声で、照れるなこれ……と聞こえた。首筋ごと抱え込み耳に噛み付きたい衝動と、そうじゃないだろうと壁に拳を叩きつけたい衝動が入り混じる。目の前で笑う人を可愛いと思いながらも、過去の彼と比べてどうしてだと湧き上がる怒りが身体を揺さぶる。ぎゅっと目を瞑って耳の奥でガンガン響く鼓動に身を任せた。
「あの、間違ってたでしょうか」
恐る恐る届いた声は不安に彩られていて、却って頭をスッキリさせた。その声が聞き慣れたものだったからだと気付いても、今は目を向けない。
「ううん。俺もうみの中忍じゃなくてイルカ先生って呼ぶから。よろしくね」
「はい!」
パッと光りが散るような笑顔は確かに「イルカ先生」のもので、俺が知っていた「俺が知る前の彼」の顔だ。勤務に戻ると礼をして去って行く背中に問いかける。彼がいなくなった代わりにイルカ先生が戻ってきた。じゃあ、俺はどこへ行けばいいんだろう。揺れるしっぽを見つめても、答えは浮かんでこなかった。
腹が減っていたはずなのに、結局何も食べずに帰ってきた。気がつくと空はすっかり暗くなっていて、真っ直ぐ歩いてきたつもりなのにどこかでフラフラしていたらしい。馬鹿げた話だと笑いながら台所へ向かえば冷蔵庫に入っているのは水だけで、彼の家から任務へ立ったのだと思い出した。いってきますと言ったらご無事のお戻りをと微笑んでくれ、今頃はおかえりなさいと迎えてくれた彼と土産を開けているはずだった。玄関へ放ったままだったリュックから瑠璃色の瓶を取り出すが、一緒に飲みたかった人はもういない。封を切りながらシンクへ向かい、逆さにして全部排水溝へ流しきった。最後の滴まで落とし終えて放り投げたが、鈍い音が響くだけで表面に傷一つなく転がっている。中身がなくなっただけで外は変わってないんだから当然か。握り締めた拳を叩きつけようとして、振り上げた所でやめた。……それこそ馬鹿な真似だ。
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