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 エンドマークを付けるには、やらなきゃならないことがある。受付へと報告書を提出し、黙りこくって火影室へ向かった。綱手様が恋縛りの術を知っていたのなら、俺達の関係も察しているだろう。いい大人が封印された巻物まで持ち出して何をやっているのだと、叱責されてもしょうがない。思わず溜息を吐きたくなるが横を歩く人の顔を見ては飲み込むしかなく、どうしたもんかと頭を掻き毟る。原因の一つとはいえ巻き込まれた形の俺とは違い、先生は術を発動させた当事者だ。書庫にしまってあった巻物を勝手に使用した点から見ても、何かしらの罰は与えられるだろう。彼がこんなことをしてしまった原因は俺であり、先生一人に負わせまいとしても、所詮綱手様の胸三寸だ。聞き入れてもらえるかは何とも言えない。俯かず真っ直ぐ前を向いて歩く姿はさすが「先生」だなと言いたいが、一皮剥けば不安にかられて暴走しがちな顔があると知っている。今までの俺は彼にとって頼れる相手ではなかったが、もう違うのだと信じてもらいたい。先生を支えるのは、恋人である俺の役目だ。
 厳しい顔が一人で全てを背負い込んでいるように見えて、揺れる指先をそっと掴んだ。驚いたように振り返った顔に笑いかける。
「一緒に行こう」
 力の入っていた眉が垂れ下がる。指先を俺に渡したまま、また前を向いて歩き始めた。

 執務机の真ん中には自来也様の巻物が置かれている。指先で転がしながら上目遣いで見られると、嫌な予感しかしない。大体、先生が話しているのに視線の三分の二はこちらを向いているのだ。どちらに対して意見があるのか一目瞭然だろう。
「大変ご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」
 大きく一歩前へ出た先生が頭を下げた。直角に曲がった腰の向こうで、片眉を上げた綱手様が俺を見ている。先生が説明したのは、術の効力が解けて全て思い出したことと勝手な行動への反省だけだ。まあ、この場でぐだぐだ俺達の内情まで言い募らなくても良いだろうが、お前はどうだと射抜く瞳へ腹を決める必要はある。
「きっちり縛られました」
「カっ」
「だろうな。この甲斐性無し」
 ふんと鼻息を噴いて腕を組む。どっかり寄りかかった椅子が大きな音を立てて軋んだ。
「イルカがこんな真似をしたのには、それなりの原因がある。面白半分で術を掛けるような子じゃないって分かってるからね。お前達、里長を舐めるなよ?」
「俺に責任があります」
「分かってる」
「綱手様! 違います俺が勝手に」
「お前に責任がないとは言ってない」
「はい」
 しゅんと項垂れる頭に目がいくが、ビシビシ突き刺さる視線にやむなく戻した。先生は無責任な人ではない。術の内容とその影響、考案者まで加味した上で発動させたはずだ。これが俺以外の人間まで忘れてしまうようなら使わなかっただろうし、永続的な効果があってもそうだろう。苦しみ悩んでいた中で、ほんの短期間だけでも救ってやろうという囁きに勝てなかったに違いない。お前の恋が叶うぞとぶら下げられて、思わず飛びついてしまった心境を思えば俺の胸も抉られる。先生は認めないだろうけどやっぱり俺にも責任はあって、術を知っている綱手様が投げる視線の意味もそこにあるのだ。
「異常もなく発動したのは運が良かったからだと思いな。封印して保管してある巻物の中には、危険な物や不完全な物もあると分かっているだろう。苦しいのなら、どこかへ吐き出せ。無理矢理抱え込んで爆発してもうまくいくとは限らんぞ」
「はい」
 厳しい言葉とは裏腹に先生を見つめる瞳はほんのりとした甘さを含んでいて、綱手様の優しさが見える。普段真面目な人が暴走せざるを得なかった、その心持ちを思えば強くは責められなかったのかもしれない。ほっとしたように肩の力を抜く先生の背中をぽんぽんと軽く叩くと、はにかんで鼻傷を搔く。可愛いなあと思ったのは当然見抜かれていたようで。即座に固い声が飛んできた。
「こらお前はまだだろ。鼻の下を伸ばしてんじゃないよ」
「反省しております」
 同じように頭を下げたのに溜息が落ちてきたのは何故だろうか。二人への態度に明らかな差を感じるのだが、気のせいとは思えない。
「木ノ葉はお前が守り、生きている里だ。イルカだけじゃない、忘れるな」
 里の者は火影の子だという言葉を思い出す。投げかけられた言葉は思っていたよりもずっと温かく、優しいものだった。子供達が愚かな間違いを犯したとしても、諭し導く手がある。俺もその手に引かれていたし、これからは伝えてゆかねばならないものだ。そんなことと鼻で嗤うような真似をしていたのは遠い昔の話ではない。それでも、今は違うと思える。全ては隣で笑うこの人から。手に入れたものはずっと大きく、大切なものだ。
2021/09/02(木) 16:47 三度目の恋でも COMMENT(0)
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