◆各種設定ごった煮注意

解説があるものは先にご確認ください
 元受付(おそらく近日復帰)だ。夕方の業務を止めた後の惨事は簡単に目に浮かぶ。お披露目は済んだと早々に受付を辞して、木ノ葉病院へ向かった。道すがら首の横に纏めて流していた髪を解き、いつものように頭の上で括る。きっちりと額当てを締め、木ノ葉の中忍うみのイルカは元通りだ。横から突き刺さる視線が少しばかり鋭い。
「戻さなくて良かったのに」
「首の横でわしゃわしゃしてるとくすぐったいんですよ。あれはフードをすっぽり被る為だったでしょう」
「色っぽくて良かったよ?」
「場所をわきまえてください。往来ですよ」
 ふうと息を吐いた猫背がいつも通りで、思い切り飛びつきたくなる。ちゃんとわきまえて我慢したけど。

 良かったな、と笑ってもらえたらめでたしめでたしと手を打つのだが、向けられた顔はかなり険しい。綺麗な眉をキュッと上げたまま、綱手様はどかりと椅子の背に倒れ込んだ。
「大丈夫だ。けどギリギリの線だったぞ。本当に肝を冷やした。二度とやるなよ」
「はい」
「しばらくはしっかりチャクラの回復をチェックさせてもらう。定期的に通うように」
「まだ危ういですか」
「経路は完全に閉じている。そもそもシラギクが消えているのなら、チャクラが流れる先も無いしな。念の為だ、お前が身を乗り出さんでもいい」
「心配するのは当たり前でしょ。妻の様子ですよ」
「それを言いたいだけだったら出入り禁止にするからな」
 ぼりぼりと頭を搔きながら大人しく一歩下がった。何割かは含まれているのかと呆れてしまう。うまく事が運んだからといって、少々浮かれすぎだ。
「分身を完全に別人格の個体として存続させるのは難しい。影分身の術だけでなく、記憶を操作する術を上掛けする必要があるし、本体のチャクラが尽きぬようにコントロールしながら流すのにも技術がいる。一朝一夕で出来る術じゃないだろう。いつから準備していた」
「俺じゃないですよ」
「イルカが一人でやったのか?」
「三代目の術をお借りしました。潜入捜査に分身を使うのはよくありますが、相手方に忍がいれば正体を見破られるかもしれない。実際、囚われた影分身から本体を辿られることもありました。そこをうまくやり過ごす方法をお考えになられていたようです。一般人と同程度のチャクラを継続して細く流し続ける限界、完全に別人を作り上げる暗示のレベル、本体を辿られないように切り離す危険性を試されていました。上忍の方は自在に行えるかもしれませんが、中忍となるとチャクラ量にも限界があります。しかし実際に任務で下準備を行うのは、俺達中忍が多い。下位階級での汎用性を知りたかったのだと感じました」
「プロフェッサーの術か。カカシよりも書庫へ出入りしていたイルカの方が詳しいのも納得だな」
「本来なら本体側から解除できます。今回は、シラギク様と俺が繋がっていると知られるわけにはいかなかったので、自分にも強力な暗示をかけました。術を施したことはもちろん、シラギクという存在さえ記憶から消去してのスタートです。暗示に少し穴を開け、チャクラが尽きる頃には分身側が気づくようにしておきましたが」
「ストッパーをかけていなかったら、無理矢理にでも解除してましたからね。無茶しすぎです」
「その分時間が取れたでしょう?地固めを出来たはずだ」
「あなたの命と引き換えにしても嬉しくありません」
 それは確かにそうだなと、大人しく引き下がった。この人もまた、別の方向で苦しみ続けていたはずだ。俺の事を信じてひたすら耐える日々は辛かっただろう。目の前で弱っていく姿を見せたのは、申し訳ないと思っている。何も知らずにいた俺とは比較にならない。
「意外だね。暴走するのはカカシの方だと思っていたが、お前達は逆だったのかい」
「そうですよ。俺を怒らせたら知らないぞって、しっかり売り込んどいてください」
「任せておけ」
 バチンとウインクをもらって頭を下げる。綱手様が協力して下さらなかったら成立しなかった。実際シラギクの維持には俺の予想よりも大量のチャクラが必要となり、想定外の事態へ陥りかけた。シラギクの覚醒とこちらの残量がうまくリンクしたおかげで何とか乗り越えられたが、分身が自覚なく無茶をするような状況にある場合、統合した瞬間にこちらも深手に対処しきれず逝ってしまう可能性がある。戦地で使用するのはかなりの賭けだ。シラギクは虚弱であるという設定にしてなるべく活動を抑えるようにしたが、それでもふた月が限界だった。綱手様の処方してくれた薬がなければ、もっと早く終わりを迎えていたかもしれない。
「綱手様、ありがとうございました」
「お前の無茶に私が全く関係ないとは言い切れないからな。六代目火影が伴侶を迎えたという話は、里の内外に知れ渡った。今更影武者を立てるような真似はさすがに無いだろう。枕を高くして寝ろ」
「はい」
 今日からは俺もあの屋敷で眠るのだ。あの子が七代目となるまでは。



