◆各種設定ごった煮注意
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夕方の道は、帰還した忍が報告へと向かう流れと買い物をする人々の流れが入り組んでいる。これから任務へと赴くボクは、複雑な波のどちらにも当てはまらない。
人波を避けるように歩いていると、同じように波から外れて佇む背中を見つけてしまった。いつもふにゃりと前傾している背中が何故か真っ直ぐに伸びていて、違和感に思わず足が止まる。
木の上に飛び上がりらしくない姿をまじまじと見てしまった。意味はない。なんとなくだ。ただ、なんとなく。
自分でもワケが分からずに、でも目を逸らせない。しばらく覗き込む内に、その理由がほんの少ししか見えない顔から伝わる空気だと分かって気まずくなった。
ただ、大抵の物事は気づいた時にはもう手遅れなのだ。今回もそう。
「なーに」
だよなあと諦めて木から降り立つ。バレているのだから取り繕ったって意味がないだろう。下手な言い訳を打てば余計に突っ込まれるのが常というもの。
「こっちのセリフですが」
「どういう意味よ」
「何してるんですか」
寝ぼけたような目が驚きに瞬きをして、呆れた色に染まる。
「空を見てたんでしょうよ。その目で見たんじゃないの?お前こそ何してるのよ」
「いっつもくにゃあとだらしなく猫背なのに珍しくしゃんと伸びた背筋にビックリしてしまっただけですよ」
「お前ね……」
はあーっとわざとらしいため息が聞こえたので、わあ吹き飛ばされたーとでも言って逃げてやろうかと思った。許されるはずもないのだが。
「別にふつーの空じゃないですか。何かありましたか。あ、呼び出しの式でも」
「ない。来てない。めったなことを言うもんじゃない。来たらどうする。お前に押し付けるよ」
「残念。ボクはこれから任務です」
「テンゾウなら掛け持ちなんてヨユーでしょ」
当然のような顔をするのでこちらも頷きそうになり腕を組んだ。そういう問題じゃない。乗せられてはいけない。
「式じゃないならなんです」
ふいと目線を空に上げたが、先程の空気が嘘のようにいつもと同じ顔のままだ。空の何が変わったというのか。
「空がね、夢の色だったから」
「はあ?」
「でかいな」
「もっとでっかくしますけども。はあ!?」
「お前、わりと、失礼」
クツクツと笑う声が意外でぽかんと口が開く。怒るんじゃないのか。失礼とか言ってるくせに。分からん。今日の先輩は普段に輪をかけて分からん。
「夕方の空ってほんの少しの間にどんどん色が変わっていくだろう。さっきまでは淡い薄紅色にまだ藍に染まらない紫が混ざって、空全体がふわふわしてるみたいだった」
「ああ、まあそうですね」
「お前と話してる間に、もう青が勝ってる。夕暮れになっちゃったよ」
少し立ち止まって会話していただけだ。時間だってそんなに経ってはいないのに、空の姿はだいぶ変わった。夏が終わり秋に変わったせいか、陽は気がつくと落ちてしまう。
「先生がね、好きなんだって。あのふわふわとした夢みたいな薄紅の空が、可愛くって優しくって、一日の終わりを迎える前に包んでくれるみたいで愛おしくなるんだってさ」
先生、というのはイルカ先生のことだろうか。飲み友達ができたと笑っていたのが信じられなくて、ハッキリと覚えている。はたけカカシとはこういう人だったのかと驚いた。自分の知る姿とはかけ離れている。
「いつもそんな話をしてるんですか」
「たまたまだよ。前に、飲みに行こうって約束してた日に、お互い偶然早く上がれたことがあってさ。まだ早いかなあなんて微妙に赤味の残る空の下を歩いてる時、似合わねえんですけどって教えてくれて。先生って明るくて太陽が似合う感じだからさ、すんごく意外だったのよ」
「はあ。まあ、なんとなく分かります。ちょっと乙女チックな発言ですね。想像つかないな」
「たしかに最初は驚いたけど。でも乙女チックっていうかさ、よくよく考えたらあの人そのものなのにね」
「は?」
「優しくって一日の終わりを迎える前に包んでくれるみたいで、って」
たらりと背中を汗が伝った。これは突っ込んでいいところだろうか。あえてなのかどうか、判断がつけられない。けどまあそれなら、空を見上げる姿も非常に納得のいくところではある。
が、それ聞かなきゃいけない感じか?ボクが?いま?これから任務のボクが?
