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 物語は、まだ半分。この先は俺も知ってる話だ。
「俺はあなたに告白して付き合うようになった。そこまでは望んだ通りだったんじゃないの? 感情は別の方を向いてしまったみたいだけど」
「カカシ先生が言ってくれるまでは、好きな相手が自分だなんて分かりませんでしたよ。自分以外の誰かを思うあなたといるのは、想像以上に辛くて耐えられなかった。結局、記憶が戻るまで我慢できずに振っちゃった」
「それ、本当に痛いからやめて……」
「あはは」
 声を上げて笑う顔にはざまあみろと書かれていて、自業自得といえちょっと泣きそうだ。彼を苦しめたのは自覚しているが、俺も結構悩んでいる。もしもあの時、記憶を失った先生に俺達の関係を告げていたらどうなっていたのだろう。心が千切れるような顔をして、「あんたは俺を好きじゃない」と言わせずに済んだかもしれない。けれど、浮かれたまま過ごしていたら、苦しみながら吐き出した辛さを彼だけに背負わせたままだった。記憶が戻った後でわざわざ言うとは思えない。必要だったとは思いたくないが、否定だけでは終われないだろう。
「正直、ちょっと自惚れてました。いい勉強になったっていうのが情けないけど」
「俺は反省してます。ちゃんと言えば良かったのに、封印されている術まで持ち出して。綱手様にまでご迷惑をかけました」
「その術って辺りが、はたけ上忍が受け入れないと思う理由?」
「そうですね。最前線を駆ける上忍から見たら、こんなことで記憶を操る術を使うような真似は許せないのではないかと」
 また俯いて唇を噛むので頬にキスしてやった。全く……と言いつつ染まる頬にもう一つ。
「上忍ったってそんな大層なもんじゃないですよ。そもそも俺がちゃんとしてたらあなたが苦しむ必要なんてなかったでしょ」
「でも」
「俺ね、先生に告白して逃げられた時に思ったの。普通、そうだよなって。だけど先生に告白された時は、何も思わずにいいよって言っちゃったんだよ。自覚なかったけど、あなたに好意を持ってたのは確かだと思う。これはちょっと大袈裟な痴話げんかだよ。忍だって人間なんだから、まあこういうのもあるでしょ」
 ぽかんと口を開けた顔は呆れていると言ってもいいかもしれない。先生の中の上忍像を壊してしまったか。でも、どこぞの御大層なはたけ上忍よりも目の前のカカシ先生だけ見ていて欲しい。
「カカシ先生って結構……」
「そーだよ。俺の愛読書は兵法書じゃなくてイチャパラです」
「そういやそうだった」
 くふふと笑う顔に頬を寄せた。くるくると変わる表情が、嬉しい楽しいと弾む心を連れてくる。
「やっぱり上忍の考えは俺には分からないのかな」
「何?」
「自来也様の術、恋縛りの術っていうんですよ。相手を縛りつける術かと思ったけど、縛られていた俺を解放してくれる術だったんだなあ」
 さすが自来也様と感心しているので、ぎゅっと思い切り抱きしめた。
「解放されないでよ。お互い雁字搦めに縛られてればいいじゃない。『恋縛り』なんでしょ?」
 ね? と顔を寄せたらまたしても思い切り突っ張られた。
「せーんせ、二人きりなんだからいいでしょう」
「残念ながら、雨は止みました。時間です」
 ふと曇った眉をつんつんと突かれた。突いた本人も、原因がよく分かっているのだろう。
「一緒に帰りましょう。里へ戻ったら温かい物を食べたいです」
 帰還後の約束は、共にいたいという言葉への返事だ。こみ上げる喜びを腕に込めて思い切り抱き締めた。



 一つ装備をつけるたび、忍の顔へと戻ってゆく。クナイホルダー、ベスト、手甲、額当て。一歩小屋を出たら里に着くまで気を抜けない。共に駆ける人が、恋人であっても同じこと。ストーブの火を落としたら、もう出立の準備は完了だ。
「先生?」
 難しい顔をしてゴソゴソとポーチに手を突っ込んで何か探している。片手に持った額当て以外の装備は一通り身につけているが、兵糧丸でも出そうとしているのだろうか。
「参ったな。カカシ先生、髪紐知りません?」
 おっかしいなあと言いながらキョロキョロ見回しているが、見た所糸屑すら落ちていない。あーもう! と言いながらざっと髪を掻上げる仕草はそそられる物があるが、森の中を駆けるには邪魔だろう。ポーチに手を入れて皺の寄った紙袋を取り出す。あの日から入れっぱなしだった袋はお守りのようになっていたけれど、本来の持ち主へと渡せる時が来た。使ってもらえることなどないだろうと思っていたので素直に嬉しい。皺を伸ばすように一撫でして髪を押さえている先生の前へ出した。
「これ使って下さい」
「開けて良いんですか?」
「うん」
 もう皺が寄ってくしゃくしゃになっているのに、丁寧に封を開いてくれる。袋の中からくるりと丸められた髪紐を取り出した。彼の黒髪に溶け込むような深い濃藍色には、寄り添うような銀糸が一筋だけ入っている。絹糸で編まれた髪紐は滑らかな手触りで、そっと指先で表面を撫でた彼にも伝わったはずだ。
「とても綺麗ですね。これ……」
「先生へのお土産。渡すまでかなりかかっちゃったけど使ってくれる?」
「ごめんなさい」
 瞳の表面にうるうると膜が張った。受付にいる彼には、俺がいつどんな任務に就いたのか分かっている。絹糸で編まれた髪紐を土産にするような場所はどこなのか。そこをいつ通ったのかも彼は知っている。

 お互い、始めから疑う必要などなかった。先生は俺を好きで、俺も気付かずに先生へ恋していたのだ。ちょっと立ち止まればいくらでも気付けただろうけれど、不安に駆られた俺達には見つけられなかった。お互いを何よりも大切な相手だと分かっていたから、二人とも臆病になり過ぎたのか。手放すことなど出来ないのだから、大事にしまい込んで囁き続けるしかない。
「あなたの髪に似合う色を選びました。大切な恋人につけて欲しくて」
 絡み合い一本となった濃藍と銀のように、俺達も一緒にいたい。あなたも同じ気持ちなら、どうかその髪を飾ってほしいと願っている。思いは言わなきゃ伝わらない。痛い思いをして学んだのだ。心を声に出そうと息を吸った瞬間、彼の口から出た言葉に胸が震えた。
「俺達みたいな色ですね。ずっとこうして一緒にいたいな」
 ぽとんと手のひらに落ちた涙を髪紐が受け止める。瞬きをする度に、頬を伝う涙が増えた。
「そう思って決めました。先生の髪に結んでね」
 親指で目の縁をなぞって涙を拭き上げる。ゆっくりと傾けた顔を近づけたが、今度は拒まず受け入れてくれた。
2021/09/02(木) 16:46 三度目の恋でも COMMENT(0)
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