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 満面の笑みに引き攣った笑顔を返す。両手で拝借した依頼書を見ても彼の言うことに間違いはない。書かれているのは確かに俺の名前だ。
「というわけで、今日一日よろしくお願いします」
「はあ……」
 某かの理由があればまだ納得がいくのだが、依頼内容は何度見ても変わらない。目を擦っても日の光にかざしても同じだ。わざわざ俺を指名した依頼人は、はてなマークを飛ばしまくる俺を楽しそうに眺めている。
「ご確認させて頂きたいのですが」
「はい」
「依頼主はカカシ先生で間違いないでしょうか」
「はい」
「ではこの依頼内容なのですが」
「そのまんまです」
 ニコリと笑いかけられてまた首を傾げる。カカシ先生は、指名料を払ってまで俺に依頼をしたいらしい。
それ自体は構わない。彼と俺では立場が違うので、持っている知識に差があるのだ。アカデミーや書庫について知りたいので時間を取ってくれ、というのなら分かる。里を通して依頼しなくてもと思わないでもないが、彼自身の依頼に絡んでいるのであれば無いとは言えなかった。しかし、この依頼内容は想像も理解も超えている。
「俺は何をしたら良いのですか」
「そこに書いてあるでしょう。そのままで。うみのイルカとして一日過ごしてくれたらそれでいいんです」
「はあ」
 聞いてみたところでさっぱり分からないのは一緒だった。



 任務が終わって依頼料を払う時にまたお会いしましょうと言われたら、俺は頷くしかない。書類が回ってきた以上、これは里を通した正式な依頼なのだ。とはいえ、いつも通りに過ごしてと言われたので予定通りアカデミーの教壇に立っている。
(何かしらの作戦が進行しているのかもしれない。俺は知らない内にその一端を担っているのだろうか。だとしたらこの依頼をきちんとこなして、カカシ先生の信頼に応えなければ)
 ちょっとガキくさい思考ではあるけれど、まあ忍里ならありうることで、普段通りを装いつつ気を引き締めるのは忘れなかった。昼を誰も近寄らない校舎の裏で取ってみたり、移動する姿を追う気配がないか探ったり、その程度だけど。
 気負いとは反対に全く何も起こらず現われず、あっという間に夕方になった。教室の整頓をして職員室でプリントを鞄に入れたら本日の業務は終了。
「一体何だったんだ?」
 思わず呟いたところで、仕方がないと思うのだ。

 校庭を歩きながらこの後どうすれば良いのかと考える。一日と言われたけれど、普段通りならあとは一楽へ寄ってラーメンを食べるか、スーパーで買い物をするかという程度。勝手に家へ帰るわけにもいかないし、肝心のカカシ先生はどこにいるのだろう。受付へ寄って聞いた方が良いかもしれない。立ち止まり悩んでいるとひらりと木の葉が降ってきた。
「遅くなっちゃった」
 夕陽を浴びながら降ってきた男は、銀髪を赤く染めながらごめんねと笑った。
「……外へ?依頼があったんですか」
「そんなに大した事ないヤツだったから、ひとっ走り行ってきました。見栄のお遣いみたいなもんです。先生は終わりですか?」
「はい。いつも通りにするならもう帰宅なんですが、帰ってよいものか迷っていて」
「すみません。もう大丈夫ですよ。あなたの任務は終わり」
「はあ」
「俺も終わりなんで一緒に帰っても良いですか。もしお時間があるなら、飲みに、とか」
「構いませんけど」
「良かった」
 生きましょうと歩き出そうとした背中を掴まえる。先に疑問を解消したい。もちろん、出来る範囲で構わないけど。
「本当にこれで終わって良いんですか。俺は何もしてません。可能な範囲で教えてもらえないでしょうか。この依頼、どうも謎過ぎて」
「先生は受付もしてるでしょう?任務は極秘情報ですよ」
「知ってます。ですが任務遂行者として、可能な範囲だけでも」
「うーん……」
 ガシガシと頭を搔いて悩む姿に心臓がドキドキした。そんなに重要な情報なのだろうか。一端を担わせた人間にも秘密にしなければならないほどの?
 アカデミー教師といえ、俺も中忍だ。全身が小刻みに震えるのを感じて強く拳を握る。
「え、っと。じゃあ先に約束。飲みは無理でもラーメン……それも無理だったら、缶コーヒー一杯でいいです。何を聞いてもそれだけは付き合ってください」
「飲みに行けないくらいの機密が?」
「あーいえ……。問題はあなたがどう感じるかなんですが」
 ポケットに手を突っ込んだカカシ先生が俯いて息を吐いた。いよいよ話してくれるらしい。こちらは自然と背筋が伸びる。
「朝依頼を受けてから、一日何を考えてましたか」
「自分の行動がどのような影響を与えるのかと。ひょっとしたら自分を見張る気配があるのではないか、アカデミーの中でおかしなことはないかと周囲を観察していました」
「そ、それだけ?」
「カカシ先生の極秘任務があるかもしれない。自分への依頼をしっかりこなさなければと」
「そっか」
 勢いよく跳ね上がった顔が力なく笑った。下がった眉に何だか罪悪感を覚える。俺は間違ったことを言ってしまったのだろうか。
「俺、今日誕生日なんです」
「え?あ、おめでとうございます」
「ありがとう。前に言ってたでしょう。誕生日は特別なんですよって。ほら、子ども達の誕生日の話をした時」
「ああ、確かにそんな話を」
「俺は誕生日なんて、祝ったことほとんど無くて。特別だとも思ったことがなかったから。でもあなたから特別な日だって聞いて、自分で自分の誕生日を特別にしてみたくなったんです」
「はあ」
 それが俺と何の関係が。とはさすがに口に出来なかった。ただ顔には若干浮かんでいたようで、カカシ先生が苦笑いをする。
「今日一日、特別な人にずっと俺の事を考えていてもらったら、特別な日になるんじゃないかなって思ったんです」
「特別な……人?」
「特別な人」
 目の縁をうっすら赤くして、照れくさそうに笑う。自分のことを考えていてほしかった、特別な人っていうのは、つまり。

 急に上昇した体温で顔が火照った。赤く染まった耳を見ていられない。不自然なほどに首を下げて、喧しく騒ぎ立てる心臓を見つめた。まるで飛び出してきそうなくらいの激しさだ。握った拳の内側がぬるりと滑る。
「飲みに、とは言わないから。缶コーヒーで乾杯だけでもしてもらえませんか。……あなたが、良ければ」
 小さく、けれどハッキリと向けられた言葉にどう答えよう。深く深呼吸をして顔を上げた。



2021/09/15
2021/09/28(火) 10:52 ワンライ COMMENT(0)
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