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◇不機嫌

「ねえ、この間はたけ上忍が鯛焼き持ってこなかった?」
 うまそうなもんは常に狙われている。人間だって変わりねえ。うまそうなもんでも真っ先に飛びつくヤツらでもない俺は、外っかわで見てるからよく知ってるんだよ。ちょっと油断した隙に一瞬でかっさらってくのが妙に得意な人種も、いる。
「え、よくご存知ですね。差し入れ頂きました」
「やっぱりぃ~?私が教えてあげたの。美味しかったでしょう」
「そうなんですか。すげぇ美味かったですよ。ありがとうございました」
「ほらはたけ上忍って外周りが長かったせいか?あんまり里の美味しいお店知らないみたいで?」
「ふんふん」
「私なら知ってるって思われたみたいでぇ」
「あー頼られちゃったんですね」
「そうなの」
 うん。報告書に漏れは無し。確認印を押して顔を上げる。
「はい結構です。お疲れ様でした」
「おお、お疲れ」
 書類を箱に入れたら手持ち無沙汰だ。やけに人が少ないな。混んでりゃ隣のおしゃべりも終わるだろうに。
「甘栗甘じゃみんな食べ飽きてるでしょう。新しいお店がいいかなって。私は抹茶餡をオススメしたんだけど」
「カカシさんが食べたのはカスタードですよ」
 楽しげに動いていた真っ赤な唇がピタリと動きを止めた。代わりに俺の足へ蹴り一つ。すかさず飛ばしたのは評価できる。状況判断が迅速なのは、良い受付の証拠だ。
「ありがとうございました。カスタード味も美味かったです」
「……あなたも食べたの」
「ええ」
 半分こして。とは言わなかったが、ちゃんと伝わったようだ。唇とお揃いの真っ赤な爪がカツンカツンとカウンターを叩いている。リズムはそのままに、上半身が傾いてきた。こちらの体を反らせないのはもう意地だ。
「私が教えてあげたのよ、そ」
「そうねありがと」
 突然割って入った低い響きに二人とも固まった。
「報告書提出したいんだけど。どいて」
「は、はいっ」
「先生、ねぇ」
 トントンと指先が書類を叩く。仕事だ。飛び退いた位置からなおもこちらへ割って入ろうとする人へ笑顔を向けた。
「また新しいお店があったら是非お知らせ下さい」
「お断りよ」
 捨て台詞を残し背を向ける。ひくつく頬を堪えて前を向けば、カカシさんは栗色の髪が揺れる背中をじっと見つめていて、喉が妙な音を立てた。




◇意味ありげ

 勢いが大事だ。
 ぶれそうになる思考を繋ぎ止め、仕事はきちんとしなければと文字を辿る。全てに不足がないことを確認し、判を持ち上げた。これを押したら、今日は俺から。ぽんと判を押し、顔を上げながら息を吸う。
「カ」
「はたけ上忍!」
「ん?」
「すみません、ちょっと確認があるのでよろしいですか」
「いーよ。先生、何ですか」
「え」
「何か言いかけてたでしょう」
「あ、何でもありません!お疲れ様でした!」
「そう?」
「申し訳ないのですが急ぎでして」
「はいはい。それじゃ」
 急き立てられるようにしてバタバタと受付を出て行ってしまった。

――やっと仕事が片付きました。この間のお詫びに今日、いかがですか。

 一分もいらない。一息で言えることだったのに。
 ツイてなかったとため息で散らそうとしても、腹の底がモヤモヤと蟠る。うまくいかないのは、俺達がうまくいかない組み合わせだからなのかもしれない。

 気が散っている時に仕事を詰め込んでも、及第点スレスレでは意味が無い。今日は残業せずに定時で上がることにした。ひょいひょいとカウンター内の書類をまとめて段ボールに突っ込んでゆく。
「イルカこれも」
「おう。お先」
「お疲れー」
 日が落ちるのが早くなった。すでに薄暗い廊下は角を曲がると急に静かになる。受付のざわめきが嘘のように音の無い中を段ボールを抱えて歩いた。
カカシさんを誘えなかったし、今日は一楽へ行こうか。まだ時間が早いから、ラーメンを食べた後はスーパーに寄って――。
 冷蔵庫の中身を思い出す頭に、誰かの話し声が聞こえる。思わず立ち止まると、目指す書庫の扉を開けてカカシさんとアスマさんが出て来た。
「お疲れ様です」
「おうお疲れ。受付はあっちゃこっちゃと忙しいな」
 戸口からずれて扉を支えながら待っててくれる。めんどくさいと言いつつも、この優しさがアスマさんだ。あと少しの距離を小走りで詰め、お礼を言って場所を変わる。
「もう終わりか?」
「はい。これを入れたら上がりです」
「俺達飲み行くかって話してたんだよ。イルカも来るか?」
 咄嗟に返事が出来なかった。嬉しいような哀しいような、はいの周りにぐるぐると落胆が纏わり付くような、複雑な心境だ。本当はカカシさんを誘って二人で、と思っていたのだけれど。
「アスマ、先行ってて」
「ん?」
「先生、話しがあるみたいだから。さっき、多分、ねぇ?」
 そうだよね、と見つめる瞳にそうでしょう?と願う怯えが見えて、自然に顎を引いた。
「じゃ先行ってるぞ」
「ん。後でね」
 ぺこりと頭を下げ段ボールを下ろした。ドアを引きながら騒ぐ心臓の音を聞く。アスマさんを見送るカカシさんの背中へ向けて、もう一度呼びかけた。
「カカシさん、飲みに行きましょう」
2021/10/15(金) 11:02 お題もの COMMENT(0)
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