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 里には多くの忍びがいるが、二つ名を持つ程の有名人はそういない。現役で里一番の有名人は、R指定の本を顔に被せて木の上で昼寝をしている。ここは俺だけが知っている彼の秘密の場所だ。そもそも、木の上だろうが昼寝中だろうが彼が自ら気配を絶った場合、追える人間はどれほどいるのだろうか。誰も知らない秘密の寝床に俺が気付いたのは、彼にとってはただの偶然だった。俺には奇跡のような巡り合わせだったけど。



 古今東西、子どもが大人の目を忍んでやることは二つにきまっている。ダメだと言われたことと、ダメだと言われそうなこと。どの子供もまだまだ細やかな人生経験から乏しい知識を掻き集め、知恵を振り絞って実行する訳だ。俗に言うイタズラってやつを。
 通常、アカデミー内では子どもが術を使用することは禁止している。子どもには未知数の可能性があるが、忍びの卵の場合それが暴発したら洒落にならない事態になることがあるのだ。
 本で見た。
 上級生がやってた。
 兄ちゃんに教えてもらった。
 子どもっていうのは大人の想像以上に周囲を観察しているもので、吸収したあらゆる物を混ぜ合わせた上に想像力を足してとんでもないことをやってくれる。ましてや忍の卵である以上、未知数の可能性が想定外の大惨事へと変貌してもおかしくない。だからアカデミー内では忍術は使用禁止。そのルールを如何に掻い潜るかに命をかけてるようなヤツは、いつの時代にもいる。そしてその格好の舞台となるのが、アカデミーの裏庭だった。

 アカデミーの裏庭には様々な植物が植えられていて、ちょっとした薬草園となっている。薬草学は、忍にとって重要な基本の座学だ。薬草、毒草から術の補助に使う草まで覚える事はたくさんある。忍ならば、命綱とも言える兵糧丸を自分で作れるようにならなければいけないし、毒を受けた場合は手持ちの薬が無くても対処しなければ危険だ。自生する植物の知識を得て置くことは、とても重要であり欠かせない。この裏庭は薬草園や花壇がある以外はポツンとベンチがあるだけで、実習以外では滅多に足を踏み入れる場所ではない。いつも子供達が駆け回っている校庭とは真逆の位置にあるが、その分普段から人気の無い空間でもある。内緒話、決闘、術の練習。子どもには大人に秘密の「やらなきゃいけないこと」がたくさんあって、静かな裏庭はその舞台になる。子供達が集うのは、先生達に見つからないようにコッソリと。幕が開くのは、大抵放課後。



***


 天気が良く、少し強めの風が気持ち良い暖かな日だった。きゃあきゃあと賑やかな校庭とは反対に、人気の無い教室は静まり返っている。戸締りを兼ねて放課後の校舎内を見回りしていると、裏庭から声が聞こえた。頭を寄せ合って輪になっているのは五人の子ども達。内緒話の最中かと気配を殺して二階の窓から様子を伺っていると、一人の少年が輪から距離を取った。あれはクラスで一番のやんちゃ坊主だ。ぐっと掌を合わせてチャクラを込め、忍術を発動させる。
「風遁! 烈風掌!」
 噴き出した風がまっすぐと子供達へと向かう。一瞬ヒヤッとしたがアカデミー生のチャクラでは小さなつむじ風程度の威力にしかならず、離れていた子供達がぐらつく程度ですんだ。
「なーんだ大したことないじゃん」
「スカーフが乱れちゃった」
「直してあげるよ」
「今のはちょっと失敗したんだよ! 本当はもっとスゴイ風がびゅうって」
 わいわいと言い合う子供達にほっと息を吐いた。烈風掌は風遁の基本忍術ではあるが、それはそのまま誰にでも扱える術という意味を持つ。下手したら友達全員を吹き飛ばしていたかもしれないのだから、不幸中の幸いというヤツだ。

