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 目蓋を刺す太陽の光で目が覚める。カーテンをまとめていた顔が振り向き、鳴る前の目覚まし時計も止めてくれた。
「おはようございます」
「おはようございます」
 出て行く背中を見送って大きく伸びをする。騒音にたたき起こされることない快適な目覚め。理想的な一日の始まりだ。
 顔を洗って台所へ顔を出すが、俺の出番など残っていない。かろうじて残っていた箸を持ち、卓袱台の前に座った。
 ほうれん草のお浸しにひじきの煮物、焼き鮭。味噌汁から立ち上る湯気が鼻をくすぐる。
「今日の味噌汁はさつまいもです」
「甘くて美味いですよね」
 二人で手を合わせ朝飯を食べる。二度寝に飛び起きてコップ一杯の水すら飲めず、アカデミーまでダッシュしていたのは、つい最近のことだった気がするのだが。まるで違う世界だ。
「今日は?」
「アカデミーの会議があるので、少し遅めです」
「分かりました。肉? 魚?」
「ガツンと」
「了解です」
 何を作ってくれるのか、聞くのはやめた。夜のお楽しみにしよう。
こんなに料理が得意な人だと思わなかったので、思いがけないおまけがついてきてラッキーだ。
 ひじきを摘まむ箸を見ていた彼が、時計を見て小さく声をあげた。
「そういえば、今日は早く出るって言ってませんでしたか」
「あ、やべ」
 急ぎつつもしっかりと全部平らげて立ち上がる。そのままでという声に甘え、玄関へ直行した。弁当を手渡され、勢いよくドアを開く。
 一汁三菜の朝飯に、手作り弁当と朝のお見送り。いってらっしゃいのチューはないけど、幸せな新婚の朝だ。
「ヤマトさん、いってきます!」
「いってらっしゃい、イルカ先生」
 なあみんな、知ってるか? 世界ってやつは、ある日突然ぐるりと変わったりするもんなんだぞ。


   ***


 忍界大戦が終わって世界は変わった。里の人々の意識も変化したのだろう。
 あの戦いがなければいまも一緒に笑っていた人達がいる。どれだけ大切であっても、ほんのちょっとの違いで永遠に会えなくなっていたかもしれない。
 時間もチャンスも無限ではないのだ。こぼれ落ちる前に受け止めなければ、あっという間に未来は掴めなくなってしまう。
 同じように感じた人が多かったのだと思う。里のあちこちで、仲睦まじい人々を見かけるようになった。喜ばしいことであり、まったく変化がなかった俺自身も素直に祝福している。その輪に入っていなくとも妬んだりしない。
 大事な人達が無事に里へ戻ってきてくれた。これ以上の喜びはないと心の底から思えるし、あとはまたアカデミーの教師として子ども達と歩んでゆけたらと思うばかりだ。子ども達が笑って暮らせる里にしたい。
 執務室のドアを見上げる。この部屋の主は綱手様からカカシさんへと変わった。
 新しく里長となった人も同じ志の人だと信じている。大事な子ども達の師である彼ならば、きっと木ノ葉を導いてくれるはずだ。
ドアをノックするとのんびりした声が返ってきた。ドアを開いた向こうでは、窓からの温かな日差しを浴びて六代目が座っている。
「失礼いたします。カカシ様」
「様はやめてよ、様は」
「では六代目」
「先生……」
 困ったねと見つめるのでこちらが頭をかいてしまう。立場を考えれば気軽にカカシさんなどと呼べないのは分かっているだろうに、必ず訂正されるのだ。
 カカシさんらしいといえばらしいけれども、言われる身としては少々気まずい。
「ご用件を」
「うん」
 ちょいちょいと手招きするので部屋の中央へと進み出た。執務室へ来るように言われただけで、用件までは聞かされていない。深刻な内容ではなさそうなことに、ホッとしていたところだ。
「お待たせしてすみませんでした。ようやく約束を果たせます」
「はあ。約束ですか」
「ええ」
 想定外の言葉に気の抜けた答え方をしてしまった。ニコリと笑いかける顔へ愛想笑いを返しつつ、頭の中を必死でフル回転させる。
 約束とは何だ。アカデミーの話なら、俺みたいな平の教師ではなく教頭が呼ばれるだろう。受付関係で稟議をあげていたかと考えるが、こちらも引っかかることはない。
 ならば残るは個人的な約束になるだろうが、これに関しては逆方向に確信がある。彼とは何回か飲みに行ったことはあるけれど、そもそもが売れっ子の上忍と中忍のアカデミー教師。約束など思い当たる先すら無きに等しい。
「あの、その約束というのは」
「……覚えがない」
「申し訳ございません」
 先に言ってもらえたので、若干肩の荷が下りた。言い出しにくい部分を引き受けてもらえて、素直に頭が下がる。
 しばらく固まっていたカカシさんは、机の上の巻物へと目を落とした。
「書庫の片付けをしていたら、三代目の巻物が見つかりました」
「私に関係ある内容でしたか」
 中身を確かめたら思い出すかもしれない。期待を込めた視線を注いだが、閉じられたまま開かれなかった。見せてくれるつもりはないようだ。
「仕切り直しましょう」
「え?」
「二日……いや、三日後。再度お呼びしますので、改めて来ていただけますか」
「それはもちろん」
「では」
 話は終わりだという空気に一礼して退室した。結局何を言いたいのかさっぱり分からなかった。
狐につままれたような気分のまま、再開は三日後。俺は約束の内容を、その間に思い出さなければならないだろう。



