◆各種設定ごった煮注意

解説があるものは先にご確認ください
 大体あいつらは分かってない。カワイイは作れる。当たり前だし知ってるし、むしろカワイイなんて作り込んでこそ生まれるもんだっての。ツヤツヤ輝く飴色の髪だの通り過ぎた時にふわんと香る甘い匂いだの寝癖一つない真っ直ぐに伸びた毛先だの、ぜーんぶ天然なわけあるかってーの。あんたらが憧れてる天使の髪の毛の持ち主が、どんだけ気ぃ使ってあのキューティクルを維持してると思ってんのよ。そもそも生まれた時からあの色なわけないでしょうが。自分にベストなあの色まで何回も染め直したはずだし、それで荒れた髪の毛を丁寧にケアしてるに決まってんじゃない。私はシャンプーリンスオンリーで、天然勝負してんだこのやろう。かったい筆先で悪かったな、聞いてないから黙ってろ。
「よしっ終わり!!」
 書き終えた日誌を閉じて筆箱を鞄に突っ込んだ。この時間ならまだ特売の卵に間に合うはず。バタバタと荷物をまとめて教室を飛び出した。

 人気の無い玄関で靴を履き替えていると、外からがやがやと話し声が聞こえてくる。ランニングを終えた集団がぞろぞろと入ってきた。
「疲れた~今日は甘いもの食べて帰ろうよ」
「走ってあっつい。アイスがいい」
「クレープは?」
 きゃいきゃいと話す人の間をすり抜けて扉を目指す。いいねクレープ。私も好きだよ。お揃いのジャージ、放課後の買い食い、楽しい楽しい青春の一ページだ。扉を潜る前に一瞬だけ振り返る。揺れるポニーテールは栗色に輝いて、蛍光灯を跳ね返す綺麗な輪っかが出来ていた。
「アイス、クレープ、タピオカ、それからえーっと何だっけ」
 最近噂のコンビニスイーツはチーズケーキだったけど、変わった名前がついていた。ちらっと耳に挟んだだけだから、なかなか頭に浮かばない。
「ぱ、ば、は……、パクチーじゃなくて…………、バスチーだ!」
 よっしゃスッキリ、歩くスピードを上げる。来月のお楽しみはもう決まってるから、バスチーは再来月だ。ちゃんと覚えておかなくちゃ。自転車の前カゴに鞄を放り込んで腕時計をチェック。ここからスーパーまで十分ちょっと、絶対卵を手に入れるぞと思い切りペダルを踏み込んだ。



 十分ジャストでスーパーに飛び込んだ。まずは入り口のチラシをチェックする。新聞を取ってないから、チラシは店頭でしかチェック出来ない。ご自由にどうぞと書かれている束から一枚手に取ってじっくり眺めると、本日のイチ押し!と書かれたカツ丼が目に飛び込んできた。一日の授業を終えて一番お腹が減っている時間に、これはキツイ。頭の中がカツ丼一色になってしまった。チラシを握り締め、はああ~っとお腹の底から溜息をつく。カツ丼食べたい。揚げたての分厚いトンカツを甘辛い出汁でじゅわっじゅわに煮て卵でとじたヤツ。玉ねぎだけでも十分だけど、上にネギもあったら嬉しいなあ。ほら、カツの茶色と卵の黄色とネギの緑ってすっごくキレイじゃない?
「お肉肉肉トンカツから揚げ生姜焼き~」
 歌いながらチラシを丁寧に畳んで鞄に入れた。カゴを一つ持って店の中へ入る。本当はカツ丼がいいけど、それは贅沢過ぎるのだ。カツは揚げたてをがぶりといきたいし、そうするとカツ丼に回す余力がなくなるし、家でカツを揚げる所からカツ丼を作るって色々と障害が多いのよね。それより何より。
「この値段だよ」
 飛び出しそうになった溜息をぐっと堪えた。豚肉を見て溜息をつく女子高生ってちょっとどうかと思うし、それ位の見栄は一応残ってる。
 トンカツ用のロース肉を買おうと思ったら、かなりの思い切りが必要だ。もしこれを鶏胸肉にしたら、ざっと三倍の量が買える。ついそう考えてしまって、結局いつも鶏にしてしまうんだけど。本当の本当は、チキンカツじゃなくてトンカツが食べたい。何とかなるか?、と財布の中身と次の入金日までの日数を頭の中で数える。ギリギリいけるかもと傾きかけるが、世の中にはイレギュラーがつきものだ。先月自転車のタイヤ交換をしたから今月は余裕が無い。あの三千円はキツかった。ここで無理して来月に響いたらもっと困るしね。鶏肉のパックを手にとってカツ丼とはさよならした。

 特売の卵はお一人様一パック限り、税抜き千円以上お買い上げのお客様のみ。この千円ってのが難敵で、卵の為に無駄遣いをしたら意味が無い。冷蔵庫の中身を思い出しながら店内を歩き回り、そうだリップクリームが切れてたんだと足を止めた。
 こんなスーパーの片隅にも、カワイイの欠片はいっぱいある。ただし、その対価を値札という形でぶら下げて。ぷっくり潤う美容液配合とかきらめくパール成分入りとか、まあまあ種類があるけれど、どれもこれもそれなりのお値段だ。そのお金をキスしたくなる唇に注ぎ込むのも良いだろうけど、私はお肉を選ぶのだ。カワイイを作るのも作らないのも作る気にならないのも、ぜーんぶこっちの勝手だバカヤロー。忘れたはずのムカつきがおへその辺りをぐるぐる回る。ぎゅっとカゴの取っ手を握り締めた時、ピンポンパンポーンと店内放送が鳴った。
「本日のタイムセール卵一パック98円。お一人様一パック限りとさせて頂きます。どうぞ卵売り場までお越し下さい」
 人の流れが一気に変わる。リップクリームをカゴに放り込んで卵売り場へと向かった。




