◆各種設定ごった煮注意
解説があるものは先にご確認ください
約束の時間をすっかり過ぎてしまった。早く早くと焦るうち、過ぎた時間は約三十分。もう限界だと飛び出してきたけれど、本当に待っていてくれるだろうか。アカデミーの裏手に回り、待ち合わせ場所へ走り込む。放課後のアカデミーは人気がなく待ち合わせにはちょうどいいと言っていたのに、肝心な人が見当たらなかった。ただ風だけが吹き抜けている。遅刻した俺が悪いのだけど、でも彼も期待していると思っていたのに。たった三十分がどれだけ貴重でどれだけ長いのか、分かっているだけに責められない。見つめる足元へぽとんと何かが落ちてきた。
「……枇杷のタネ?」
「もう全部食べちゃったからな」
梢の隙間からイタズラそうな顔が笑う。ひょいと飛び降りると俺の手を掴んで走り出した。
「待っててくれたの?」
「約束しただろ」
きゅっと掴む手に込められた力が、三十分の彼を思わせる。掴まれていた手を振り解き、しっかりと手のひらを合わせて繋ぎ直した。振り向いた顔に笑いかける。返ってきた笑顔は真っ赤に輝く夕陽よりも眩しかった。
二人で駆け込んだ商店街は買い物客で賑わっていた。みな夕飯の買い物をしているのだろう。人の波をかき分けながら進むイルカについて行く。
「おばちゃん!コロッケ二つ!」
「はーい。あらボク初めてかしら」
「うん。買い食いだからナイショね」
「それは秘密にしとかなきゃ。はい、揚げたてで熱いから気をつけて。お友達もね」
「ありがと!」
「あ、ありがとう」
「行こ!」
コロッケの袋を掴みまた走り出した。今度はしっかりと手を繋いで。
火影岩の上を念入りに見回して、誰もいないことを確かめた。さっと座ったイルカは平気平気と言いながら早速コロッケにかぶりついた。
「んーうまっ!ほら座って」
「うん」
直に持ったコロッケは衣がトゲトゲして、指先がじんじんするほど熱かった。かじりついた後からほんわりと湯気が上がる。
「うまい」
「な!やっぱりコロッケは揚げたてが一番。あービール欲し~」
「その姿でビールはマズいでしょ」
「たしかに」
うんうんと頷くイルカは最後の一欠片を口に放り込んだ。イルカに続くように俺も全部口に入れる。赤かった空が薄紅を溶かした紫に変わってきた。日が落ちるのはあっという間だ。時間が経つのは早い。
「もういいかな?」
「……ダメ。もうちょっと空が落ちてから」
「……うん」
じっと空を見つめるイルカはこちらを見ようとしない。目を逸らしたら少しずつ現われる闇が消えてしまうと思っているように、ひたすら空を見つめ続けていた。せっかく会えたのだから、どうせなら俺を見て欲しいのに。草の上に投げ出された手をそっと包み込む。柔らかな手は俺の知る彼とは別物で、早く夜になれと同じように空を見上げた。
「星が見えたらいいの?」
「うーん。そこまでの時間はないんだろ」
「ごめん」
「じゃあ、いつまで待とうかなあ」
空を見たまま言うイルカの瞳が光って見えた。
――いつになったら俺達は。
ずっと答えが出ないまま彼を待たせ続けている。離してしまう方が幸せになれるのかもしれない。少なくとも彼は、自分だけの家族を持つことが出来るだろう。それでも俺には言うことが出来なかった。
「待ってて。いつまでも待ってて。たまにしか会えなくても約束に遅刻しても、変化した姿でしか歩けなくても、ずっと俺を待ってて。お願い」
「熱々のコロッケ美味かったですか」
「うん」
「じゃあ、いつか二人で買いに行きましょう。約束」
「うん」
二人で見つめ合って指切りをした。約束は必ず果たそう。
2021/06/13
「……枇杷のタネ?」
「もう全部食べちゃったからな」
梢の隙間からイタズラそうな顔が笑う。ひょいと飛び降りると俺の手を掴んで走り出した。
「待っててくれたの?」
「約束しただろ」
きゅっと掴む手に込められた力が、三十分の彼を思わせる。掴まれていた手を振り解き、しっかりと手のひらを合わせて繋ぎ直した。振り向いた顔に笑いかける。返ってきた笑顔は真っ赤に輝く夕陽よりも眩しかった。
二人で駆け込んだ商店街は買い物客で賑わっていた。みな夕飯の買い物をしているのだろう。人の波をかき分けながら進むイルカについて行く。
「おばちゃん!コロッケ二つ!」
「はーい。あらボク初めてかしら」
「うん。買い食いだからナイショね」
「それは秘密にしとかなきゃ。はい、揚げたてで熱いから気をつけて。お友達もね」
「ありがと!」
「あ、ありがとう」
「行こ!」
コロッケの袋を掴みまた走り出した。今度はしっかりと手を繋いで。
火影岩の上を念入りに見回して、誰もいないことを確かめた。さっと座ったイルカは平気平気と言いながら早速コロッケにかぶりついた。
「んーうまっ!ほら座って」
「うん」
直に持ったコロッケは衣がトゲトゲして、指先がじんじんするほど熱かった。かじりついた後からほんわりと湯気が上がる。
「うまい」
「な!やっぱりコロッケは揚げたてが一番。あービール欲し~」
「その姿でビールはマズいでしょ」
「たしかに」
うんうんと頷くイルカは最後の一欠片を口に放り込んだ。イルカに続くように俺も全部口に入れる。赤かった空が薄紅を溶かした紫に変わってきた。日が落ちるのはあっという間だ。時間が経つのは早い。
「もういいかな?」
「……ダメ。もうちょっと空が落ちてから」
「……うん」
じっと空を見つめるイルカはこちらを見ようとしない。目を逸らしたら少しずつ現われる闇が消えてしまうと思っているように、ひたすら空を見つめ続けていた。せっかく会えたのだから、どうせなら俺を見て欲しいのに。草の上に投げ出された手をそっと包み込む。柔らかな手は俺の知る彼とは別物で、早く夜になれと同じように空を見上げた。
「星が見えたらいいの?」
「うーん。そこまでの時間はないんだろ」
「ごめん」
「じゃあ、いつまで待とうかなあ」
空を見たまま言うイルカの瞳が光って見えた。
――いつになったら俺達は。
ずっと答えが出ないまま彼を待たせ続けている。離してしまう方が幸せになれるのかもしれない。少なくとも彼は、自分だけの家族を持つことが出来るだろう。それでも俺には言うことが出来なかった。
「待ってて。いつまでも待ってて。たまにしか会えなくても約束に遅刻しても、変化した姿でしか歩けなくても、ずっと俺を待ってて。お願い」
「熱々のコロッケ美味かったですか」
「うん」
「じゃあ、いつか二人で買いに行きましょう。約束」
「うん」
二人で見つめ合って指切りをした。約束は必ず果たそう。
2021/06/13
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特殊設定にはひと言ついておりますのでご確認ください。
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