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 華々しく就任式が行われた翌日。里は通常営業に戻り、受付もいつも通りに戻った。カウンターの前に座り報告書を捌くのはもうそれ自体が生活の一部のようで、ただ一つ変わったことを惜しむように時々胸がチクリと痛む。ここに座っていても、もうあの人が来ることは無い。彼が差し出す報告書を俺が受けとることはないのだと、ほんの少しだけ鼻の奥がツンとするのだ。誰にも言ってない。寝言にだってこぼしたことの無い俺の恋心は、昨日里中を包んだ歓声に紛れて消したつもりだから。正真正銘、彼は手の届かない所へ行ってしまった。ここで飲みに誘われることもなくなると分かっている。接点自体が失われた以上、すっぱり思い切るのが明日への一歩だと決めた。
 俺が失恋してもあの人が里長になっても毎日は続く。これからはいつ途切れるかと恐れるよりも、より長くと心を砕く方が多くなっていくはずだ。人生の一部を枯らしたまま終えるのはどうかと思う。恋なんてどこにでも転がっているのだから、きっと俺にも一つくらい巡って来るはず。
「はい、お疲れ様でした」
 お疲れと返る言葉で浮かべた笑顔に違和感がないと確信する。寝て飯を食べて仕事をして。俺は大丈夫。大丈夫だから。そう思っていた。
「結構長いですねえ。あと三十分?」
「お忙しいならここは俺達が」
「ううん、平気平気あっちはあっちが……、いやなんでもないよ」
「はあ」
 ツンツンと脇腹を突かれ首を振った。本当に人生ってのは理不尽が過ぎる。俺がなけなしの意地を集めて振り切った恋心、全速力でバックしようとしてるんで必死に心のドアを押さえている真っ最中だ。
「そろそろ人手も落ち着きますかねえ?」
 どう思う?と覗き込む顔を見ることができない。どうして就任したばかりの六代目がこちらにおわすんだよこのヤロウ火影室で山と積まれた書類と格闘してるはずじゃあねえのかよ。
「ねえ?」
 畳みかけるようにさらに顔を覗き込まれたので、ぎこちなく振り向いて笑顔を浮かべる。
「あら」
 今度は失敗したようだ。うん俺も分かってる。

 何故ここにと疑問を持ったのは当然俺だけでなく、カウンタ内の全員が六代目にお尋ねした。

あなたはどうして受付に?
火影だから

 そう答えられて頷かない者がいようかって話だ。いや火影なんだから自室でどっしり構えて仕事をだなと言おうと思ったよ。だが少なくとも先代は、お目つけの目を盗んで飲みに行こうとしたり押しかけた借金取り……。ともかく、大人しく自室に篭っている方ではなかったからして、言葉に詰まった。もちろん全員がひそひそこそこそと(カカシ様ここにいていいのかよ?)(あとでヤバそうじゃん?)(とりあえずシカマルかシズネさんに)
「いらないよ?あと様はやめてね様は」
 ニッコリと釘を刺されて動ける者などいない、当然だろう。お仕事見させてねと言って、六代目は俺の隣に陣取った。内心冷や汗だらだらだし(これが最後のチャンスだぞ!)とよからぬ考えが頭を過ぎるし、もう本当につらい。俺はこの人が好きなんですよ。だけど距離ができたならって諦めたんですよ。それを当人がぶっちぎってくるなんて思わないだろうが。
「はい結構です。お疲れ様でした」
 頭の中はぐるぐるだしなんだか腹具合まで悪くなってきた気もするけど、なめてもらっちゃ困る。大騒ぎの内心を抱えつつも業務はきっちりこなした。途切れなく訪れる帰還者を出迎え書類を確認して送り出す。仕事中はいち社会人として勤めを果たすのが当然だ。すっげえ気合い入れたおかげか、処理速度がいつもの倍くらいになってたね。これは自慢。
「あ、定時だ」
「お疲れ様でしたっ」
 時計の針が十二を指した瞬間に鞄を掴んで立ち上がった。仕事が終わったならうみのイルカに戻ってよし。うみのイルカ自身は一秒だってこの人の隣にはいられない。ではと駆け出そうとした体がぐいんと後ろへ引き戻される。つんのめって振り返れば六代目が鞄の紐を引っ張っていた。
「逃げ足早いねえ」
「なっ、何のことでしょうか」
「ダメだよせんせ。そろそろ観念して」
 ごそごそとポーチを探っていた六代目は机の上に畳んだ紙を置いた。その横に一本のペン。
「ほら前はさ、何だかんだ言ってもここで会えたし任務の隙間に抜け出すこともできたし?ゆっくりでもいいかなあと思ってたの。相手のペースに合わせるのも大事かなあって。でもさ」
 くんと引かれた紐が肩にぐっと食い込んだ。そうとは見えないけれど、かなりの力がかかっている。カウンターの下、誰にも見えない所で掴んでいる手は、大袈裟なほどに力が込められているのではないだろうか。
「これからすごく忙しくなる。俺も中途半端にするわけにはいかない立場だし、状況が変わったのよ。分かるよね?てことで、新しいステージはこっちのペースでいってみようか」
 ね?と笑いながら片手でゆっくりと紙を開いてゆく。ほら、というようにまた肩にかかる力が強くなった。どうぞと差し出されたペンは、すぐにでもサインしろと言っている。権力者サイドのカカシさんは、とてもハイペースに進めてゆくつもりらしい。どうしようと考える前に、肩の重さに負けた体が座り込む。
「……末永くよろしくお願いします」
「任せて」
 バチンとウインクされて力なく笑い返した。うみのイルカ彼女いない歴○年のち、失恋即結婚、交際ゼロ日婚スタートだ。人生は本当に理不尽が過ぎる。



俺の人生の不条理について
2021/07/18
2021/08/29(日) 02:48 ワンライ COMMENT(0)
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