◆各種設定ごった煮注意

解説があるものは先にご確認ください
 イルカはお人好しで仲間思い。よく笑うしなくし怒るし、この年で鼻血吹いたりするし、分かりやすいヤツだよな~って思われてる。
 たしかに落ち込んだら肩を落とすし、全身で喜びを表すようなタイプだけど、本当のイルカはちょっと違う。それを俺が知ってるのは、ラーメン仲間だったから。
 
 俺もイルカもラーメンが好きで、しょっちゅう一緒に一楽へ行った。金がない時は、量があって腹がふくれ、なおかつ俺たちのラーメンへの期待値を裏切らないレベルで、最も懐に優しいカップラーメンを探求したもんだ。
 あの頃の俺達は、どんなことがあっても一楽でラーメンを食べれば、なんとかやっていけると思っていた。
 あんな子ども時代を乗り越えてきたんだ。なにもかも失ったあの時を思い出せば、好きに一楽へ座れるようになったことが夢みたいだろう。だから大丈夫。一緒にラーメンを食べる仲間もいるし、と笑いあった。

 充分成長したと思っていたが、きっとまだまだ子どもだったんだなあ。
 これさえあればなんてのはただの思い込みで、現実の重さに太刀打ちできない日がくるって理解してなかった。
 どんなに好きなものでもどんなに大事なものでも救われない。どぶんと深い沼に落ちるような、目を開けても閉じても変わらないまっ暗な闇の中にいるような時間が訪れる。
 それはラーメンから立ち上る湯気の前でより鮮明になり、包み込む丼の温かさが打ちのめす。

 感じない。何も。
 同じ場所で同じものを食べているはずなのに。

 絶対的な存在だった一楽のラーメンは、笑い合っていた俺達そのものだったと気づいた。だから行けなくなった。うまく言えないけど、壊れかけてるのを知るのも壊れてしまったと感じるのも怖すぎて。

「そうだな。…………よし、酒だ!」
 俺達は大人だし!とイルカが笑った。

 一楽行こうぜと言っていた俺達は、飲みに行くか?と言うようになった。昔とは違う誘いと日常の苦さが少し淋しいけれど、それはそれ。
 イルカとの時間が大切なのは変わらない。



「へえ」
 無表情、無反応。ひとこと溢した口はすぐに杯で塞がれた。
 だけど、ほぼ受付でしか面識のない相手の誘いにのるなんて、それ自体が答えみたいなもんだ。
「イルカも同じだったんですよ。だから分かってくれた」
「……何を言いたいわけ」
「アイツは思ってても言いません。たとえ味がしなくても、俺が誘えば一楽へ付き合ってたはず。そういうヤツです」
 喜怒哀楽のハッキリしたお人好し。子ども時代の万能感を抱えたまま、現実に潰されかける仲間に付き合う。自分も同じように溺れかけていたとしても。
「明るくておおらかなイルカせんせーじゃなくて、うみのイルカもいる」
「思い込みが激しいの、変わってないんじゃないの」
 財布から出した札がテーブルに置かれた。
「闇の中は苦しいって誰が言った」
 静かな声が腹に響く。

 見透かされている、と分かって顔が熱くなった。せめてと睨み返そうとした正面には、もう誰もいない。
 大袈裟なほど深く息を吐く。ゆっくりと息を吸って、もう一度吐く。力の抜けた体へ酒を注ぎ込んだ。

 いろんな話をした。どんな顔も見せた。だからお互いを分かっているつもりだった。だから、悔しかった。
 あんたは何も知らないだろう。太陽みたいなイルカに惹かれたなら思い違いだと言ってやろうと思ったのに。
 そんなことは余計なお世話どころじゃなく、だからなんだ?とでも言いたげな様子に何も言えなかった。
 一楽に座るイルカの隣が俺じゃなくても、それが彼なら、幸せそうに笑える。分かってはいた。認めたくなかっただけで。
「イルカ、おめでとう」
 次はちゃんと伝えてみせる。



2023/07/11
2023/10/04(水) 18:24 NEW! COMMENT(0)
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