◆各種設定ごった煮注意

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「ねえ、最初と最後どっちが大事だと思う?」
 ある日の夕飯時、茄子のみそ汁を啜りながらカカシさんが言った。俺は口に放り込んだばかりの里芋をえいやとかみ砕きながら必死に考える。顎と頭をフル回転させて茶をひとくち。
「えーっと、最後ですかね。最初は一回きりだけど、またチャンスがあるかもしれない。でも最後は絶対に次が無いでしょう。終わりよければ全て良しとも言いますし」
「そう」
 こくんと頷いたカカシさんは箸で上品に里芋を割って口に運んだ。何だよそれだけかよとゲソをばくり。
「一番がいっぱいってどう思う?」
 おおおおいタイミング!いま俺の口の中歯ごたえありまくりのゲソでいっぱい!そうって言ったから終わったと思うだろ。ならいいよなって食べちゃうだろ。出来ればゲソはゆっくり味わって食べたいんですけど!コイツは噛めば噛むほど味が出るだろう?俺と一緒だぜ。ヤケクソ気味にがしがしと噛みまくってこれ見よがしに飲み込んだ。俺はイカを愛してるんだ。パチンと揃えた箸をちゃぶ台に戻す。
「モノによります。例えばこれ」
 ちゃぶ台の真ん中にある鉢をわしっと掴む。中には美味そうな茶色に染まった里芋とイカのゲソ。美味く出来た。自画自賛でもなんでもいい、とにかく美味い。
「この煮っころがしで里芋とゲソのどっちが一番かなんて不毛じゃありません?両方美味しいどっちも優勝。で、これ」
 今日のメイン、豚の味噌漬け。肉屋で買ってきた最強のおかず。これ一枚で三杯はお代わりできる。
「美味いでしょ」
「うん」
「文句なく一番」
「うん」
「しかしだ」
 ふううと息を吐きながら首を振る。忘れちゃいけない食卓の主白米。こいつがいないと始まらない。いやこいつがいなくても始まるけどラーメンだってこいつがいるとより輝く。
「晩飯でーすっておかずがたくさん並んでても、こいつがいないと始まらないでしょ」
「酒ならいいんじゃないの」
「それは飯じゃなくて晩酌」
「ああ、うん」
 そうかと素直に頷いている。この人は突拍子もないことを聞いてくるわりに、けっこう素直だ。若干不安になるほどに納得されてしまって、まあこれは相手が俺だからだが。
「こんな小さなちゃぶ台の上にも一番がいっぱいです。どれが一番かなんて決められない。全部大事全部必要。分かります?」
「分かります」
「以上です」
 うむうむと箸を取る。一番はたくさんあっていい。一楽のラーメンだって風呂上がりのビールだってどれも明らかに一番だ。フィールドが広がる度に一番は増えてゆく。それはなんと素敵なことか。豚の味噌漬けに白米、はい優勝。うまうまと食べていると、じーっと見ていたカカシさんは静かに箸を下ろした。ずりずりとちゃぶ台に沿ってこっちまで移動して来る。
「何ですか」
 か、の瞬間にぐいっと伸び上がった顔がくっついた。軽く触れただけの唇はすぐに離れてゆく。
「は、え、何を」
「俺の一番」
 ニコニコと至近距離で嬉しそうに笑う。かーっと首筋が熱くなったのを誤魔化すようにコップの茶を一気のみした。
「ご飯中は禁止!」
「うん。これは最初だからもう安心して食べて」
「え?」
「最後が大事って言われたから、思い切りするのはご飯食べた後にしようかなって思って。でもやっぱりしたい時にしたいからさ、最後が大事っていうならそれまでは好きに」
「好きにすんな!終わりよければってのはそんな意味じゃねえ!断じて違うわ!」
「えー。せっかく折衷案を捻り出したのに」
「どこがだよ」
「先生が好き。美味しそうにご飯食べてると可愛くってそのまま押し倒したい。だけどそれやったら絶対怒るでしょ」
「当たり前だ。飯を粗末にするのはゆるさん」
「でしょ?だからキスだけで我慢しようかなあって。でもさ、いつしたって何回したってどれも一番なわけよ、先生とのキスは。だから全部満足するまでしたいんだけど、ご飯中だと」
「キレる。よく分かってんじゃねえか」
「うん。で、一回満足するまでして食べr」
「食うな。つうか食わさん。俺の作った飯に対して不遜すぎる。侮辱だ」
「いやいや正面に座って毎秒キスしたいなって思うのを我慢してる俺えらくない?」
「えらくない!」
 えー?と言いながら覗き込んで来る。カカシさんはいつも愛情過多だ。いつか俺は溺れてしまうかもしれない。
「気持ちは嬉しいですが、もう少し節度あるお付き合いをですね」
「あるじゃん。押し倒してない」
「……」
 いつからこうなってしまったのだ。はにかみながら「俺と付き合ってください」と言ってきた時は、俺が守ってやらなければと思うほど可愛かったのに。猫かぶりをやめて本性を出してきただけなのか?あのちょっと照れ臭くてでも指先が触れ合うだけでも嬉しかった時期はどこへ行ったのだ。
「昔に戻りたい……」
「えー昔も今も変わらなくない?俺、先生にキスする時はいつも始めてキスした時みたいにドキドキするし、スゴイ幸せ」
 にへらと笑うのは確かに俺が頷いたあの時と同じ顔だけど。
「こらっ!ハウス!隙あらばしようとすんな!」
 近づく銀髪を押し返す。
「ドキドキするから興奮するのでは?少し興奮を抑えましょう。分かった!これからは全部二回目のつもりで。一回した後と思えばちょっと気が済んでるでしょう」
「むーり。いつだって先生のキスは最初で最後の一番だから」
 ふふふと笑う唇が頭を押さえる手を取ってチュッと吸いついた。体が熱くなって全身から汗が噴き出す。カカシさんにはどうやったって敵わない。



2021/05/23 
2021/08/29(日) 02:40 ワンライ COMMENT(0)
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