「仲、が、よいんです、ね?」
「どうだろ。時間が合うこともそんなにないしなあ。誘ってくれたら行くけど、こっちからはなかなかだし」
そんな相手のことを思い出して、空を見上げてしまうとか。移り変わる空の色の、ごく僅かな時間に思わず重ねてしまうとか。
それが何かなんて、きっと誰もが知っている。本人は気づいていないみたいだけれど。
「今日は約束してないんですか」
「うん」
「誘いに行ったらいいですよ。さっき先生の好きな空の色でしたよって。それを見てあなたのことを思い出しましたって」
「そうだねえ」
困ったように笑って、もう紫が占める空を見上げている。消えてしまった色を恋しがるようにまっすぐと。見ているこちらがむず痒い。
「先輩はどんな空が好きですか」
「考えたことなんかないよ」
「じゃあそれを聞いてみてください。先生が好きな空の色はあなたそのものですね。俺はどう思いますかって聞くんですよ」
そうしたら、きっとイルカ先生も空を見るたび考える。この空の色は似合わないなとか、あの時間の空だなとか。
そのうちに、同じように見上げる人に気づくだろう。なぜ見上げてしまうのかも。世間の評判通りの人ならば、理解しても無碍にはしないはずだ。
ぽんと投げた一個の質問が先生の心に芽生える時が来たら、この人もようやく気づくんじゃないだろうか。その正体がなんなのか。
「帰ってきたら教えてくださいね」
「聞けたらね」
「聞けたら、じゃなくて聞くんですよ」
肩をすくめる先輩に一礼して歩き出した。行く先は薄暗い。さっきまで残っていた陽の名残も、とうに消えかけている。
見上げた空に浮かぶ相手もいないボクには、なんともお似合いではないか。
なんてふうに自重するのも馬鹿らしい。ボクは自分をよく分かっている。
らしくない姿に驚いたとしても、引き摺られてたまるものか。先輩のセンチメンタルを振り切るように力強く足を踏み出した。
2023/07/02
人波を避けるように歩いていると、同じように波から外れて佇む背中を見つけてしまった。いつもふにゃりと前傾している背中が何故か真っ直ぐに伸びていて、違和感に思わず足が止まる。
木の上に飛び上がりらしくない姿をまじまじと見てしまった。意味はない。なんとなくだ。ただ、なんとなく。
自分でもワケが分からずに、でも目を逸らせない。しばらく覗き込む内に、その理由がほんの少ししか見えない顔から伝わる空気だと分かって気まずくなった。
ただ、大抵の物事は気づいた時にはもう手遅れなのだ。今回もそう。
「なーに」
だよなあと諦めて木から降り立つ。バレているのだから取り繕ったって意味がないだろう。下手な言い訳を打てば余計に突っ込まれるのが常というもの。
「こっちのセリフですが」
「どういう意味よ」
「何してるんですか」
寝ぼけたような目が驚きに瞬きをして、呆れた色に染まる。
「空を見てたんでしょうよ。その目で見たんじゃないの?お前こそ何してるのよ」
「いっつもくにゃあとだらしなく猫背なのに珍しくしゃんと伸びた背筋にビックリしてしまっただけですよ」
「お前ね……」
はあーっとわざとらしいため息が聞こえたので、わあ吹き飛ばされたーとでも言って逃げてやろうかと思った。許されるはずもないのだが。
「別にふつーの空じゃないですか。何かありましたか。あ、呼び出しの式でも」
「ない。来てない。めったなことを言うもんじゃない。来たらどうする。お前に押し付けるよ」
「残念。ボクはこれから任務です」
「テンゾウなら掛け持ちなんてヨユーでしょ」
当然のような顔をするのでこちらも頷きそうになり腕を組んだ。そういう問題じゃない。乗せられてはいけない。
「式じゃないならなんです」
ふいと目線を空に上げたが、先程の空気が嘘のようにいつもと同じ顔のままだ。空の何が変わったというのか。
「空がね、夢の色だったから」
「はあ?」
「でかいな」
「もっとでっかくしますけども。はあ!?」
「お前、わりと、失礼」
