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 軽い幻術でも雰囲気があれば呑まれやすい。はいと見せた手がべとりと赤く塗られていたのは場を沸騰させるに充分で、騒ぎのままお開きになった。解散解散と大慌てで空き缶を拾い集めみな早々に散っていく。
「なかなか面白い夜でしたね」
「そうね」
 じゃあと歩き出す先にぽつんと立っている人がいた。仲間に囲まれて先に歩き出したはずのイルカ先生だ。気づいた先輩が足を止める。静かに地面を見つめていた瞳がこちらを見てゆっくりと歩いてきた。
「今日はお付き合いありがとうございました」
「いえ」
「賑やかで楽しかったですよ」
「そう言っていただけると……。最後、ちょっと煩くなってしまいましたが」
「ああいうのお上手なんですね」
「まあ、普段子ども達を相手にしてますから。この手の仕込みはそこそこに」
 イヒヒと笑う顔とさっきの静かな瞳が重ならず目の前がぶれる。揺れの中心にあるものを知っているのなら、確かめてみたいと思ってしまうのは当然の感情なのではないだろうか。暑さと酒と怪談が生み出した熱気に、ボクもまた酔っているのだろう。それは手を伸ばす理由としては充分過ぎた。
「額当てを見せてもらえませんか。さっきはうやむやになってしまったけど、本当に傷があるのか見たいです」
 ほんの少し、隣の空気がチリッとした。触れて欲しくない傷を抉ったらどんな色の血が噴き出すのか。隠したかった相手の前で見るなんて最高じゃないか。
 今日のボクはどうも悪酔いしているようだ。この暑さが悪い。
「いいですよ」
 しゅるりと外した額当てを渡された。裏返そうとして手が止まる。傷はどこに?
「何やってんの」
「いや、これ……」
「プレートは縫い止めてあるんだから、傷があるのは布地の方に決まってんでしょ。さっさと確認して返したら」
「はあ」
 そう言われりゃそうだ。「傷をつける」という表現から反射的にプレートを想像してしまったが、里外で巻布を悠長に外す暇なんてないだろう。ましてや話の中では一瞬だった。
 わざとらしく息を吐きそっぽを向く横顔は、触れてくれるなと主張している。本心では見たいと思っているだろうに素直じゃない。手の中の額当てをくるりと引っ繰り返す。じっと見つめる部分を隠すように、正面から伸びてきた手が掴み取った。額当てが持ち主の手へ隠される。
「カカシさんよくご存知でしたね」
「……」
「俺、あなたに話しましたっけ?」
「前に、見たんです。ほら、先生酔っ払って額当て下ろしたり外したりするでしょ。その時に」
「ああ拾ってくれた時の」
「ええ」
 そうですかと笑う顔は眉が下がり、上げた口の端が微かに痙攣した。言うべきか否か、迷いは眉間に刻まれた皺にこれでもかと表われているのに本人は気づいていない。俯いて答えた人も見ていないだろう。
「先生の額当てキレイですね。中忍になって何年でしたっけ」
「それなりに経ってますよ。キレイなのは、以前の物をナルトにあげたから……」
 ここにいる三人はみな忍で。わずかに動いた肩を見逃す人間はいなかった。柄にもない動揺の意味を、一番よく分かっているのは本人のはず。それがどう転ぶのかは彼ら次第だ。
 立ち止まり追いかけた人は、自分の心を分かっている。傷になぞらえた恋心を持ち出した理由を知りたいのならば、もう一歩踏み出すしかない。舞台は充分整った。
「ボクはこれで失礼します」
「あ、はい。お疲れ様でした」
 歩き出す背中越しに、待ちきれないと話し出した先生の声が響く。
「傷がついていた額当ては以前の物です。どうして知っていたんですか。どうして傷のことをあんな風に……」
 人気のない深夜の里の外れ。話し声も空に響く。耳をすませても良かったが、そんなことをしたら逢魔ヶ淵の幽霊に取り憑かれてしまうかもしれない。決して後ろは見るまいと踏み出した足に力を込めた。
2021/09/20(月) 01:08 ワンライ COMMENT(0)
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