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朝 9/15 06:30

 ジ……となりかけた目覚まし時計が止まった。布団から伸ばした手が宙に浮く。まだ重い目蓋を何度か上下させつつ上を向くと、ご機嫌な恋人が見下ろしていた。
「おはよう先生」
「おはようございます」
「ねえ何?今日の朝ご飯何?」
 全身から漂う期待に満ち溢れた気迫は何なのだろう。若干不穏な空気を感じ、伸ばしていた腕を折りたたみ頭の先まで布団を被る。
「あ、そっち?」
 はいはいとベッドに重みがかかり、のしっと布団ごと抱え込まれた。全体重を預ける勢いで力を込めるので苦しい。ぼすぼすと布団越しにタップして隙間から顔を出す。すかさず寄せられた顔を押さえ、これは何事かと大急ぎで頭を回転させる。朝っぱらから浮かれる理由はどこにある?
「この手は邪魔だなあ」
「どうしたんですか、今日は」
「んー朝ご飯はパンケーキ?ほわっほわで生クリームたっぷりのとか」
「はあ?」
 カカシさんの口から出た言葉に驚く。嫌いとまではいかなくても得意じゃないくせに。生クリームたっぷりのパンケーキを食べたがったのは俺の方で。
「起きます」
「え?うん」
 ずるりと下がって腕の中から抜け出し、ベッドから出る。居間を通過して洗面所へ行き顔を洗った。寝室の入り口へ戻るとカカシさんは俺が包まっていた布団に顔を埋めている。罪悪感が胸をチクリと刺し、精一杯の素っ気なさで取り繕った。
「温かいのと冷たいのどっちがいいですか」
「冷たいパンケーキって何……冷凍したのそのまま出す気?」
「パンケーキ食べたかったのは俺でしょう。あんたはわざわざ誕生日の朝に食べたがるほど好きじゃねえだろ。茄子入り素麺作ります。温かいの冷たいの?」
「温かいの!」
「はいはい」
 ぼふぼふと布団にじゃれる恋人を置いて台所へ向かう。片目でカレンダーを確認して分からないように息を吐いた。危ない所だった。
「減点一ですからねー」
 ヤバいバレてる。しゃあねえかと苦笑いをして鍋に水を張った。

 顆粒だしに味醂、砂糖、塩はほんのちょっとだけ、醤油はあくまで色づけ程度。つゆを煮立たせている間に茄子を切る。水にさらしている間に鍋をもう一つ出して湯を沸かす。冷蔵庫から葱を取り出して刻み、つゆの鍋の火を弱めて茄子を入れた。ざるとそうめんを用意、さあ茹でようと思ったがやっぱり追加で生姜もおろす。
「いいにおい」
「すぐ出来るから待っててください」
「手伝う?」
「お誕生日様は卓袱台の前に座ってテレビでも見ててくださいよ」
「んふふ」
 覗いていた顔が満足そうな笑いを残して消える。ぽこぽこうるさい鍋の蓋を取った。
「あっちー」
 だから来なくて良かったのに。

 少し甘めのつゆが茄子に染みてうまい。とろけるくらい柔らかい茄子は麺に絡んでするすると喉を通っていった。湯気の上がる丼を抱えた顔は、麺をすする間だって目尻が下がっているようでこっちが気恥ずかしい。ただの煮麺がそんなに美味しいですか。こんなのただの麺なのに。
「先生食べないの?」
「ちょっと喉が」
「夜は涼しくなったもんね。布団蹴っ飛ばしてる人はなあ」
「蹴っ飛ばしてません。寒がりな人へ譲ってあげたんです」
「はいはい。食べないならちょうだい」
「どうぞ。お誕生日おめでとうございます」
 ぴたっと箸の動きが止まる。きょとんとしていた顔はすぐに色を変え、鮮やかに笑みを咲かせた。
「ありがとう」
 とんでもなく美しい顔をした彼は、食べかけの煮麺を抱えて。愛というのはありがたいものだなと茶を啜った。
2021/09/15(水) 17:32 記念日 COMMENT(0)
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