クツクツと笑う声が意外でぽかんと口が開く。怒るんじゃないのか。失礼とか言ってるくせに。分からん。今日の先輩は普段に輪をかけて分からん。
「夕方の空ってほんの少しの間にどんどん色が変わっていくだろう。さっきまでは淡い薄紅色にまだ藍に染まらない紫が混ざって、空全体がふわふわしてるみたいだった」
「ああ、まあそうですね」
「お前と話してる間に、もう青が勝ってる。夕暮れになっちゃったよ」
少し立ち止まって会話していただけだ。時間だってそんなに経ってはいないのに、空の姿はだいぶ変わった。夏が終わり秋に変わったせいか、陽は気がつくと落ちてしまう。
「先生がね、好きなんだって。あのふわふわとした夢みたいな薄紅の空が、可愛くって優しくって、一日の終わりを迎える前に包んでくれるみたいで愛おしくなるんだってさ」
先生、というのはイルカ先生のことだろうか。飲み友達ができたと笑っていたのが信じられなくて、ハッキリと覚えている。はたけカカシとはこういう人だったのかと驚いた。自分の知る姿とはかけ離れている。
「いつもそんな話をしてるんですか」
「たまたまだよ。前に、飲みに行こうって約束してた日に、お互い偶然早く上がれたことがあってさ。まだ早いかなあなんて微妙に赤味の残る空の下を歩いてる時、似合わねえんですけどって教えてくれて。先生って明るくて太陽が似合う感じだからさ、すんごく意外だったのよ」
「はあ。まあ、なんとなく分かります。ちょっと乙女チックな発言ですね。想像つかないな」
「たしかに最初は驚いたけど。でも乙女チックっていうかさ、よくよく考えたらあの人そのものなのにね」
「は?」
「優しくって一日の終わりを迎える前に包んでくれるみたいで、って」
たらりと背中を汗が伝った。これは突っ込んでいいところだろうか。あえてなのかどうか、判断がつけられない。けどまあそれなら、空を見上げる姿も非常に納得のいくところではある。
が、それ聞かなきゃいけない感じか?ボクが?いま?これから任務のボクが?
「仲、が、よいんです、ね?」
「どうだろ。時間が合うこともそんなにないしなあ。誘ってくれたら行くけど、こっちからはなかなかだし」
そんな相手のことを思い出して、空を見上げてしまうとか。移り変わる空の色の、ごく僅かな時間に思わず重ねてしまうとか。
それが何かなんて、きっと誰もが知っている。本人は気づいていないみたいだけれど。
「今日は約束してないんですか」
「うん」
「誘いに行ったらいいですよ。さっき先生の好きな空の色でしたよって。それを見てあなたのことを思い出しましたって」
「そうだねえ」
困ったように笑って、もう紫が占める空を見上げている。消えてしまった色を恋しがるようにまっすぐと。見ているこちらがむず痒い。
「先輩はどんな空が好きですか」
「考えたことなんかないよ」
「じゃあそれを聞いてみてください。先生が好きな空の色はあなたそのものですね。俺はどう思いますかって聞くんですよ」
そうしたら、きっとイルカ先生も空を見るたび考える。この空の色は似合わないなとか、あの時間の空だなとか。
そのうちに、同じように見上げる人に気づくだろう。なぜ見上げてしまうのかも。世間の評判通りの人ならば、理解しても無碍にはしないはずだ。
ぽんと投げた一個の質問が先生の心に芽生える時が来たら、この人もようやく気づくんじゃないだろうか。その正体がなんなのか。
「帰ってきたら教えてくださいね」
「聞けたらね」
「聞けたら、じゃなくて聞くんですよ」
肩をすくめる先輩に一礼して歩き出した。行く先は薄暗い。さっきまで残っていた陽の名残も、とうに消えかけている。
見上げた空に浮かぶ相手もいないボクには、なんともお似合いではないか。
なんてふうに自重するのも馬鹿らしい。ボクは自分をよく分かっている。
らしくない姿に驚いたとしても、引き摺られてたまるものか。先輩のセンチメンタルを振り切るように力強く足を踏み出した。
2023/07/02
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