◆各種設定ごった煮注意

解説があるものは先にご確認ください
 チッチッと音を立てて進む時計の針を息を詰めて見守った。進むな止まれ。渾身の念を送った所で効果なし。カチッと短針と長針が重なって日付けが変わる。
「あ〜⋯⋯」
 呻き声を上げて受付のカウンターに突っ伏した。深夜の受付は無人。どうせ俺以外誰もいないのだ。構うもんかと思う存分呻きまくる。半分わかっていた。でも、ちょっと期待していた。裏切られたと感じるのはかなりの筋違い。でも。
「あああ〜」
 恋する男のハートは、一度弾んだらなかなか墜ちてこないのだ。ふわふわとハートが浮かび上がったのは十日前。罪な男の他愛ない一言が、驚くほど胸に刺さった。月の夜道の偶然は、まるで奇跡みたいに思えた。正直、ついさっきまでそう思ってた。



 仲間の誕生祝いだと居酒屋に繰り出して、看板まで飲み続けた。鼻歌混じりで歩く夜道は月の明かりでさらに上等。いい気分だなあと空を仰いだら、知り合いが降ってきた。
「こんばんは。楽しそうですね」
 にこりと笑った人の体から、微かに香る煙の匂いで一気に酔いが覚めた。
「おっ、お疲れ様です。失礼しました」
「何で謝るの?上手だったよ」
「いえ、任務帰りの方に」
「そうそう。もうくったくただから、楽しい話を聞かせて下さいよ。今日は飲み会ですか」
 三日月型に撓んだ瞳につられて、つい仲間の誕生祝いの話をしてしまった。疲れているはずなのに、うんうんと聞いてくれるカカシ先生の優しさが、冷えかけた体を火照らせる。鳴り響く心臓の音が漏れやしないかヒヤヒヤした。
「仲間同士でお祝いしあうって楽しそう。次はいつ?」
「なんと! 次は俺の番です。ちょうど十日後が誕生日で」
「そうなの?それはお祝いしなくちゃ」
 ね?と顔を覗き込まれて、心臓が口から飛び出すかと思った。無言でブンブン首を振って、俺はどうしようと思ったのだ。どうしよう。今年の誕生日はカカシ先生と一緒だって。



 よくよく考えたら、「俺もお祝いしなくちゃ」とは言われてない。彼は単純に、次はあなたの番だからお祝いしてもらえるねと言っただけなのだ。でも、俺は勘違いして。せっかくの誕生日だというのに、朝から里外へ出たカカシ先生を待とうと残業を買って出た。飲み会も断ってラーメンも我慢して、カカシ先生が誘ってくれるひょっとしたらを期待していたのだ。その時間ももう終わったけど。人生でも三本の指に入るくらい愚かな誕生
日だ。全く、本当に、俺って、ヤツは!一区切りごとにゴンゴン頭を打ち付ける。気を失ったら一時間前に逆戻り!とかあったらいいな。ないけどな。
 はーあと頬杖をつく。明日は今日の分までラーメン食べよう。アフターバースデーってのもオツなもんだろ。フフフと床に向かって笑いかける目の前に、急に人が現れた。驚いて顔を上げたら息を切らせたカカシ先生が立っている。
「お、お疲れ様です。⋯⋯あの?」
 じっと壁の時計を見ていたが、両手をカウンターについてガクリと項垂れる。
「間に合わなかった⋯⋯」
 ボソリと呟いた言葉に、沈みかけていたハートがまたぽーんと跳ね上がった。それは多分、ひょっとして、間違いなく。
「⋯⋯お誕生日、おめでとうございました。日が変わっちゃったけど」
 ごめんと眉を下げた顔にトキメキが止まらない。
 どうしよう。夜はまだこれからだ。俺のアフターバースデーが盛大に開幕した。



2021/05/26
2021/08/29(日) 02:41 ワンライ COMMENT(0)
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