 こりゃ全員まとめて説教だなと窓に手を掛けたら、今度は自然の突風が吹いた。向いあっていた二人の少女の手元から、キレイな桃色のスカーフが風に煽られて舞い上がる。確かあのスカーフは、長期任務に出ている父親が贈ってくれたものでは無かったか。記憶は正しかったようで、木の枝に引っ掛かってヒラヒラと揺れているスカーフを見つめる少女の瞳にみるみる内に涙の膜が張った。
「だ、大丈夫だ! 俺、木登り得意だから取って来てやる!」
 風遁を使った子どもがパッと木に飛びついた。宣言通り、あっという間にスルスルと登っていく。スカーフの引っ掛かっている枝へ辿り着き、細い枝の先まで慎重に進むとしっかりと掴んで確保した。下ではらはらと見守っていた子ども達がわっと拍手すると、得意そうに高々とスカーフを持った手を突きあげる。一件落着かと気を弛めた瞬間、さっきよりも強い風が吹いた。得意気に片手を上げていたせいか揺れる葉と撓る枝に煽られて、ぐらぐらと身体を前後に揺すっている。コントロールを失ったように揺れる身体は、今にも枝から落ちてしまいそうだ。これは不味いと身を乗り出したが、思わぬ方向からの声では驚かせてしまう。すぐさま飛び出そうと窓枠に足をかけたが悲鳴を上げる間もなく高い枝から滑り落ちた。窓枠を蹴る直前目の前を何かが横切り、次の瞬間地面には子供を抱えたカカシ先生が立っていた。慌てて裏庭へ飛び降りると、しっかりスカーフを握りしめた子どもをひょいと渡される。
「じゃ、後はよろしく」
 そう言うと、そのまま姿を消してしまった。後に残ったのは、呆気に取られた子ども達と俺。
「先生、今の……」
 宙吊りになったまま首だけぐるりとこちらへ向けて、やんちゃ坊主が聞いてきた。
 そうだな、まずは。ストンと地面に子どもを下ろすと、両手を腰に当てて思いっきり息を吸い込んだ。



 一頻り雷とげんこつを落とした後は、怒涛の質問タイムだった。
「先生、あの人誰!?どこから来たのか全っ然見えなかった!!いきなりひゅんって現れたよ!」
 何で子どもってのは、叱られた瞬間からそれを忘れるのかなー。こいつ自分が騒ぎの原因だって分かってるんだろうか。興奮気味に詰め寄ってくるやんちゃ坊主に頭を抱えたくなる。
「あの方は、はたけカカシ上忍だ。里で一番の忍だぞ」
「えーっ里一番の忍!?それ未来の俺じゃん!!」
 わあすごい。断言してる。そういえば火影になるって言ってたやんちゃ坊主もいたなあ。夢は大きい方が良いし、目標は高い方が良い。それらを自由に育むのは子供達の特権でもあり、見守るのは俺達教師の役目だ。内心の苦笑いを押し殺す。
「そうだな。お前もいずれ里一番の忍になるかもしれない。だが、任務を行う上ではルールを守る事も必要なんだぞ。で、アカデミーのルールは何だ? もう一度最初から言ってみろ!」
 自分を助けてくれたのが里の誉れだと知って興奮している頭をもう一度冷まさせる。渋々ながらも答えたのを確認して、日暮れ前に家へ帰した。
 あの時、裏庭にいたのは子ども達だけだった。カカシ先生はどこにいたのだろう?木から落ちた子どもを助けるとあっという間に消えてしまった。



 元より、里外にも名を知られている有名人との接点など無かったのでちょっと心が弾んだのは確かだった。鮮やかに現れて子供を助けた姿は、乙女でなくともときめいた。ただ、それが確かな繋がりとなるはずもなく、いつも通り受付で挨拶を交わす程度の間柄から進展などしない。少し残念だったが仕方のないことだ。
 それでもあの裏庭は俺にとって特別な場所となり、廊下を通る度に校舎の脇で揺れる葉を見つめてしまう。ひょっとしたら、あの梢に誰かが座っているのではないかと期待して。
2021/09/02(木) 16:54 三度目の恋でも COMMENT(0)
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