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 思わず出た言葉はかなり不穏な響き。あっと思うもすでに余裕はなく、身構える前に追撃がきた。
「いや、悪口とかじゃなくて鈍いんだろうなあ~っていうか」
 この野郎っ!とまだ中身の残っているカップを握りつぶしそうになった。勿体ないと慌てて最後まで吸い上げる。冷たい甘さが怒りを癒やしてくれるかと思ったけど、むしろ逆効果。こんなに美味しいんだもん、最後まで気持ち良く味わいたかった!何でむかっ腹と一緒に飲み込まなきゃいけないのよ。この人はいっつもそう。ちょっと気を緩めた時、というかその瞬間を狙ったように私の神経を逆なでするのだ。わざと?わざとなの!?
「ちょっと待ってちょっと待って!違う、違うから!」
 キリキリと吊り上がった眉を見て慌てたように手を振っている。なーにが違うだ。そういう風にぽろっと出る言葉にこそ真意が詰まってるんだっつーの。構えてない言葉に嘘を込めるのは難しい。ナチュラルに出来るよっていうなら尚のことお近づきになりたくないわ。
「違っても違わなくてもどっちでもいーんで。はたけ先輩の心の内っていうのも聞いたし、私はこれで」
「ダメ。肝心な所を誤解してるから最後まで聞いて」
「……どうぞ」
「……」
「……」
「あの、言えないのなら」
「……言えないわけじゃないけど言いたくない」
「一緒でしょ!じゃあ本当に私は」
「分かった!言います」
「どうぞ」
「友達はイヤです」
「じゃあ」
「じゃあ今後一切接触しない見かけても声をかけない全く知らない赤の他人以下でっていうのは違います!そう言おうとしたでしょ」
 舌打ちが出そうになってそっぽを向く。逸らした目線の先にあみあみタマゴみたいな椅子がぶら下がっていた。最後に乗ってから帰ろうかしら。きっともう来ることは無いし。
「す、好きです」
「え?」
「あの日、レジにいるうみのさんを見て一目惚れしました」
「……」
「一目惚れっていうのは的確じゃないんだけど。カゴの中身がレジを通ってくのを見る笑顔とか、しまったって悩む顔とか、周りを見ていいですって言ったのとか。短い時間だったけど、色んなうみのさんを見たよ。だから……えー、好きです」
 白い肌がじわりじわりと色を濃くしてピンク色にそまってゆく。耳の端まで真っ赤に染めて無言の私を見ていたが、口を数回パクパクと開くと俯いてしまった。
 ドキドキとか全然無くてよく聞く話とは全く違うけど、それでも目の前のつむじを見ていたらこれは本当なんだろうなと思って、私も金魚になった。
「えと、あの」
「うん」
 くぐもった声がテーブル沿いに響いてくる。私はどんな顔をしてるんだろう。はたけ先輩みたいに真っ赤になってるんだろうか。分からない、見てみたい。それ以上にどうしようって言葉が頭の中をぐるぐる回って目の前がチカチカした。きゅっと閉じた口の代わりに今度はパチパチと瞬きをして、背筋を伸ばす。
「ごめんなさい」
 ピクッと肩が動いて垂れていた頭がそろりと上がる。
「何へ?何へのごめんなさい?俺がうみのさんのことを好きなのは迷惑?」
「そんなことは」
「じゃあ謝らないで。付き合ってなんて言ってない。好きになってくれとも言ってないでしょ。まだ謝るのは早いよ」
 真っ直ぐに見つめられて顔が熱い。確かにそうだけど、じゃあ何て返せば良かったの。
 ストローをくわえようとしてもう空になっていたのを思い出す。気まずさに俯くとふうっと息を吐く音が聞こえた。
「これから、これから考えて。まだ知り合ってそんなに経ってないでしょ。もう少し俺のことを知ってよ。ちゃんと言うから返事はその時に。ね?」
「……はい」
「うん」
 ほっとしたような響きに正面を覗き見る。力の入っていた眉が下げ、両手で包んでいたカップを持ち上げた。ぐっと傾けた途端ゲホゲホとむせ始めるので慌ててハンカチを取り出す。
「大丈夫ですか?」
「ん、っごめ、げほっ、んんっ」
 受け取ったハンカチで口元を抑え、必死で呼吸を整えている。知って欲しい一つ目の顔はこれでいいのかしら。
「なかなか冷めなくて。コーヒー」
「猫舌ですか」
「うん。だから慣れてるから。待つのは、慣れてるんだ」
 そうですか、とは言えなくて黙ったままカップを見つめた。空っぽのカップの表面でニコニコマークが笑っていた。
2021/09/12(日) 14:39 ロマンスは落ちてくる COMMENT(0)
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