 今日の買い物は大成功。特売の卵はゲットしたし鶏肉も買ったから、晩御飯は親子丼かオムライス。どっちにしようかな~と思いながら財布を出したのに。
「あら、1043円です。ちょっと足りないわ」
 顔見知りの店員さんがどうします?と眉を寄せる。そんなはず無い、ちゃんと計算したのにとカゴを覗き込んだら、一つだけ記憶と違う物が入っていた。今日はちょっとだけ良いリップクリームにしようと色付きを選んだつもりだった。特売で安くなってたからたまにはいいよねって思ったのに、卵に気を取られてついいつもの方を入れてしまったんだ。
「すみませんっ、これ!」
 慌ててカゴの中のリップクリームを掴んだけど、我に返って手を離した。夕方のスーパーはそれでなくとも人が多い。しかもタイムセールの直後とあって、私の後ろにはもう三人も並んでる。ここでレジを止めるなんて迷惑はかけられない。確認しなかった自分が悪いのだと諦めて財布を開いた。
「これも一緒に」
 ひょいと横から手が伸びて、空になっていたカゴにペットボトルが一本置かれた。
「えっ、あの」
「いくらですか?」
「1139円です」
「はい」
 呆気に取られている内に、さっさとお金を払われてしまった。先へ進もうというように、支払いの終わったカゴを持ち上げる。促されるままに移動すると、カゴの中からペットボトルを取り上げて去っていこうとしたので、慌てて背中へ声をかけた。
「待って下さい」
「何?」
 ゆるりと振り返って首を傾げる姿は、テレビの中から抜け出してきたみたいだった。今まで見たどんな人よりもカッコイイ。じっとこちらを見つめる瞳は少しだけ青みがかった灰色で、キラリと輝く銀髪が片目を覆うように流されている。顔の下半分はマスクで隠れているのに、見えている部分だけでイケメン具合が分かるほど整った顔立ち。
「ありがとうございました。お金を」
「別にいーよ」
「そういう訳にはいきません!!」
 財布から掴み出したお金を差し出しているのに受け取ってもらえない。焦れったくなってついポケットに突っ込んでいる方の腕を触ったら、驚いたようにペットボトルを落としてしまった。ボトルが床に当たる鈍い音で目が覚める。私、初対面の人に何やってるんだろう!?かーっと顔が熱くなり、ものすごく恥ずかしくなってしまった。
「すみませんでした。お金、ここに置いておきます」
 カゴの横にお金を置いてエコバッグを取り出し、お肉も卵もぐちゃぐちゃに突っ込んだ。空になったカゴを片付けて思い切り頭を下げる。
「助けていただいてありがとうございました!」
 後はもう、できる限りの早足で店を出た。ねえとかちょっととか聞こえた気もするけど、恥ずかしくて振り返るなんて絶対無理。家まで立ち漕ぎで猛ダッシュした。

 せっかく買った卵は、三分の一が残念な形になってしまった。でも大丈夫、炒り卵にして冷凍しておけばお弁当に助かるもんね。結果オーライ問題無し!ちょっと沈みかけた気分をヨシヨシしながら卵のパックを持ち上げると、親切な人の顔が浮かんできた。
「あのカッコイイは作れないよなあ……」
 目を真ん丸にして驚いている顔を思い出したら、ちょっと笑えた。




 今日のお弁当は鶏の照り焼き丼。カツ丼じゃないけど炒り卵も無駄なく使えたし、朝から結構気分が良い。何といっても夢見がすーっごく良かったのだ。昨日のイケメンさんに、親切のお礼ですって炒り卵をご馳走する夢。驚いた顔しか覚えてないから、美味しいよっていうニッコリ笑顔は私の想像なんだけど、ものすごーく癒された。きっと今日のお弁当は、いつもの三倍美味しい。上機嫌で教室まで来たら、入口の前に人だかりが出来ている。何だろーと隙間から覗いたら、ぴょこんと飛び出した銀色の頭が見えた。教室の後ろに貼ってあるクラス写真を見てるみたい。
「うみのはこの子ですけど」
「あーありがと」
 写真を眺める灰色の瞳がちょっとだけ緩んだ。夢の中の笑顔を思い出して心臓がドクンと跳ねる。写真を見つめていた顔が振り返って人垣の中の私を見つけ出した。まるで心臓の音に反応したみたいに、タイミングピッタリに。
「おはよう。待ってた」
 ニッコリ笑った顔は炒り卵を食べた顔そっくりそのままで、ぱかんと口が開いてしまった。朝起きて学校へ来たはずなのに、これは本当に現実なの?どこか遠くの方できゃあきゃあ騒ぐ声が聞こえる。私だけ、夢から覚めても夢の中にいるみたい。
2021/09/06(月) 08:52 ロマンスは落ちてくる COMMENT(0)
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