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 今日の一楽はカウンターの七割が埋まっていた。あちこちの丼から湯気が上がり、ラーメンを啜りながら談笑している人達を見ては幸せそうで良いねえと思う。これは嫌みではなく、素直にそう感じているのだ。
 誤解されがちなのだが、俺は別に人嫌いという訳ではない。共に里で生きる仲間達を大切に思っているし、部下達は可愛く、一人前の忍へ導くようにと任されたことを嬉しく思ってもいる。ただ、世の中には悪意、浅慮、自己中心的な者が想像以上に多数存在しているのだという意識が良くないのだろう。厭人的だと誤解される程度には人付き合いの悪い人間になってしまった。これは俺の生育環境と過去の人間関係によって形成されたものであり、事情を知る者はあまり口を挟まないという点から鑑みても見当違いとは言えないはずだ。負の意識があると自然、他人との接触は忌避しがちになる。人間関係も体術も同じ様に、世の中において大抵の物事は、訓練がなければ滞りなく速やかに行うのは難しい。乏しい経験を表すように人に対する反応が悪い上、ある種の人間不信ともいうべき男は当然の如く、三十路手前になっても一人だった。

 一応言わせてもらう。俺が誰にも相手にされない哀れな男かというと、そこは断固否定させてもらいたい。むしろ逆で、上忍ともなれば数々の秋波を流されるのはよくある光景の一つ、ぜひ私をと言ってくる人間に困らない。それなりの顔面を持つ有能な上忍という商品は老若男女の区別なく全方位へ有効らしく、苦労せずとも遊ぶことが可能だった。長い間数多のアプローチを受け続けていれば大体はパターン化されていると気付くものだし、そういう分析は得意分野でもある。人嫌いという訳ではないのだから、状況を逆手に取ってしまえばやりたい放題出来ただろう。実際自由に生きている人間を何人も目にしたが同じようにしたいとは思えなかった。特別身持ちが堅いつもりはなく、遊び回って人生を謳歌しようというには些か熱量が欠けていたのだ。単純に言うと、冷めているの一言に尽きる。目を潤ませた女も頬を染めた男も、俺を前にして言ってくる台詞は大体同じ、「あなたのことが好きです」の一つ覚え。任務で一緒だった程度の接点があるならまだしも、名前さえ知らない人間までもが同じ台詞を投げてきた。正直、「あなたの認識で俺のどこが好きなわけ?」としか言い様がなく、到底要求に頷くことなど出来なかった。
 受け入れることは拒否したとしても大人なので如才なくやり過ごしていたし、面倒ごとに巻き込まれる位ならそれで充分。ごめんねと言って申し訳なさそうに眉を下げてやれば、大抵は顔を真っ赤にして去って行く。引き止めようと心を揺さぶられる相手もいなかったし、自らが情熱を抱く相手も現れなかった。
 俺の人生そこそこだ。辛いこともあるけれど人生とはそういうものだし、世を憎むほどじゃないよなあとイチャパラを手にして一人で歩いて行く。そちら方面が乏しくても他ではまあまあ忙しいし、愛読書が色々な世界を見せてくれるから充分すぎる位だ。納得して達観していたはずの人生がちょっとずつ軌道を外れ始めたのは、今隣に座っている人が原因だと分かっている。眉間に皺を寄せてラーメンを啜り、鼻の頭にうっすらと汗を浮かべている平凡な男。驚くことに彼の首には、はたけカカシの恋人という名札がぶら下がっている。



 見目麗しい訳でもなく、特別な何かがある訳でもないごくごく普通の中忍。受付でやりとりをしたことや子供について会話した覚えはあっても、個人的な付き合いはほとんどなし。だから、話があると呼び出されても任務についての補足事項だと思っていた。実際呼び出された場所へ行ってみれば、股の横でぐっと拳を握り締めながら眉間に皺を寄せて立っていて、一体何に腹を立てているのかという険しい形相をしている。まさかここから恋の告白に繋がるなんて、想像すら出来なかった。恋する相手を目の前にしているとは到底信じられなかったのだが、睨み付けるように目に力を入れた姿は今までに見た同じ境遇の人間とは違っていて、初めて見る姿に動揺してしまった。だから、ついうっかり、いいよと口を滑らせたのだ。ぽかんとしたように目をまん丸にした彼の顔を見てようやく自分が何を言ったのか気付いたが、訂正など許される場面ではないとそのまま黙り込んだ。いつも通りごめんねと言うはずだったのに、俺はどこで間違ってしまったんだろう。

 告白されて了承したら、恋人としてお付き合いスタートだ。どんな喜劇が繰り広げられるのだろうかと少しわくわくしていたが、彼は自分から告白してきたわりに何かを要求してくることもなく、人前で親しげな雰囲気を醸すことさえしなかった。おそらく傍目から見た俺達は、階級を超えた友人としか見えないだろう。それは当たらずとも遠からずといった所で、付き合うって何だろうかと思わず考え込んでしまうほど、他の友人と変わらない位置にいる人だ。今日の任務は楽だったなと思える日に飲みに誘われる程度で、夜間からの任務が入っている時や日を跨ぐ任務の後は決して声をかけてこない。受付にいるだけあってそこら辺はきっちり把握しているようで、いつも俺に無理のないタイミングを選んで控えめに誘ってきた。その僅かな逢瀬でさえ受付内で話しかけるような真似はせず、外へ出てから声をかけるという念の入れようだ。いーよと返事をすると嬉しそうに目を細め、恥ずかしげに鼻を搔く。気を遣っているのだなと分かるし、喜んでいる素振りを見れば単純にこちらも嬉しいのだが、何故そこまで遠慮するのかは分からなかった。どうせ二人で出歩くのだからわざわざ外で声をかけなくても良かったんじゃないかと不思議に思う。彼のこだわりとけじめは、俺には理解できない所に存在しているらしい。
 俺達の間で変化したことと言えば、挨拶以外の会話をするようになったことと、彼が俺を見て頬を染めて笑うようになった位。多分俺を好きなんだろうなと思わせるくせにそれ以上を望む様子がなく、告白してまで欲しかったものは何なのだろうといつも考えさせられている。赤ん坊じゃないのだから、無垢の心なんて有り得ない。きっと俺に見せない彼の心の中には、欲望だの見栄だのといった澱んだ気持ちが渦を巻いているのだろうと思っているが、それを全く感じさせないのはさすが忍といった所か。尤も彼の隣にいる俺だって、後ろめたい疑念や口に出せない疑問を抱いているなんておくびにも出さないのでおあいこだ。おままごとのような恋人ごっこはいつまで続くのか、何の感情も持たない相手の行き着く先を見たいというただの好奇心。それを満たす為だけに付き合っている俺は、欠陥品なのかもしれない。
2021/09/02(木) 16:30 三度目の恋でも COMMENT(0)
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