   ***


 三代目と巻物というヒントを頼りに考え続けた。だが欠片も浮かばず、これ以上考えても意味が無いと割り切った。なにせ毎日は忙しい。復興さなかの里は雑用も色々あるのだ。
 長いような短いような三日間が過ぎ、新たな呼び出しを得て執務室へ向かった。今度こそあの巻物を見せてもらえるのだろうか。
 ノックをして開いた扉の向こうには、意外な人々が待っていた。
「うみのイルカ参上致しました」
「固いよ、先生。仕事じゃないんだからもっと気楽に。話しにくいでしょ?」
「はあ、では。あの、お二人は先日お聞きした約束に関係があるでしょうか」
「テウチさんは証人。テンゾウはあとでね。最初に確認しますけど、あなた、約束や巻物に心当たりはないんですね?」
「すみません。ちっとも」
「潔いですねえ」
「時間があったので散々考えたのですが、何も浮かびませんでした」
 心なしか部屋の空気が冷えた気がする。やはり思い出すべきだったのだろうが、嘘はつけない。
 同席しているヤマトさんとテウチさんに申し訳なさが募る。俺の不甲斐なさに巻き込んでしまった。
「分かりました。単刀直入に言いましょう。イルカ先生、三代目の残した巻物の通り、あなたと許嫁の婚姻を認めます」
「はあ!?」
「結婚おめでとう」
「ちょっ、待ってくださいよ! 許嫁ってなんですか」
 カカシさんが、ぽんと一本の巻物を投げた。手元へ飛び込んだそれを勢いよく開く。

 三代目火影猿飛ヒルゼンの名に於いて、うみのイルカと      の婚姻を認める。
 ただし、双方成人の後、合意の元で成立するものとする。

「なんじゃこりゃー!!」
 えらいもんを見てしまった。目の前の文字が信じられなくて、両目を見開いて何度も短い文字を往復させる。冗談でした! って出てきたりしないだろうか。いや出てきてくれ。
 ひっくり返して明りに透かして振ってみて、あぶり出しを試そうとしたところで止めた。
いくらなんでも火影室で火の手をあげるのはマズい。それだけの理性はかろうじて残っていた。水喇叭で濡らすのは許されるかと考えるくらい、混乱しているが。
 びっくり仰天摩訶不思議な内容のこの巻物。何回読んでも文面は変わらず、三代目の直筆であることは他の誰でもない俺自身が認識しており、つまりこの巻物は疑いようもなく本物だ。六代目火影も認めている正真正銘の本物。俺の婚約証明書? だ。
「大丈夫か、イルカ先生」
 テウチさんに力なく頷き、再度巻物を見つめる。記された日付は十年以上前だ。
 俺に許嫁がいたなんて全く知らなかった。カカシさんが言っていた約束というのは、間違いなくこの許嫁との婚姻だろう。……しかし。
「質問いいですか」
「どうぞ」
「あれこれ言いたいことはあるんですけど、一番の疑問はこれ。ココです。相手の名前が読めないんですけど。どうなってるんですか、これ」
 巻物には俺の名前のあとにもやっとした空白があった。おそらくここに許嫁の名前があるのだろうが、俺にはどうやっても読めない。文字があるのは分かるのだが、ぼやけて判別できないのだ。
「それはヤマトが説明します」
「ボクですか!?」
 ここからはお前の番と、カカシさんは椅子の背に体を預けてしまった。遠慮無く浴びせられる視線を払うように、軽く手を振る。
吐きかけたため息を飲み込んで、ヤマトさんが口を開いた。
「記されている名前が読めないのは、相手が暗部だからです」
「暗部?」
 結婚の約束をするほどの接点など、どこにあったのだろうか。日常はもちろん、任務であっても接点が乏しい人達だ。彼らが出るような任務なら記憶に残っているはずだろうに。それも子ども時代になんて。
「もう十五年ほど前の話から始まります。覚えていないようですが、話の途中で何か思い出したりしたら、遠慮無く言ってくださいね。あなたの記憶が一番正しいんですから、絶対ですよ。躊躇しないでください」
 念押しされ頷く。
 俺の知らない、俺の昔話が始まった。
2024/01/14(日) 16:08 サンプル COMMENT(0)
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