 病院を出て足を止める。家へ帰るのなら右へ曲がるし、屋敷へ戻るのなら左へ。火影屋敷へ戻ってもシラギク様はもういない。ならば俺は家へ帰れば良いのか、それともアカデミーへ行くべきか。気分的にはすぐにでも仕事をしたい所だが、体力的にはまだマズイ。シラギクへ与えていたチャクラが戻ったとはいえ、まだまだ充分とは言い難いのだ。
「ダメですからね」
「……じゃあ右へ?」
「一緒に左へ曲がりましょう」
 差し出された手を握る。もう手を繋いで歩いても咎められることはない。俺達は正式な伴侶となった。
「アカデミーへ戻っても良いですか」
「先生はいっつも仕事ばかりだなあ」
「あなたに言われるとは心外です。その働きのおかげでこんなに早く戻れることが出来たので、感謝はしていますが」
「当たり前でしょう。一日でも早く認めさせるんだって必死だったよ。任務から帰って空っぽの部屋を見た俺が、何を考えたと思う?」
「ごめんなさい」
「全て思い出したのなら、どれだけ時間がかかったか分かったでしょう。実際は、あなたが長期任務へ出た時点から始まってるんだ。シラギクを呼び出すまでに丸三ヶ月の準備期間を設けてる。本当はすぐにでも呼び出したかったけれど、あなたのチャクラを考えたら何ヶ月ももつとは思えなかった。綱手様と相談してギリギリ二ヶ月、それ以上の無理はしないと決めたんです。シラギクが消える前に六代目火影の地盤を固めて結婚を周知させなければいけなかった。毎日時間が飛ぶように過ぎていったよ。あんなに時間が経つのを恐れたことはない。いつも、早く時間が過ぎればいいとそればかり考えて生きてきたのに」
「五ヶ月ですか」
「そうですよ。長いでしょう」
「はい」
「だけど、あなたを信じてたから。ちゃんと手紙を残してくれたでしょ。自分の影分身が代わりとなってそばにいるから、早く自分を迎えにきてくれって書いてくれた。あなたが俺を信じて待っててくれるなら、俺があなたを信じないわけにいかないじゃない。こんな思いは二度とごめんだけど」
 歪んだ瞳がこぼれそうに揺れる。待っているの一言で、抱えきれないほどの重荷を背負わせた。シラギクと統合しなければ俺の記憶は戻らない。彼は一生、恋人に忘れられたまま生きてゆかなければならなかった。二人で過ごした時間も共にと決めた未来も、全て一人で抱えたまま、かつてとは変わってしまった恋人の顔を見るのはどれほど彼を苛んだだろう。
 それでもそばに置いてくれた。俺が戻ってくると信じて。たった一通の置き手紙を信じて、二人のためにやり遂げてくれた。
「ありがとうございました。こんな勝手な真似は二度としません。これからはずっと一緒にいます。俺があなたのそばにいる」
「……指輪を買いに行こうか」
「はい」
 左へ曲がりかけた道を右へと変える。しっかり手を繋いでいれば、道をどれだけ曲がっても大丈夫だ。遠回りしても筋を逸れても、ちゃんと先へ進むことが出来る。この手は何があっても離れないと証明することが出来た。他の誰でもない俺達自身に強く刻まれたのだ。だから、もう心配しなくても大丈夫。
「ちょっと早いけど、ラーメン食べて行きませんか」
「いいね。半分こする?」
 ラーメンを見てはしゃぐシラギクが頭に浮かんだ。カカシさんの頬が緩んでいるのは、同じ瞬間を思い描いているからかもしれない。
「半分こもいいですね」

 長い道のり、またとんでもなく重い荷を抱える時も来るだろう。その時は二人で半分こして歩く。俺の覚悟をあなたが受けてくれた。あなたの迎えを俺は待った。これから先も同じようにすればいい。そうすれば二人で話した「いつか」なんて、きっとあっという間だ。それまでの道のりが、今歩いている道のように明るい陽射しの中であればいいなと思った。
2021/08/26(木) 02:31 空蝉の帳 COMMENT(0)
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

CP傾向

左右固定ハピエン主義

先天的女体化・年齢パロ・オメガバ・現パロ・各年代ごった煮です。
特殊設定にはひと言ついておりますのでご確認ください。