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「俺ね、呪われてるんですよ」
 は?と言いそうになって、摘まんでいた薩摩揚げを口に突っ込んで蓋をする。パンパンに膨れた頬を見たカカシさんは少し笑って、蕪の浅漬けを引き寄せた。
「本当だよ。あんたなんかぜーったい恋人出来ない!ずーっと片思いだからね!って」
「待ってください、その口調……」
「そ。呪いをかけられてからそろそろ二十年近く経つかなあ」
 んふふと笑う顔に力が抜ける。じっとりする手のひらをズボンに擦りつけた。
 呪いなんて迷信だという者もいるが、ここは忍の隠里。呪いなんて皮を被ったとんでもない忍術の可能性だって捨てられない。悪い冗談はやめてもらいたいものだ。
「子どものケンカでしょう?呪いだなんて」
「でもさあ、そういうのってずっと忘れられなかったりしない?実際俺は恋人いないし、案外本物なのかも」 
 おどけたように眉を上げて、一人で笑っている。こっちにとってはちっとも笑いごとじゃない。
 喉を落ちてゆく酒がやけに染みる。牽制まがいなことをされるのは、きっと一ヶ月前に渡した小さな菓子のせい。
 俺はどうして勘違いしてしまったのだろう。受付からだなんて誤魔化しは、この人に通用しなかったのだ。お返しだなんて名目で連れ出して、まさか曖昧に包んだ拒絶を与えられるとは思わないじゃないか。
 受け入れられると思うほどおめでたくはない。でもこんな嫌みなやり口は性に合わなかった。ハッキリと言わないのなら、分かりましたなんて顔をするものかと火が灯る。
 焼けつくような熱さを感じながら、もう一杯呷った。
「ちなみにどういう状況だったんです?それ」
「告白されたの。カカシちゃんが好き!結婚しようねって。だから先のことなんて分からないよって」
「うわあ」
「何その反応。合ってるでしょ」
「いやまあ、ねぇ?振られた腹いせの捨て台詞だったか」
「そうなんだけどさ。俺は呪いに守られてるんじゃないかって思ったりするよ。一緒にいたいと思う相手が出来たって、現実には厳しいじゃない。すれ違うばかりの相手を思ったり、手が届くはずのない人を眺めて苦しむなら、最初から無理なんだって示す楔があるのは救いみたいなものでね」
 丁度いいと笑う顔が淋しげに見えるのは酒のせいか。楔を考えずにはいられないほど焦がれる相手がいたなんてちっとも知らなかった。俺も呪いに感謝するべきなのかもしれない。だけど、幼い日の戯れ言なんて本気の思いを見つけたら吹っ飛んでしまうだろう。それがずっと先なのか、信じられないくらい近い未来なのか、俺が知ることは出来ない。
 楔に留められた人を解放するのは俺じゃないと言われたら、どうしたって自棄になる。お医者様でも治せないなんとやらで両目が曇りまくってるのは、こっちだって自覚の上。大の男が小さなチョコレートに希望をのせるなんて恥まで晒したんだ。どうせやるならとことんだ。
 隣に座る人の太股の上へ、そっと手を置く。ピクリと反応した肩はそれ以上動かず、逡巡するように杯をじっと見つめている。
カウンターに肘をつき、下からカカシさんの顔を覗き込んだ。
「呪いの範囲、試してみましょうか」
「範囲?」
「幼い女の子の想定ってのはどこまでだと思いますか。恋人にならなきゃいいんですか。告白しなかったら大丈夫?相手が男で、体だけってのはどうなるんでしょうね。きっとその子が知らない未知の世界だ。それでも呪いは解けないのか。大人になったんだし、試してみるのもアリでしょう?」
 太股の上の手でゆっくり円を描くようにして撫で回す。ククッと声が漏れて、カカシさんもカウンターに肘をついた。俺と向かい合うように体を傾ける。
「あなたが試してくれるの?」
「お望みならば喜んで」
「それは困るなぁ」
 酒の冗談に寄せようと浮かべる笑みが凍り付く。分かっていたつもりなのに、やっぱり苦しい。指先が震え出しそうで、太股に置いた手を引いた。
「先生としても試しにはならないんだよね。むしろ呪いの成就を後押ししちゃう。意味分かる?」
 ねえ、と覗き込む瞳はさっきと同じ色をしている。理解できない体がしゃっくりを押し出した。ヒャクっと妙な音が出る。飛び上がる肩に浮いた手が取られてピタリと手のひらが合わさる。
「どうしようか」
 ニコリと笑いかけられて、また一つしゃっくりが飛び出した。
2022/03/18(金) 13:56 短い物 COMMENT(0)
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