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 はたけカカシは甘い物が嫌いである。
 いつの間にか里中の認識となっているソレは、実際のところ根も葉もない噂に過ぎず、正しいとは言えない。彼は子どもたちからもらった団子を美味そうに食うし、お疲れですかと渡した飴をありがとうと受け取って嬉しそうに舐める人だから。
 まあ、甘いものが苦手ってのはなんとなく大人な雰囲気を演出できるし、彼に似合っているのかもしれない。だからこんなにも大勢の人が誤解しているのだろう。
 当の本人はまったく認知していていないのもどうかと思うけど、彼はどこかズレているからそれもアリだ。
 自分の前に置かれた冷や奴と枝豆をちみちみやりながら、不思議そうに首を傾げている。俺が頼んだ肉じゃがはどこいったんだろうと思ってるんだろうが、残念ながらもう残っていない。あんたの右隣のくノ一がテーブルの脇へ追いやったのを、その向かいのくノ一が即たいらげていた。向いの囮につられてちゃんと見ていないから、食いっぱぐれるのだ。
「イルカお代わりは?」
「え?」
 きゃあきゃあと響く声がうるさくて、向かいのヤツが口パク状態だ。寄りそうになる眉をこらえ身を乗り出す。
「お代わりいるかって聞いたの」
「あー梅割り」
「ん」
 隣のテーブルは男一に女五。一方こちらは男四と、えらい偏りがある取り合わせでも、中心に座っているのがカカシさんなら仕方がないと諦める。いつもなら。
「なあ」
「うん」
 どことなくお通夜状態なのは、この会が「バレンタイン直前に振られた仲間を励まそうという名目で集まるバレンタイン当日独り身の会」であるにも関わらず、急に参加したカカシさんを見つけたくノ一達が群がってきたせいだ。彼女らの行動はとても素早く、共に囲んでいたテーブルからカカシさんを引っ剥がし、隣に陣取ってしまった。
 こんなことなら最初からそっちと飲みに来ればいいものを。
「イルカ、声に出てる」
「知ってる」
「酒が不味くなるからやめろ。俺達は最初から四人で来たんだよ。あの人は、たまたま隣のテーブルに座ってただけ」
 はいカンパーイという声で力なくグラスが上がる。弱々しいカチンの響きが余計に痛い。せめて食うべとメニューを開けば、テーブルの向こうから肩を叩かれた。
「先生、俺焼き鳥食べたい。ねぎま」
「塩ですか。タレ?」
「タレ」
「えっ」
「ウソ」
 えー?と口に人差し指をあてて小首を傾げたくノ一が、つんつんとカカシさんの袖を引っ張る。
「はたけ上忍、甘い物苦手じゃないんですかあ?焼き鳥は塩だと思ってましたあ」
「え、なんで。食べるよ甘い物。焼き鳥のタレ美味いでしょ」
 なるほどと酒を飲む。えらい食い意地の張ったくノ一だなと思っていたが、甘い物が苦手だからと肉じゃがはアウト判定されたわけか。
取り合うくらい美味いのかと思ってしまったではないか。追加注文しなくて良かった。
「ていうか、甘い物が苦手なら焼き鳥のタレもアウトになるってどうゆうことだ?」
「うちの里のくノ一大丈夫かよ」
 ごにょごにょと溢すぼやきに苦笑いが出る。聞こえませんようにと横目で見たら、あちらはあちらで作戦会議をしていた。
「ねえ、イケるんじゃない?」
「私もそう思う」
「どうしよ、いまからチョコ買ってくる?」
「まだ木ノ葉マートなら開いてる」
「チョコ?みんなチョコが食べたいの?」
 ひょいとメニューを覗きながら、チョコはないよねえと呟くので、堪えきれずに笑ってしまった。
「え。何?」
「違いますよ。チョコを食べるのはあんた」
「へ?」
「今日はバレンタインデーでしょ。くノ一達は、カカシさんにチョコをあげようと相談してるんですよ。ついさっきまで甘い物は食べないって勘違いしてたから、挽回のチャンスだと思ってるんでしょ」
「……あーあったね。そういうイベント」
 そうかそうかと頷く姿に、やぱりこの人はズレてんなあと思った。こんだけモテるのに、噂のせいでチョコレートをもらったことがないのだろう。そこだけ見れば、哀れと言えなくもない、か?
「あ、あったあった。良かった。えと、先生」
「はい?」
 さっきまで胡座をかいていたのに、いつの間にか正座をして背筋を伸ばしている。まっすぐ俺へ向きなおっているので、つられて俺も座り直した。
「これ、受け取ってください」
 どうぞと差し出されたのは小さな瓶。目の高さまで持ち上げてフリフリと振ってみる。キュポンと蓋を開けて匂いを嗅ぐ。
 確かめるまでもなかったが、これはどう見てもやっぱりアレだ。
「一応聞きますけど、これは」
「媚薬です」
「なぜ俺に?」
「チョコレートがなかったもので。でもチョコレートも元を正せば媚薬みたいなもんだし、一緒でしょ?」
 さっきまで聞こえていた音が全てなくなった。ごそごそ相談していたくせに、一斉に口を閉じるなんてなってない。そこは忍として、表と裏を使い分けるべきだろうが。
 じろりと一周睨み回し、手の中の媚薬をゆらゆら揺らす。
 問題は、なぜ媚薬かというよりも、なぜ俺にという点だと思うが、彼にとってそれは問題じゃないってことだ。
 とても明快で非常に分かりやすく、ではと小瓶の中身を一気に飲み干した。ズレてばかりのカカシさんは、ちゃんと答えが分かるだろうか。
 ゴクリと飲み込んで、ペロリと唇を舐めた。喉を通って体の中がピンク色に染まり始める。はみ出した舌が引っ込む前に手を掴まれたので、心の中でにんまり笑った。
 それで正解。花丸だ。
2024/02/14(水) 15:11 NEW! COMMENT(0)
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